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幸福経営学とユーダイモニア【前野隆司 慶應義塾大学教授】

イベント

新井和宏さんが提唱する「共感資本社会」。我々が「共感資本」を理解するためには、共感を感ずる人間の心を深く考察する必要がある。そこで、今回、日本における幸福経営学の第一人者であるとともに、株式会社eumo最幸顧問でもある、前野隆司先生に「幸福経営学とユーダイモニア」をテーマに講義をいただいた。先生によると新井さんの話は、最新の心理学の観点から理論的に裏付けることができるという。

 

(本稿は、2019年3月9日に開催された「第1回 Eudaimonia Forum 2019~共感資本社会の実現を共に考える」をもとに、「共感資本社会」が初めての方にもわかるように、その1に続き編集したものです)

前編はこちら

 

なぜ「幸福経営学」の研究をはじめたのか?

 

-私は、もともとはキヤノンのエンジニアでした。たまたまご縁があって大学教員に転身し、機械工学、ロボットの身体、ロボットの心、そして人間の心、人々のイノベーションマインド、といったテーマで研究を進めてきました。

 

そして、10数年前から幸せの研究に着手しました。人を幸せにする会社への投資という新井さんとはまた違う角度から、エンジニア視点での幸福探求を始めたのです。カメラやロボットなど、いろいろなものを作る目的は、人々の利便性向上や、幸せのためであったはずなのに、実際には幸せになっていないかもしれない。だとすれば、それはエンジニアの行動としておかしいのではないか? 人生賭けての空回りになるのではないのか? という疑問が湧いてきたからです。

 

そもそも、今までのものづくりでは設計論の中に幸福が入っていない。だから、幸福を織り込む必要があるのではないかと考えました。例えば、カメラの設計パラメータの中に、シャッタースピード何秒以下、重さ何g以下、価格何円以下といったものがありますが、その中に人が幸せになるような要素を織り込むべきではないか?ということです。

 

カメラで写真を撮ったら人が幸せになるだけでなく、この街に住んだら、この会社に入ったらといった、あらゆる人々の活動に際し、すべての仕事は、人々の幸福に、直接的・間接的に関わっているはずです。よって、本来あらゆる物事の設計論のなかに幸せになる仕組みが入ってないと、人々は幸せになれないのではないか。ところが、現状の資本主義ではそうじゃなくて、儲かっていればそれで良しとされてしまう。これはおかしいのではないのかという問題意識がありました。

 

始めの数年間、幸せとは何かを解明することに情熱をつぎ込みました。実は、新井さんが話している「自己実現する。共感し合って、つながり合う。自分と他人を比べない。自分は自分として生きる」と幸せになるといったことは、すでに世界中の幸福学研究者により、学術的に検証されているのです。

 

そして、その次に人を幸せにする経営についての学問である幸福経営学の研究をするようになりました。実際に社員の幸福を目的として、いい会社を作ろうと経営をしている伊那食品工業などに行ってみると、社員は皆幸せそうに働いています。そういったすばらしい数々の企業に触れて、自分も幸福経営を広めることに貢献したいと考えるようになったのです。

 

幸せを定義するには?

 

 

-幸せについて語るには、はじめに幸せを定義する必要があります。それには、さまざまなアプローチがありますが、代表的なものの一つは哲学です。哲学では2500年以上も前、古代ギリシャの時代から幸福について考えられてきました。しかし、「幸せとは何か」という問いは非常に難しい問いです。一つの価値を徹底的に明らかにするのが哲学なのですが、アリストテレス以来幸せとは何かを考え続けているものの、共通の答えはなかなか出せません。

 

一方、私の研究のベースは心理学です。心理学の世界では、幸福について40年前から研究しているエド・ディーナー先生が幸福研究の第一人者です。心理学は、統計的に比較可能な量によって幸福を捉えるアプローチです。例えば、1万人にアンケートをとり、データをグラフにして、利他的な人と利己的な人ではどちらが幸福なのかを見ていくと、利他的なほうが幸福を感じられるという結果が得られます。つまり、幸不幸の全体像を統計的に明らかにするというやり方が心理学の手法なのです。

