「Kyashだからこそ向き合うべき社会課題がある」と語るのは、デジタルウォレットアプリ「Kyash」を提供する株式会社Kyashの創設者兼代表取締役社長の鷹取真一さん。
現行の日本の金融システムでは捕捉しきれていない外国人やギグワーカーなどのニーズを掬い取り、大手企業が形成する巨大経済圏とは異なる社会課題への解決策を提示する同社は、金融業界業界において、無色透明かつ中立的なベンチャー企業として独自の地位を確立してきた。
今回は、そんな同社の鷹取さんに、Kyashの持つ可能性から社会課題への取り組み、今後の展開までを伺った。
デジタルウォレットが持つ「銀行に近い機能」とは?
「新しいお金の文化を創る」をミッションに掲げる株式会社Kyashは、アプリ「Kyash」の提供を通じて、現代の人々のライフスタイルに寄り添った価値移動のインフラを創ろうとしている。
「Kyash」は、アプリの中で送金・決済ができるデジタルウォレット。入金した範囲内でVisa加盟店で決済ができるプリペイド式のカードだ。電子決済の機能はクレジットカードと類似しているが、使用実態は異なる。
クレジットカードは日本国内で月平均5~6回、週1~2回しか使われないが、Kyashは月15~16回、2日に1回の頻度で使用されている。また、単価の高い万単位の買い物に使用されるクレジットカードと比較して、Kyashを使った買い物の平均単価は2,000~3,000円。
活用シーンはコンビニやインターネットショッピングなど「日常のお買い物」に使われる傾向がある。このように、小回りの利く電子決済アプリとして活用されるKyashだが、より特筆すべき特徴は、「銀行に近い機能」を持つ点にある。
株式会社Kyashは、資金移動業者の指定を受けたFintech企業。資金移動業者とは、本来銀行に限定されていた一部の業務を例外的に行える事業者のことだ。資金移動業者であるがゆえに、Kyashは、交通系ICカードのようなチャージ式プリペイドカードにはない送金や現金の引出し、後払いサービスの支払などといったサービスも提供できるのだ。
鷹取さんは、Kyashとそれらのプリペイドカードとの違いをこう説明する。
「一般的にプリペイドカードへチャージすると金額が増えていきますが、一旦チャージしたらそれを現金として引き出すことはできません。しかしKyashなら、一部例外はあるもののチャージした額を出金したり、送金された側が現金で引き出せたりします。1口座あたり100万円の保有制限はありますが、一定の制約の基で銀行が行う為替行為を行います」。
無色透明で中立なデジタルウォレットアプリ「Kyash」だからできること
同社は2023年1月、創業8周年を迎えた。従業員数は約100名を超える体制となり、アプリダウンロード数は200万人を突破している(2022年10月5日プレスリリース時点)。Kyashのメインユーザーは、都市部に暮らす20~30代。チャージした範囲内でVisaカードの決済ができるため、クレジットカードが持てない人でもカードを持てる。
鷹取さんによると、「就労などで日本に来られた外国人移住者だけでなく、フリーランスやアーティストなど、現状の日本の審査では通りづらい職業を生業にする方々からもニーズがある」という。画一的な日本の金融システムではもはや、変わりゆく社会のありように対応できなくなっているのだ。
近年、大手企業が提供する電子決済サービスが急速に普及しているものの、大きな経済圏のもとではこぼれ落ちる課題がある。一方、Kyashは、大手企業が提供するEコマースやキャリアに組み込まれた決済サービスではなく、純粋に「価値移動のインフラ創り」に主眼をおいたサービスといえる。
「中立的で無色透明なベンチャー企業だからこそ掬い取れるニーズがあり、向き合うべき社会課題がある」と、鷹取さん。先に口にしていた「外国人移住者」が抱える課題も、そのひとつだ。
ブラジルの国民的人気アニメとタイアップ。移住者の生の声を聴く。
2022年11月、代々木公園で開催されたブラジルフェスを皮切りに、Kyashは、在日ブラジル人向けカード「MAURICIO STUDIO CARD」の発行を開始した。カードには、ブラジルの国民的人気アニメ「Monica And Friends(モニカ&フレンズ)」のイラストがデザインされている。
