東京地裁が再生手続き開始を決定 債権者届出は9月3日まで

AIスタートアップの株式会社オルツ(東証グロース:260A)は、2025年8月6日、東京地方裁判所より民事再生手続き開始の決定を受けた。7月30日の申立てからわずか6営業日での開始決定は、上場企業としてスピード対応となる。
今後のスケジュールは以下のとおり:
- 再生債権の届出期限: 2025年9月3日
- 財産評定書・報告書の提出期限: 2025年10月1日
- 再生債権の一般調査期間: 2025年10月8日~10月15日
- 再生計画案の提出期限: 2025年10月28日
裁判所および監督委員の監視下で、今後は再建可能性をめぐる法的・経済的審理が進められる。
粉飾疑惑は春に表面化、7月28日に正式認定
オルツに対する粉飾疑惑は、2024年4月末の段階で内部資料の流出やSNSでの指摘によって表面化。以後、株式市場では警戒感が強まり、7月30日の申立時点ではすでに信用を喪失していた。
そして7月28日、第三者委員会による113ページの報告書が公表され、2021年から2024年にかけて計上された売上高のうち、実に8〜9割(累計約119億円超)が広告宣伝費などを用いた循環取引による架空売上であったことが正式に認定された。
これを受けて創業者の米倉千貴社長は辞任。モルガン・スタンレー出身のCFO、日置友輔氏が後任に就任したが、同報告書では日置氏の不正関与についても明記されている。
申し立てから開始決定まで通常は10~14日が一般的
民事再生手続きでは、申立てから裁判所が開始決定を下すまでにおよそ10〜14日程度を要するのが通例である。特に上場企業の場合は、債権者の数や資産構成が複雑であるため、裁判所は債務内容や再建可能性の精査に時間をかけることが多い。
この異例の対応については、以下のような理由が考えられる:
- 粉飾の実態が報告書で明確に確定していた(審理を簡略化しやすかった)
- 申立て準備が水面下で事前に進められていた可能性(裁判所との非公式協議含む)
- 債権者の構成が比較的単純(金融機関よりも広告・VC系中心)
- 資産内容に不動産などが含まれず精査が容易だった
いずれにせよ、上場企業の民事再生としてはきわめて迅速な進行であり、裁判所が状況の深刻さを重く見たことがうかがえる。
再生計画案の焦点は「プロダクトの実在性」
今後最大の焦点は、2025年10月28日までに提出される再生計画案の中身である。債権弁済スキーム、新たな出資やスポンサーの有無、継続可能な収益モデルが提示されることが求められるが、オルツにはいくつかの致命的な課題が横たわる。
第三者委員会報告書によれば、議事録作成AI「AI GIJIROKU」などの主力プロダクトについては、「ユーザーの存在や利用実績が不明確」とされ、売上高の大部分が循環取引によって作られていた。
広告宣伝費を投入していたにもかかわらず、プロダクトの社会的認知や顧客実績が確認できない以上、事業価値に対する疑義は消えない。再生計画案の説得力は、この“実態の不在”をどれだけ説明できるかにかかっている。
再建か清算か、運命を分ける10月28日
粉飾を隠すためのスキームが複数年にわたり組織的に行われていたことは、単なる一時的な資金繰りの問題ではなく、経営体制の根幹にかかわる重大な倫理・統治の欠如を示している。
この状況下で、スポンサーが現れるのか。裁判所と債権者が納得する再建案を描けるのか。10月28日は、その可否を分ける節目となる。
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