 

さて、次にユーダイモニアという概念について、先ほどの新井さんの話を少し補足します。ユーダイモニアというのは古代ギリシャの哲学者による幸福学用語です。当時はユーダイモニアとへドニアが対になるものとして考えられていました。

 

へドニアは快楽主義と訳されます。お金を獲る、おいしいものを食べる、出世するといった、短期的に喜びを感ずるものです。その積み重ねが幸せなんだという考え方ですね。

 

一方ユーダイモニアは幸福主義と訳されます。長期的視点で、本当にやりたいことをやったり、本当に社会のために貢献することが幸せになるのではないかという考え方です。しかし、高尚な幸福であるユーダイモニアは、現代の心理学では、定量化することが難しく分析しにくいとされています。

 

今では古典と位置付けられますが、この分野に挑戦してきたのが人間の成長を研究する、マズローやアドラーなどの人間性心理学という分野です。統計学や実験を中心とする現代心理学とは別の分野と考えられていますが。

 

ユーダイモニアに実践的に挑戦しているのが、株式会社eumo や、eumoの取締役でもある水野さんのユーダイモニア研究所なのです。両者ではこの方法を活用し人間の成人発達度を測定していこうとしています。まだ、いろいろ課題はあるとは思いますが、A社とB社でそれぞれ1,000人づつを測ってみて、どちらが人間発達が進んでいるかを見られるようになりました。大雑把に掴めるようにはなってきているので、ぜひ今後にご期待ください。

 

 

幸福とは何か?

 

-それでは、現代心理学によって幸福を定義するとどうなるか? 心理学では幸せのことを、happiness and well-beingといいます。happinessという言葉は英語では感情を表す言葉です。つまり、happyは、嬉しい、楽しい、悲しい、落ち込んだ、などの感情と同じ範疇の概念なのです。

 

しかし、幸せは感情表現でないときにも使います。「顔は笑っていないけど幸せだ」、「辛いこともあったけど、力を合わせて何とかなった、幸せな人生だったよね」などという場面ではhappyは使わない。つまり、happyはへドニアに近い言葉なのです。happyはhappenと語源が同じです。何かが起きて、その一瞬で「やったー」と喜びが湧くイメージと言えます。

 

一方、well-beingとは、良好な状態のことで、心、健康、福祉の面を含みます。つまり、心が良い状態、からだが良い状態、社会福祉が充実している状態を言います。

 

このようにhappiness、幸せ、well-beingはそれぞれ意味が違い、心理学では広い意味で幸福をhappiness and well-beingというのです。

 

ユーダイモニアとへドニアに関連して、実は、長続きする幸せ、しない幸せがあることをダニエル・ネトル先生が明らかにしました。長続きしないほうは、地位財を求める時、長続きする方は非地位財を求めるときです。これらを踏まえてまとめますと、次のスライドのようになります。

 

 

左側が長続きしないhappiness、へドニア的な領域。つまり、地位財=金、物、地位は長続きしません。続かないので、これらをもっともっと沢山得たいと求めるようになります。これが今の金融資本主義社会の姿ではないでしょうか。

 

もともとお金は、物と物を交換し、便利にするために使われ始めました。しかし、貯める、投資するということができるようになると、人々はこれを欲しがり、金融資本社会を肥大化させてしまいました。

 

一方、右側が持続的幸福としてのユーダイモニアです。こちらは、安心、安全な社会、健康、心の良い状態です。この中に、自己実現のために学んで成長する、あるいは、利他的で、自分と人を比べすぎないといったものが含まれます。つまり、これらが非地位財というもので、今の言葉では、共感資本、公益資本、学術用語では社会関係資本に近いと思います。

 

