ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

天下一品 こってりラーメンにゴキブリ混入で営業停止 老舗ブランドを揺るがす衛生問題

コラム&ニュース ニュース
リンクをコピー
天下一品
天下一品 コーポレートサイトより

長年にわたり多くのファンに愛されてきたラーメンチェーン「天下一品」で、消費者の信頼を揺るがす深刻な事態が発生した。看板メニューのラーメンにゴキブリの死骸が混入していたことが判明し、運営会社は一部店舗の営業停止と全店での衛生管理徹底を余儀なくされた。この問題は、単なる一過性の事故ではない、老舗ブランドに突きつけられた課題である。

 

築き上げた信頼にヒビ、天下一品を襲った突然の異物混入事案

ラーメンチェーン「天下一品」の運営会社である天一食品商事は、2025年9月8日、同社の公式ウェブサイトを通じて、系列店舗での異物混入事案を公表した。この事態は、京都府京都市中京区の繁華街に位置する「天下一品 新京極三条店」で発生した。同社によると、事件は8月24日、一人の女性客が看板メニューである「こってりラーメン」を注文し、食事の途中で体長約1センチのゴキブリの死骸がスープ内に混入していることに気付き、従業員に申告したことで発覚した。

この事態を受け、店側はその場で女性客に謝罪。その後、運営本部も女性に連絡を取り、謝罪と返金を申し出たが、女性はこれを固辞したという。幸い、女性からの健康被害の申告はなかった。この一件は、創業以来「こってり」という独自の味を磨き続け、半世紀にわたり強固なブランド力を築いてきた同社にとって、築き上げた信頼にヒビを入れる深刻な事態となった。

保健所への報告遅延と衛生管理体制の不備

 

天一食品商事は、問題発覚後、ただちに対応を講じたとしている。しかし、複数の報道によると、この対応には大きな遅れがあったことが判明している。事件が起きた8月24日から、同社が京都市保健所に事案を報告したのは、実に10日後の9月3日であった。この間、新京極三条店は9月2日まで通常営業を続けていたという。この遅れについて、同社は「事実関係の確認に時間を要した」と説明している。

保健所は9月4日に当該店舗への立ち入り調査を実施した。しかし、混入したゴキブリの死骸は既に破棄されていたため、侵入経路の特定には至らなかったという。調査の結果、衛生状況に大きな問題は見当たらなかったとしながらも、店舗が害虫対策として実施していたとする「害虫スプレーの噴霧」や「粘着シートの設置」などの記録が確認できなかったことも明らかにされている。保健所は店舗に対し、設備点検の強化や消毒の徹底を指導し、再発防止を求めた。

この報告遅延は、消費者の安全意識が高まる現代において、企業としての危機管理能力を問われる重要な点である。また、日々の衛生管理記録が不十分であったことは、同社の管理体制に甘さがあったことを示している。

天一食品商事が講じた対応策と再発防止への道

 

この一連の事態を受け、天一食品商事は以下の対応策を速やかに実行に移した。

  1. 営業停止措置: 問題が発生した新京極三条店に加え、同じ経営者が運営するフランチャイズ系列店の「河原町三条店」も同時に営業を停止した。
  2. 専門業者による害虫駆除: 外部の専門業者を招き、徹底した害虫駆除を実施。
  3. 衛生管理体制の見直し: 保健所の指導のもと、原因究明と抜本的な衛生管理体制の見直しを行った。
  4. 全店舗への指示: 当該店舗だけでなく、全国の全店舗に対して、衛生管理の徹底と従業員教育の強化を指示し、再発防止に努める姿勢を強調した。

同社は「当該商品をお召し上がりになられたお客様には、多大なるご不快とご迷惑をおかけしましたこと、心より深くお詫び申し上げます」とのコメントを発表。また、「今後は、より一層の衛生管理の強化と従業員教育を通じて、安心してお食事いただける環境づくりに努めてまいります」と決意を表明した。営業停止となった2店舗の再開時期については、再発防止策が確立され、本部の判断が下されてからとなる方針で、現時点では未定である。

相次ぐ外食チェーンでの異物混入。背景にある構造的問題

 

外食チェーンでの異物混入問題は、天下一品だけの問題ではない。近年、消費者の食の安全に対する意識が高まる中、大手外食チェーンでの異物混入事案が相次いでいる。たとえば、牛丼チェーン大手「すき家」では、今年1月に提供したみそ汁にネズミの死骸が混入していたことが判明。これを受け、ショッピングセンター内などの一部店舗を除く全店が一時閉店となる騒動に発展したことは記憶に新しい。また、同年3月にも、別の店舗でゴキブリの一部が混入していたことが明らかになっている。

こうした事案の背景には、外食産業が抱える構造的な問題が指摘されている。

  • 従業員の過重労働: 多くの店舗で人手不足が慢性化し、従業員一人あたりの業務負担が増加している。これにより、清掃や衛生管理といった重要な業務がおろそかになりがちである。
  • 衛生管理のチェック体制の甘さ: 多くのフランチャイズ店舗では、本部が定める衛生基準が徹底されていないケースがある。マニュアルは存在するものの、それが現場で適切に実行されているかどうかの確認体制が不十分な場合、今回のような事態が起きる可能性は高まる。
  • 害虫・害獣対策の不備: 都市部の飲食店は、構造上、外部からの害虫・害獣の侵入リスクが高い環境にある。しかし、十分な予算や専門知識を持たない店舗では、場当たり的な対策しか講じられていないのが実情である。

天下一品が今回直面した問題は、このような外食産業全体が抱える構造的な弱点を改めて浮き彫りにしたといえる。

信頼回復への道は険しい。求められる透明性と継続的な努力

今回の天下一品でのゴキブリ混入問題は、単なる一店舗での衛生管理ミスとして片付けられるべきではない。それは、創業者である木村勉会長が3年9か月の歳月をかけて完成させた「こってり」スープという、同社の代名詞ともいえる味の信頼性を揺るがす事態だからである。同社のブランドは、その味だけでなく、「お客様を待たせてはいけない。しかし、待たれる店でなければならない」という創業者の信念のもと築き上げられてきた。

この事案で失われた信頼を回復するには、公表された対策を確実に実行するだけでなく、その過程を透明化することが不可欠である。どのような手順で原因究明を行い、どのような対策を講じたのか、その結果どう変わったのかを消費者に分かりやすく伝える努力が求められるだろう。

消費者としては、安心して食事を楽しむことができる環境が何よりも重要である。そのためには、外食企業が経営効率を追求する一方で、衛生管理と品質管理を最優先事項として位置づけ、継続的に投資し、従業員教育を徹底することが不可欠となる。今回の天下一品の事態は、すべての外食企業にとって、改めて食の安全とブランドの責任について深く考えるきっかけとなるはずだ。信頼回復への道は険しいが、天下一品が誠心誠意、この問題に向き合うことを消費者は注視している。

参照:異物混入に関するお詫びとご報告(天下一品)

【関連記事】

Tags

ライター:

新聞社で記者としてのキャリアをスタートし、政治、経済、社会問題を中心に取材・執筆を担当。その後、フリーランスとして独立し、政治、経済、社会に加え、トレンドやカルチャーなど多岐にわたるテーマで記事を執筆

関連記事

タグ

To Top