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「売るな!」の哲学|かっぱ橋商店街「飯田屋」に学ぶ従業員というステークホルダーの育て方

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pixabayより

浅草かっぱ橋商店街で創業100年を超える老舗料理道具専門店「飯田屋」。リアル店舗が苦戦を強いられる現代において、数多くのリピーターを抱える人気店だ。その魅力は豊富な知識量を誇る店員たちと、品揃えの豊富さ。時には海外から訪れる顧客も少なくないという。飯田屋は売り上げ目標なし、定例会議なしなど革新的な経営方針を実施している。売り上げ目標がないのに、なぜ従業員は自らお客様と向き合うのか?その秘訣から従業員というステークホルダーの育て方を学ぶ。

  1. 売り上げ目標を設けることで生まれる営業のデメリット

接客業に関わらず、営業には売り上げ目標を設けている会社がほとんどではないだろうか。近年では社員毎の売り上げ達成率を可視化する営業支援ツール・SFAを導入している企業も多いだろう。在宅ワークなども増える中、DXを推進し営業効率を高めていくことは企業における急務である。

しかし一方で、売上目標を達成することが目的化しすぎるとデメリットも。まず、営業効率を上げることに従業員の関心が向きやすい。すると顧客との無駄な世間話はなくなり、顧客との対面時間が短くなっていってしまう。顧客数を増やし、契約数を増やすことで売上が上がり、会社からの評価に繋がるからだ。結果、顧客との何気ない会話から生まれる新たなビジネス課題を拾ったり、顧客がまだ気づいていないニーズを探ったりといった細やかな行動が損なわれてしまう可能性があるのである。

  1. 飯田屋が定めた営業方針は「売るな」

そんなデメリットにいち早く直面し、営業方針を変えたのが老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目の飯田結太氏。メガネや蝶ネクタイが特徴的なその姿を、TBS「マツコの知らない世界」や日本テレビ「ヒルナンデス!」で見たことがある方も多いのではないだろうか。飯田氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)によれば、飯田屋の営業方針は「売るな」。売り上げ目標は定めず、目の前のお客様にはいくら時間をかけても良いという。一見非効率に見える経営手法だが、飯田氏は著書で、「ときとして売上目標は目の前のお客様に真摯になれない一瞬を生みます」と述べている。顧客が数字に見えてしまい、顧客1人1人に寄り添う姿勢が欠けてしまうのだ。

顧客のニーズに気づかないフリをしたり、提案に怠けが生まれたりすると、従業員にも「心の傷」が生まれてしまう。従業員に“自分は何をやっているんだろう”“こんなことをするためにこの会社に入ったんじゃない”という思いが生まれると、離職リスクにも繋がりかねない。飯田屋が目指すのは「目の前のお客様を大切にする」ということ。1人のお客様に対して160時間、1ヶ月まで充てて良いと定めているという。

柔らかい食感を生み出すおろし金を求める料理人や、ニッケルアレルギーの子供にケーキを食べさせたい父親、左利きの料理人など様々なニーズと課題を持ったお客様が飯田屋に訪れる。丁寧すぎるほどの接客と店員の知識、そして過剰とも思われるほどの在庫により、“飯田屋のあの店員から料理道具を買いたい”と指名買いさせることに成功している。

 

  1. 明確な裁量を渡すことで従業員に自主性が生まれる

飯田屋が従業員に許容しているのは、接客時間だけではない。お客様のために良いと思った商品があれば、自らの判断で仕入れることができる。与えられた金額は、年間で「アルバイトは300万円」、「正社員は500万円」「役職者は2000万円」だ。当初は上限を決めていなかったが、いきなり「好きにやっていいよ」と言われても動けない従業員が多かったそう。そこで明確な金額を定めることで、リスクを恐れずに挑戦しやすい土壌を整えたのだ。飯田氏は、「簡単には手が届きそうにない大きな枠があって始めて、自由に動けるようになります」と述べている。

現場で常に顧客と接している営業や従業員たちは、リアルな課題やニーズに気づきやすい。従業員が自主性を持って動ける仕組みを作ることで、より求められる商品開発やビジネス開発に繋がるのではないだろうか。

 

  1. ステークホルダーへの信頼が企業の生き残りに繋がる

かつて飯田氏は従業員に売り上げを上げるよう強いマネジメントをかけることで、集団辞職を経験したこともあったという。いくら正論を突きつけ無理やり高い売り上げ目標を達成させようとしても、従業員の信頼はなくなっていくばかり。従業員の働きにくさは、やがて顧客の喪失にも繋がるだろう。そこで飯田氏が突き詰めたのが、売上目標なし・160時間ルール・従業員に裁量権を渡すと言った経営方針だ。従業員というステークホルダーを信頼し、従業員・顧客などのステークホルダーから信頼される企業を目指す。そのことが、今後は企業の生き残りを左右することになるだろう。

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