
インターネット黎明期から今日にかけて、IT業界を牽引してきた大御所と聞くと、どんな人を想像するだろうか。その人はビル・ゲイツとも繋がりがあり、3回の上場を経験し、今なお国の要職についている。
多くの人が想像するのは、株主至上主義な思考を持つ、経営者の姿ではないだろうか。
ところが、その人の名を冠したホールが、慶應義塾大学にある。東京大学の天文台や京都大学の3.8M天体望遠鏡プロジェクトも、この人の寄付があったから、スタートしたと大学のサイトに明記されている。
どんな人なのだろう。
いい会社とは何か。社会の公器を探るシリーズ。
その人の名は、藤原洋。株式会社ブロードバンドタワー代表取締役 会長兼社長 CEO・技術経営士という肩書だ。
岸田総理が所信表明演説で、「デジタル田園都市国家構想」を「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の第二の柱と位置付けたことは記憶に新しい。
大胆なIT投資で地方振興を図る同構想には、総額5.7兆円の予算が投じられるという。藤原さんは、この流れに呼応するように、産学官連携の新しいプラットフォーム「一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団」を立ち上げている。
取材は、株主至上主義の否定から始まった。「デジタル田園都市国家構想」時代に求められる技術経営戦略とテクノロジーマネジメントの要諦を伺いながら、社会の公器とは何かを探る。
社会を変えるのはテクノロジー、企業競争力の源泉は技術経営戦略


株主資本主義経営の弊害

技術で未来の企業価値を見る技術経営にシフトせよ


未来の財務価値を生む非財務情報を見抜く


R&Dや産官学連携への投資は、社会貢献であり未来への投資




イノベーションの原動力となる熱量を未来につなぎたい


科学者・エンジニア・起業家の「三刀流」への道
藤原洋さんを一言で表すと、科学者・エンジニア・起業家が融合する「三刀流のテクノロジスト系起業家」となるだろう。
科学者としてのルーツは、中学時代に読んだアインシュタインの『相対性理論』に衝撃を受けたことにまで遡る。世界を変える発見がしたいと科学者を目指して、京都大学に進学。宇宙物理学を専攻している。
宇宙物理学の研究は、天体観測望遠鏡と観測データを演算処理する大型コンピューターの性能が国際競争力に直結する分野だ。
大学進学後、藤原さんの好奇心は、宇宙の謎を探求する道具でもあり、国家間の競争優位性の源泉ともなりうる新たなテクノロジーであるコンピューターへと向かった。
「新しいものはコンピューターの分野で起きているらしい」という気づきから、宇宙物理学から一転、エンジニアの道を志し、東京大学電子情報工学の工学博士を取得するに至っている。
卒業後はコンピューターをゼロから学べる環境を求め日本アイ・ビー・エムへ入社している。
ところが、3ヶ月半で退社。ハードウェア開発の中枢は米国にあり、「当時の日本はセールスが主体であるという企業組織の現実に直面した」と語る。
そこから、藤原さんは、大学時代の恩師のつてを頼る。そして、日立エンジニアリングに転職する。日立エンジニアリングでは、制御用コンピューター開発チームに配属となった。
だが、すぐに日立製作所に出向となり、当時最先端技術であったリアルタイム分散処理コンピューターの開発に従事することに。
CPUの設計を含め、ゼロからコンピューターを生み出す経験が、「エンジニアとしての基礎となった」と述懐している。
この頃、先輩エンジニアとしてプロジェクトに参画していた、後に経団連(日本経済団体連合会)の名誉会長を務めた中西宏明さん(2021年6月29日逝去)と出会う。
新幹線、発電所、製鉄所など社会インフラの制御用コンピューターの開発に8年ほど従事した後、極秘裏に開発を進め、自律分散型のネットワークの業界標準規格となるイーサネットLANの開発に成功した。
エンジニアとしての名が業界に知れ渡るようになると、アスキー創業者で日本マイクロソフト副社長だった西和彦さんに紹介され、ビル・ゲイツと出会ってもいる。
「国際標準は市場が決める」との考え方に共感したという。アスキーに転職後、インターネット時代の動画像圧縮規格(MPEG)の国際標準化の官民プロジェクトのリーダーに抜擢され、以降、数々の公職を歴任することになる。
テクノロジスト系の起業家として東証マザーズに第1号上場、時価総額1兆円に
起業家としてのキャリアのスタートは、1996年。通信事業者に向けてブロードバンドサービスを提供するインターネット総合研究所を設立し、同社代表取締役所長に就任。
正に時代を掴んだビジネスだったこともあり、1999年に東証マザーズに第1号上場を果たし、時価総額1兆円を達成するなど、インターネット黎明期におけるアントレプレナーとして脚光を浴びた。
16年後の2012年4月、株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。ベンチャーキャピタリストとして後輩のアントレプレナーの育成や支援にも注力し、SBI大学院大学では学長を務め、技術経営戦略とその実戦的手法(企業間・産業官連携や資金調達戦略、人材開発等)などを教授する。
また、一般財団インターネット協会理事長、一般社団デジタル田園都市国家構想応援団代表理事、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授、京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授を兼務。
総務省・情報通信政策に関わる政府有識者会議委員を35年間務めるなど、多数の公職を歴任している。
藤原さん自身が技術をベースとした企業活動のキャリアを歩んできたからこそ、昨今の技術を軽視する経営に警鐘を鳴らすのだろう。
世界各地の巨大天文台は、大企業家たちが多額の寄附をしたからつくることができたと言われている。企業家には役割がある。
「一番の貢献は、人類の発展に寄与すること。私はそう考える」藤原さんはインタビューのなかで、そう語った。最先端の科学技術に対する企業家の役割。社会の公器とは何かを考えるうえで、示唆に富む話である。
プロフィール
藤原洋
株式会社ブロードバンドタワー代表取締役 会長兼社長 CEO
1977年3月京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム、日立エンジニアリング、アスキーを経て、1996年12月、インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、2012年4月、ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。
公職:(一財)インターネット協会理事長、(一社)デジタル田園都市国家構想応援団代表理事、SBI大学院大学学長・教授、東京大学大学院数理科学研究科連携客員教授、京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授を兼務。総務省Beyond5G推進戦略懇談会など情報通信政策に関わる政府有識者会議委員を35年間務める。デジタル信号処理・コンピュータネットワーク分野に関わる研究開発技術者、国際標準化日本代表を経て、インターネット・テクノロジー分野の起業家。3回の上場経験。
◎会社概要
株式会社ブロードバンドタワー
https://www.bbtower.co.jp/
設立:2000年(平成12年)2月9日
本社所在地:〒100-0011東京都千代田区内幸町2-1-6日比谷パークフロント9F
TEL:03-5202-4800(代表)
FAX:03-5510-3431
資本金:3,345百万円(2021年12月31日現在)
事業内容:コンピュータプラットフォーム事業、IoT/AIソリューション事業、メディアソリューション事業