今、人と人の関係、社会関係資本が注目され、金融資本主義と違った価値観を加えていったほうがいいと言われています。社会学、経済学、政治学、経営学、工学など、心理学以外のいろいろな分野で、研究が進んでいます。

 

心の共感、ともにやりたいと思うことのほうが大事な時代になってきたと多くの人が考えるようになりました。しかし、考えてみてください。もともと人類はそうだったのです。原始人だって、最初は獲物を獲ってきてよかったなあと皆で喜んでいたはずです。ところが、いつの間にか、石器をつくる、芋をつくるなどの役割分担が進み、組織がどんどん細分化されていき、資本主義が確立し、活動が肥大化していくにつれて、もともとの共感を忘れるようになったのが現代人なのではないでしょうか。

 

つまり、古代ギリシャの頃から2~3千年もかけて、社会を発展させてきたつもりだったのに、気がついてみると長続きしない幸福のほうを重視するようになってしまった。よって、これからは、いかに右側(長続きする幸せ)を取り戻していくかということが大切だと思います。

 

 

幸福を分析した4因子とその関係性とは?

 

-さてこういった右側にあるユーダイモニア的、心の良い状態、共感資本を因子に分解し、分析したのが私の研究です。多変量解析の一種である因子分析によって求めました。因子は全部で4つあります。エンジニア視点としては、ものづくりにこの4つの因子を入れて、それを高めていくような商品サービスを設計するときに使えます。あるいは、新井さんの話に関連づけて考えると、地域通貨eumoの中にもこの因子が入っている事が理解できると思います。

 

具体的には、幸福を構成している4つの因子は次の通りです。

 

第1因子:自己実現と成長の因子(やってみよう因子)  

まず、これがユーダイモニアの自己実現と生きがいに対応します。自己実現と成長は大いに関係があって、夢をもって生き生きと、それを実現しようと活動している人は成長していきます。自己実現の姿は画一的ではありません。100人いれば、100通り、1億人いれば1億通りの自己実現があるのです。

 

このように、一人ひとりが、自分の自己実現の目標を目指して成長する社会が、幸せな社会です。よって、eumoアカデミーで学んでより良い自分になろうと活動すること自体が幸せな活動です。新井さんの話で言えば、知識を水平方向に拡げていくのではなく、垂直方向に自分を高めていく、美意識の高い人に成長していくということが、第1因子を満たし幸福度を深めていくことになっていきます。

 

第2因子:つながりと感謝の因子(ありがとう因子)

新井さんの「共感」とほとんど同じ意味合いです。幸福になるためには相手に感謝することが重要です。感謝し合っていると共感とつながりが強化されます。

 

ところで、感謝するから幸福なのか、幸福だから感謝するのか? どちらが原因でどちらが結果になるのかという議論もあります。結論は、「どちらも原因にもなり結果にもなる」です。幸せな人はよく感謝するし、感謝をよくしていると心が温かくなり、脳内ホルモンである、セロトニン、オキシトシンが出てきます。これは介入実験、時刻歴調査など、いろいろな方法で検証されています。感謝すると幸せになるし、共感すると幸せになる、幸せになると感謝するし、共感するということです。

 

また、多様な友人を持つ人は、少ない人よりも幸せだということがわかっています。私のところにいる学生が、いかに孤独を無くすかという研究をしています。そこでは、友達がいない人は明らかに幸福度は低いという結果が出ています。私が、博報堂と行った調査で日本人に友人の数を聞いたところ、友達ゼロ人という人が9%いました。そして、この人々の幸福度は低かったのです。ざっくり1,000万人は友達がいないということです。つまり、いかに繋がりをつくるかが孤独による不幸を減らすのに役立つのです。

 

