
宅配大手のコープデリ生活協同組合連合会と加盟生協が、2025年8月に猛暑対策として宅配業務の一斉休業を実施する。高まる宅配需要に応えながらも、配達員の健康を守る姿勢を明確にしたこの判断は、物流業界が直面する人手不足と過酷な労働環境の実情を浮き彫りにする。需要と供給のバランスが崩れる中、「休む物流」への移行が注目されている。
宅配ニーズの高まりに現場の悲鳴 猛暑対策で見えた「人を守る経営」
生協の宅配大手であるコープデリ生活協同組合連合会と加盟する6つの生協は、2025年8月11日から15日までの5日間、宅配業務を一斉に休業すると発表した。対象地域は東京都、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県、長野県、新潟県の1都7県にわたり、548万人の組合員に影響が及ぶ見通しだ。
酷暑下における配達員の健康を守り、持続可能な労働環境を確保することが狙いで、同連合会としては初の取り組みとなる。
宅配需要は拡大一途 現場の負荷とのギャップ
新型コロナ禍以降、食材・日用品を自宅で受け取れる宅配サービスへの依存は高まる一方で、配達を担う人材の確保はますます困難になっている。
その背景には、過酷な労働環境がある。特に夏場は、炎天下での配達業務が熱中症のリスクを伴い、体力勝負の過酷な仕事とされる。近年では、時間指定による配送拘束や再配達対応など、身体的・精神的な負担が常態化している。
なぜ人が集まらないのか――若手が忌避し、ベテランも限界
配達現場では50〜60代の従業員が多くを占め、若年層の参入が極端に少ない。賃金が労力に見合わないという声も多く、社会全体で「3K(きつい・汚い・危険)」な職種とみなされがちだ。
また、中型免許や安全運転スキル、一定の接客対応力が必要とされることから、即戦力の人材確保は容易でない。外国人労働者の導入も進みにくく、供給構造自体の見直しが急務となっている。
改善策の鍵は「現場に寄り添う改革」
こうした状況に対し、企業側では以下のような改善策が模索されている。
- 労働環境の整備:空調服や水分補給の徹底、適切な休憩時間の確保。
- 報酬体系の見直し:インセンティブ導入や月給制の導入による雇用安定。
- 業務の省力化:置き配の普及や再配達削減、AIによる配達ルート最適化。
- 多様な人材の登用:副業配達員、女性・高齢者の参入を促す柔軟なシフト。
- 地域連携の強化:マイクロデポの設置や近隣住民による助け合い型配送。
こうした取り組みは、単なる「人手不足対策」にとどまらず、持続可能な物流の構築そのものを問うものでもある。
「届くのが当たり前」の転換点 消費者にも変化が求められる
今後は、物流業界の他企業でも同様の「一斉休業」や「計画的休配」が広がる可能性がある。利便性を保ちながらも、サービスを支える人の健康と尊厳を守る仕組みが求められている。
宅配の利便性を当然とせず、消費者自身も「休む物流」に理解を寄せる姿勢が、持続的な社会づくりの一助となる。