
大幸薬品と国立感染症研究所の共同研究で、止瀉薬「正露丸」の主成分「木クレオソート」にアニサキスの運動を抑える効果があることが確認された。
正露丸の主成分「木クレオソート」がアニサキス抑制
大幸薬品と感染研の共同研究で効果を確認
大幸薬品(大阪市)は2025年6月19日、国立感染症研究所と共同で行った研究により、同社の代表的な胃腸薬「正露丸」に含まれる主成分「木(もく)クレオソート」が、寄生虫アニサキスの運動を抑制する効果を持つことを初めて動物実験で確認したと発表した。
アニサキスはアジやサバなどの魚介類に寄生し、人が生食などで摂取すると激しい腹痛や嘔吐を引き起こすことで知られる。国立感染症研究所 寄生動物部の下川周子室長は「木クレオソートが試験管内だけでなく、動物実験においてもアニサキスの動きを抑制する効果が明らかになった。これは新たな治療法開発への重要な一歩」と語る。
木クレオソートとは?
木クレオソートは、天然木材(ブナ・マツ・スギなど)を乾留し、得られるタールを蒸留精製して作られる生薬成分。古くは殺菌・防腐目的で使用され、現在は止瀉薬「正露丸」の有効成分として広く知られている。
2011年には木クレオソート含有薬がアニサキス症の症状改善に効果があったとの症例が報告され、2014年には同成分を含む治療薬として特許(第5614801号)も取得されている。今回の動物実験成功は、これまでの研究を大きく進展させる成果といえる。
アニサキス症への非侵襲的な予防・治療への可能性
今回の研究では、マウスにアニサキスを感染させたうえで、「木クレオソート」を異なる濃度で投与し、その後にアニサキスを回収して運動量を測定。投与後わずか5分で運動量はほぼゼロとなり、非投与群と比較して明確な抑制効果が確認された。これにより、「木クレオソート」が体内でもアニサキスの運動を抑制する可能性が示された。
大幸薬品の柴田高社長は、「正露丸をアニサキス症のファーストエイドとして活用してもらえるよう、エビデンスを揃え、将来的には海外での医薬品展開も視野に入れたい」と展望を語った。
アニサキス食中毒は年間7000人以上
厚生労働省の統計によれば、2024年の国内食中毒発生件数は1037件で、このうちアニサキスによるものは330件と最多。国立感染症研究所によるレセプト解析では、年間7000人以上がアニサキス症に罹患している可能性も示されている。特に2017年には著名人の感染報道を契機に、一般認知も大きく高まった。
さらに今後は地球温暖化の影響による海洋生態系の変化で、感染リスクが高まるとされ、アニサキス対策の重要性が増している。
株式市場も反応、大幸薬品株が急騰
今回の発表を受け、大幸薬品の株価は6月19日に一時前日比約31%高の326円まで上昇。20日には367円まで達し、年初来高値を更新した。投資家の間では、今後の医薬品開発や収益貢献への期待が高まっている。
今後の展望と期待
国立感染症研究所の下川室長は、「ヒトへの効果は今後の臨床研究が必要だが、今回の動物実験の成功は新たな科学的根拠として大きな意義がある」と語った。
魚介の生食文化を持つ日本、そして世界で拡大する和食人気の中、アニサキス症の安全対策は喫緊の課題である。正露丸が、予防・軽減の新たな選択肢として評価される日も近いかもしれない。
参照:正露丸の主成分「木クレオソート」がアニサキスに与える影響(大幸薬品)