さらに、友達の数が単に多いことよりも多様なことがより幸せにつながります。先ほどの新井さんの話では、鎌倉投信時代に多様ないい人と出会うと、心が豊かになったということでした。その時、愛情ホルモンと言われるセロトニンとオキシトシンがドーっと出たはずです。つまり、より幸せになるためには、特定の仲間ではなく多様な人と会うべきです。閉ざされた世界で、気の合う限られた仲間といればよいというのは間違いで、eumoポイントであっちのいい人、こっちのいい人に会ったほうが幸せになれるわけです。

 

第3因子 前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)

楽観とは「なんとかなる」と思える心の状態です。日本人はなんとかなるという因子が弱い傾向があると言われています。また、楽観的では困るんじゃないか? と言う人もいます。「原子炉を適当に造っておいたけど、まあいいか」だと確かに困る。

 

しかし、楽観にはいい楽観と悪い楽観があります。悪い楽観は、適当、いい加減といったも

のです。では、良い楽観とはどんな楽観でしょうか? そもそも楽観的というのはoptimisticといって、optimum(最適)と語源が同じです。つまり、こうすれば絶対ここに行けるという前向きで強い意識なのです。やるべきことはすべてきちんとやったから絶対大丈夫という感覚が良い楽観です。

 

オリンピック選手が本番に望むとき、「やるべきことはすべてやった、本番は自分のために楽しみます」という。あれが本当の楽観ですね。細かいことを気にしがちな日本人ですが、細かくやりながら最後は大丈夫という思いの人が幸せになれるということです。

 

それから、イノベーションに関わったり、やったことのない仕事をするなど、新しいことに飛び込むときには、なんとかなるという因子は重要ですよね。なんとかなるからやってみようと決断できるわけですから。

 

実際私も、幸福学を始めた頃、宗教がかっていて大丈夫なのかと言われたこともあります。いろいろ言われてもなんとかなる。自分たちを信じてなんとかなる、仲間を信じてなんとかなる。そう思わないと新しいことはできません。皆さんも是非なんとかなると信じて新しいことにチャレンジしてください。

 

第4因子、独立と自分らしさの因子(ありののまま因子)

人の目を気にしていると、人と自分を比較しやすい地位財、金、物、地位など長続きしないものを求めたくなってきます。これはあいつに勝ちたいという個体維持本能なのです。

 

私の研究室に、利己性と利他性の研究をした学生がいました。利己的な欲求は20代が一番高いという傾向が明らかになっています。ただし、利己的な欲求の中には、自分を高めたいという気持ちが入っています。私も恥ずかしながら、20代のころは「絶対有名になってやるぜ」などと思っていました。

 

しかし、利己的な目標を一定以上達成すると、人目を気にすることがなくなり、ユーダイモニアに近づいていきます。つまり、自立して人の目を気にせず自分のペースでこれをやるといったことができるようになると、人は幸せになれるのです。

 

さて、4つの因子の関係を整理するとこうなります。図の上側は、やってみよう、なんとかなる、ありのままに。これらが、どちらかというと、欧米の個人主義に近い、ドーパミンがでる領域。第1、第3、第4因子で、新しい世界をつくる力が生まれます。今回のように新しい社会制度へのチャレンジをする際には、人が何と言おうとやってみようという因子が重要となります。

 

 

個人の在り方として、人がなんと言おうとやるという意識と共に、関係性の質を決める第2因子が重要になります。図の下側です。ありがとうと感謝して、利他的で、共に共感できる仲間がいるという社会関係資本です。4つの因子がそろってはじめて、チャレンジと共に共感できるバランスが取れた幸せを得ることができるのです。

 

昔の日本では、和を尊び出る杭は打たれるといった考えが主流で、社員は自分らしさを押さえ組織に貢献するということをやってきました。それが、一転、戦後になると個人も都会に出てきて一旗揚げるという価値観に変わりました。そして、バブルで失われた何十年を過ごした結果、ウェットな家族主義経営はやめて、合理的で効率的な、個人のリーダーシップを重視する経営という方向に舵を切ったわけです。

 

しかし、第2因子が足りずに、孤立した状況で、やってみろ、ありのままにと言われても、バーンアウトしてしまいます。仲間がいる、失敗したら俺が責任を取るという上司がいる、といった共感と信頼のつながりが必要となるのです。

 

 

幸せと人間の成長は関係ある?

