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HTC株式会社

https://www.htc-wgy.co.jp/

〒060-0807 北海道札幌市北区北七条西2丁目8-1 札幌北ビル9階

011-806-3590

「業界平均の10倍!」北海道のデイサービス「我が家」運営HTCが驚異の利益率を実現できた理由

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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HTC株式会社の臼井社長
HTC株式会社の臼井社長(提供:HTC、以下同)

北海道札幌市に、業界の常識を打ち破るデイサービスが存在する。

その名前は「我が家」。運営するHTC株式会社は、介護業界の赤字経営が当たり前という現状の中で、驚異の利益率30%以上(本社経費を除く、事業所単体)を維持している。

介護事業経営実態調査では、介護事業所全般の平均収支差率はわずか2.4%。同業他社の多くが赤字に苦しむ中で、なぜこの会社だけが異次元の収益性を実現しているのか。

この会社の利益率の秘密は、一般的なビジネス書に書かれているような“誰でもできるノウハウ”ではない。

臼井宏太郎代表取締役が築き上げた独自の仕組みと、理念を行動にまで落とし込む組織文化がカギを握っているのだ。

「一見普通に見えるデイサービスが、なぜこんなにも高収益なのか?」その秘密を解き明かしていこう。

介護業界の“赤字常識”を覆す日々の管理とは?

デイサービス我が家で働くHTC社の社員の方たち
デイサービス我が家で働く、HTCの社員たち

介護業界では、赤字事業所が少なくない。

特にデイサービスでは、利用者の定期的な来所が経営を支える重要な要素だ。しかし、利用者数は日々の体調や時期によって変動しやすく、収益が不安定になりがちだ。

それでもHTC株式会社は、この変動をものともしない安定的な黒字経営を実現している。そのカギは、同社が徹底している「日次管理」にある。

HTCでは、毎日、各店舗の売上目標、実績、そして翌日の利用者数予測を細かくチェックする。

臼井氏はその意図をこう語る。「月次での業績確認だけでは、結果が出る頃には手遅れです。私たちは、日次で目標との差を明確にし、その場で対策を講じています。」

たとえば、ある店舗で売上目標に対して7万円が不足していると分かった場合、すぐに具体的な行動が取られる。お休み中の利用者には連絡を入れ、次回の来所を促す。

必要に応じて特別プログラムを即興で企画し、利用者に「行きたい」と思ってもらえる仕掛けを作る。

また、ケアマネージャーを訪問し、紹介の提案を行うこともある。こうした迅速な対応が可能なのは、スタッフ全員が「自分たちの行動が売上や目標達成につながる」という意識を共有しているからだ。

「スタッフが数字を意識する文化を作ることで、全員が経営の一部を担っている実感を持っています」と臼井氏は語る。この日次管理の仕組みが、利益率30%という異例の成果を支えている。

理念を行動に変える「ロジックツリー」という武器

HTCのロジックツリー
社内で共有しているロジックツリー(提供:HTC)

HTC株式会社の成功は、ただ日々の管理に頼るだけではない。同社のもう一つの強みは、「理念を行動にまで浸透させる仕組み」にある。

多くの企業で掲げられる「経営理念」だが、それを現場レベルで実行に移すことは容易ではない。しかしHTCでは、理念がスタッフの毎日の行動指針となるように工夫されている。

臼井氏は、「我が家に関わる全ての人の幸せ」を経営理念に掲げる。この理念をスタッフが現場で具体的に活用できるように、独自の「ロジックツリー」に落とし込んでいるという。

このツリーは、会社の事業目的を「利用者満足」と「利益の向上」という2つの柱に分解し、その達成に必要な行動を細かく整理したものだ。

「スタッフにとって理念が抽象的なものでは意味がありません。日々の仕事でどう活用するかを具体的に示すことで、全員が目標に向かって動ける環境を作っています」と臼井氏は説明する。