このチャージ式プリペイドカードは、同アニメの作者であるマウリシオ・デ・ソウザ氏のプロダクション、マウリシオ・デ・ソウザ・プロダクションズ・ジャパン株式会社とのタイアップ企画として実現した。
ブラジルで「モニカ」を知らない人は居ないというほどの認知度を誇るキャラクターに引き寄せられ、多くのブラジル人がブースで足を止めた。
「日本で口座は作れるけど、カードが作れなくて困っていたんだよ」と、その場でカードを申し込む人も。実際に日本で生活する外国人の生の声に触れた2日間だった。
外国人労働者が直面する金融システムの課題をKyashで解決
就労や就学で来日した外国人がまず直面する金融システムの壁が、銀行口座の開設だ。日本で外国籍の人が銀行口座を開くには、一般的に6カ月の滞在期間を経る必要がある。
それまでは通常、自国の銀行口座から引き出した現金を使うこととなるが、そうすると為替レートの影響で割高になってしまう。
6カ月が経過すると銀行口座は開けるものの、「今度はクレジットカードの発行の障壁が立ちはだかります」と鷹取さん。
「日本国内で発行されたカードでなければ決済できない店も多く、カードが使えない不便さを日常的に強いられる」という。
Kyashは、こうした日本で暮らす外国人の課題に解決策を提示する。
Kyashはアプリ上で即時バーチャルカードが発行され、コンビニでチャージすればすぐに決済ツールとして使える。UIのシンプルさにも定評があり、日本語に不慣れな人でも直感的に操作が可能だ。
「日本でクレジットカードが作れなくて困っていた。」というブラジル人の悩みは、来日した外国人皆の悩みでもある。
「MAURICIO STUDIO CARD」を打ち出したKyashの取り組みは、ブラジル人をはじめとした外国人労働者に社会包摂を敷く大きな可能性を秘めているのだ。
「外国人労働者をメインターゲットにKyashを開発したわけではありませんでしたが、今後、日本でも移住者や外国人労働者が増えていくでしょう」と見込んでいる。
デジタル給与の解禁は大きな業界の転換期!
来たる2023年4月、いわゆる賃金のデジタル払いが解禁される。これまで現金か銀行口座などへの振込みに限定されていた賃金の支払方法が、資金移動業者の口座へのデジタル払いにも拡大されるのだ。
鷹取さんは今回の法改正を、「日本の金融業界にとって歴史的な転換期」と歓迎する。Kyashも勿論、積極的に賃金のデジタル給与払い指定資金移動業者へ参入姿勢を見せている。
賃金のデジタル払い解禁後、具体的にはどのような変化があるのだろうか。役務提供があればその都度労働債権が発生するので、本来、『毎日が給料日』ということもあり得ますが、なぜ毎日支払われないかというと、それはシステム上の困難があるからです。
「賃金のデジタル払いが進むと、仕事が終わった後に労働者がボタンを押すだけで支払い手続きが完了するような仕組みも実現するかもしれません。さらにそれが自動化されれば、企業側の経理や労務担当にもメリットがあるのではと思っています」(鷹取さん)。
進化を続けるKyashの可能性とこれから
プリペイド式Visaカードの発行、電子決済、送金など、デジタルでお金を「使う」機能を備えたKyashは今後、賃金の受け取り口座としての機能、そして貯蓄や運用といった「増やす」ための機能の追加も見据えている。
独立系決済サービス事業者として、10年近い歳月をFintechベンチャーとして生き抜いてこられたのは、Kyashの思想や世界観に共感し、使い続けるユーザーがいるからこそ。
鷹取さんは、ユーザーをはじめとするステークホルダーへの感謝を口にする。
「必ずしも『全ての観点においてKyashが優れている』からではなく、『Kyashに可能性を感じる』という思いで使い続けてくれている数多くのユーザーに支えられています。そんなユーザーの皆さんをはじめ、さまざまなステークホルダーに感謝しています。これからも、ステークホルダーの皆様の期待にお応えできるようなサービス創りをしたいと考えています」
日本の金融システムに風穴を開けようと奮闘してきたKyash。既存のシステムからこぼれおちる人々のニーズを包摂しながら、変わりゆく社会とともに進化を続けていくことだろう。