 

-次に、幸せと人間の成長には関係があるかどうかを考えてみましょう。お気づきのように明らかに関係があります。人間は自己実現に向けて成長していくと、人間関係も豊になり、どんどん幸せになっていくようにできています。

 

次のスライドは、先ほどお話しした人間性心理学が盛んだった時代に流行っていた成人発達理論の一例です。利己的だった人が、良き市民となり、独自の価値観に目覚め、社会を変えるリーダーシップを発揮するようになっていくといったような成長の理論です。

 

出典:加藤洋平先生のHP

 

ケン・ウィルバーも同じような話をしています。組織論では、最近、ティール組織の重要性がよく取り上げられています。

 

 

このように諸説があり、人間性の発達について細かく、いろいろと言っている人がいます。私は、単純化するとこうなると考えています。

 

 

横軸は「自分を愛す」(Love yourself)。縦軸は「みんなを愛す」(Love others)。

人は、自分を好きになる、皆とともにいたいと思う、というこの二軸の中で成長していくのです。非常にシンプルでよすね。階段を書くと違和感があるという人もいるので、日本的には何々道のほうがしっくりくるのかもしれません。

 

華道、茶道、武道………それぞれ段位があって、どこまで行っても先があるといった感覚。道を歩むとき、前を行く人が偉いのではなく、皆が歩いている。ずっと完成を目指して歩み続ける。しかし、完成しない。これにさっきの4つの因子を入れると次のようになります。

 

 

横軸の自分への愛とは、自分を高めることです。1、3、4の因子でどんどんチャレンジする。縦軸のみんなへの愛は、第2因子です。つながって共感しあって、みんなとともにあり、みんなへの愛を高めていくということです。

 

この二軸の間で、人それぞれのルートをたどって成長し、幸せに辿り着く。左上の方に階段をあがりがちなのが、看護師、介護士、ボランティアといった利他的な方。ただし、縦軸だけが強いとバーンアウトしやすい。震災復興ボランティアで頑張っていたら自分も鬱になってしまうということが起きます。つまり、横軸も高めることが必要なのです。「ボランティアで世の中を変えるのだ」といったような、自己肯定感の高い力強さも必要なのです。

 

一方、「おれは金持ちになってやるぜ」と利己的な方向に邁進する向きもあるでしょう。図の右下にいる人です。たとえばビル・ゲイツは、事業で成功した後に、慈善事業を始めました。この図の中でまずは右に進んだ後で上に上がり、最後に右上にたどり着いたように見えます。つまり、みんなとともにいい社会を創ったほうが幸せだと気づいたのだと思います。

 

では、あなたは今どこにいるのか。eumoアカデミーとは、これを学び、高めていく場です。哲学、心理学………様々な角度から多面的に学び、幸せの道を歩んでいくことができます。

 

 

最近、コンパッション、セルフコンパッションという言葉が流行っていますが、仏教的に説明するとこの図のようになります。

 

マインドフルネスの瞑想では、例えば、自己肯定感の低い人、自分に何にも得意なものはない、私の価値は低いと思う人は、「私が幸せでありますように」という瞑想から始めると効果があると言われています。右に向かう力を高める方法(セルフコンパッション)です。一方で、「みんなが幸せでありますように」と考えるのが、上に向かう力を高める方法(コンパッション)です。実際のセルフコンパッション・コンパッションの瞑想は以下の通りです。

 

①私が幸せでありますように

②まわりの人が幸せになりますように

③苦手な人も幸せになりますように

④世界中の生きとし生けるものが幸せになりますように

 

仏教で最終的に辿り着く幸せは、悟りの世界です。

 