実際、各事業所では月次会議を通じて理念や目標についてプレゼンテーションを行い、スタッフ同士で理解を深め合う場を設けている。これにより、理念が「現場のリアルな行動」にまで浸透している。

スタッフが自発的に動く理由

臼井氏は、スタッフが経営意識を持ちながら働く理由についてこう語る。

「理念や目標を共有するだけでなく、一人ひとりのスキルやモチベーションを高める仕組みが重要です。当社では、スタッフが主体的に動くための環境作りを徹底しています。」

同社では「ラフールサーベイ」という従業員満足度調査を導入し、全スタッフのメンタルやエンゲージメントを可視化している。これに基づき、個別の面談を行い、課題があれば早期に解決する。

「一人ひとりの状態を把握し、適切なサポートを行うことで、スタッフの生産性が大きく向上します。それが結果的に利用者満足や利益率の向上につながっているのです」と臼井氏は話す。

さらに、同社ではスタッフが「自分の仕事が会社全体にどのような影響を与えているのか」を理解できる教育プログラムを実施している。

例えば、入浴介助の改善提案をきっかけに利用者の満足度が上がり、結果として新規利用者の紹介につながったケースもあるという。

「どんな小さな行動でも、会社や利用者のためになるとスタッフが実感できる環境を作っています」と臼井氏は強調する。

HTC社がWELLBEINGAWARDSで表彰される様子
アワードで表彰された際の様子

なぜ臼井氏は介護業界に挑んだのか?

臼井氏がこの事業を始めた背景には、コンサルタント時代に目にした「負の連鎖」の現場がある。彼は、赤字経営が続く事業所で職員が疲弊し、利用者の満足度も低いという現状を目の当たりにした。

「赤字の事業所では、従業員の給与が支払われないことがあり、それが利用者満足の低下や地域の信頼喪失に直結します。この負の連鎖を断ち切りたいと思いました」と臼井氏は語る。

その思いから、2009年にHTC株式会社を創業し、「人に全てを集中する経営」を実践し始めた。

介護業界の経験がなかった臼井氏だが、飲食業やコンサルタントとしてのスキルを生かし、スタッフ一人ひとりに経営視点を持たせる仕組みを導入。

その結果、創業以来、すべての事業所で黒字経営を維持するという快挙を成し遂げた。

業界の未来を示す青写真

HTC株式会社は現在、地域密着型通所介護1店舗あたりの月次売上が平均500万円。

全国平均250万円と比べても圧倒的な数字だ。さらに、2030年までに売上を13億円、従業員数を220名、事業所数を19店舗に拡大する計画を立てている。

これらの計画の背後には、スタッフと利用者双方の満足を追求し続ける「攻めの経営」の姿勢がある。

「介護業界は受け身の経営が多いですが、利用者満足と利益の両立を図る攻めの姿勢が必要です。私たちの取り組みが業界全体の指針になれば嬉しいです」と臼井氏は語る。

利益率30%を支える仕組みと理念は、単なる成功談ではなく、同業者がすぐにでも実践可能なノウハウとして注目されている。HTC株式会社の取り組みは、介護業界の持続可能な未来を示す光となるだろう。

◎プロフィール
臼井宏太郎
HTC 株式会社 代表取締役
大分県出身。外資系ホテルで飲食マネジメント、ホテルのホスピタリティを学ぶ。その後、東京の上場コンサルティング会社で企業理念や目標意識が浸透した人材育成・組織作りを学び実践する。2007年に経営コンサルタントとして独立後、介護業界でのコンサルティング業務に従事。2009年HTC株式会社を設立。現在は北海道札幌市を中心にデイサービス7店舗、訪問看護、看護小規模多機能、居宅介護支援を各1店舗運営。「我が家に関わる全ての人の幸せ」を基本理念として、「人」の可能性を最大限に引き出す経営を実践。
現在は「介護業界に関わる人の幸せ」に貢献することを目的として、セミナー講演、
メディア取材などを通じて従業員のエンゲージメントを高めるビジョナリー経営を幅広く発信する活動も行う。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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