一方、古代ギリシャでは、愛がエロス、ストルゲー、フィリア、アガペーといった順に成長し、幸せが高まっていくと考え方られていました。このアガペーをキリストの愛と考えたのが、後のキリスト教です。

 

 

以上のように、古来、人間の成長について、仏教、ギリシャ哲学、キリスト教、昔の心理学者が目指したものを、私なりに単純化して整理したものが、この二軸図です。このように、人間の成長と幸せは大いに関係があるのです。

 

 

幸福経営の実践事例

 

-最後に、世の中に共感資本に基づく幸福な経営を広めていくという観点から、伊那食品工業の塚越最高顧問の話をします。新井さんの言われる通り、こういった、いい会社に行くと心が洗われて豊かな気持ちになります。

 

伊那食品工業の経営は非常にユニークでして、例えば以下のような方針で会社を運営しています。

 

目先の効率は求めない/売り上げや利益の目標をたてない/業績の評価はしない

会議に資料もない/会議で報告もしない/給料に差をつけない・・・/朝はみんなで掃除をする

 

こんな会社なのですが、塚越最高顧問に質問したことがあります。「差をつけないと、がんばる人が報われず不満が出ませんか? 出来の悪い社員がさぼったりしませんか?」。すると塚越さんはおっしゃいました。「前野さん 子供いる? 子供に小遣いあげるとき、こっちは出来がいいから、多めに、こっちは悪いから少なめにといって差をつける? つけないでしょ。うちでは、子供にしないことは社員にもしないのです」と。

 

また「資料なしに会議すると困るんじゃないですか?」と問うと「前野さん 家族で話し合いするとき、資料、使う? 使わないよね。資料作ると無駄がついつい増えるでしょ?」とおっしゃいます。

 

こうった考え方に皆が共感し、経営しているわけです。最高顧問も、会長も、社長である息子さんも、社員の皆さんも、みんな同じことを言う。心が整っていて共感しあっていて、より良い会社をつくっている。こんな会社が世の中に溢れるよう、共に歩んで、みんなが幸せになれる社会を創りましょう。

 

最後に、もう一つ質問しました。「こういった経営は、伊那食品さんだからできるのであって、大企業や、日本社会全体で考えると難しいのではないでしょうか?」答えは以下でした。「トヨタの豊田章男さんがうちにきて以来、大企業でもできないかを一緒に考えています。うちでできることがトヨタでできないはずがない。トヨタでできたら日本でできないはずがないし、日本でできたら世界でできないはずがないよね」

 

本当に、みんなが本気になって共感資本社会をともに創ろうと思えば、実現できるのではないでしょうか。資本主義はたまたま他よりも「よりマシ」な制度だったにすぎない。いつかは変わるときが来ます。本気でみんなが目指せば、変えられます。皆さん、ともに行動を起こそうではありませんか。

 

 

前野隆司先生

 

<プロフィール>

1986(昭和61)年3月 東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了

1986(昭和61)年4月 キヤノン株式会社入社 生産技術研究所勤務

1990(平成2)年7月 カリフォルニア大学バークレー校機械工学科 Visiting Industrial Fellow(~1992(平成4)年6月)

1993(平成5)年12月 博士(工学)学位取得(東京工業大学)

1995(平成7)年4月 慶應義塾大学理工学部機械工学科専任講師

1999(平成11)年4月 慶應義塾大学理工学部機械工学科助教授

2001(平成13)年4月 ハーバード大学応用科学・工学部門 Visiting Professor(~2001(平成13)年9月)

2006(平成18)年4月 慶應義塾大学理工学部機械工学科教授

2008(平成20)年4月 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

2008(平成20)年6月 慶應義塾大学環境共生・安全システムデザイン教育研究センター長兼任(~2013(平成25)年3月)

2011(平成23)年4月 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長およびシステムデザイン・マネジメント研究科付属システムデザイン・マネジメント研究所長兼任

2017(平成29)年8月 慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任

 

2018年9月より、株式会社eumo最幸顧問を兼任

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