
子育て世帯の家計負担を軽減する目的で、埼玉県川越市が市立小中学校と特別支援学校の給食費を2学期から半額補助する方針を打ち出した。将来的な無償化を見据えたこの政策には、福祉と教育の観点から高い期待が寄せられる一方で、持続可能性や公平性を問う声も根強い。給食費の無償化は、果たして真の解決策となるのか。自治体の現場からその是非を探る。
川越市、給食費半額補助を開始へ
埼玉県川越市は5月29日、市内の市立小中学校および特別支援学校の給食費について、2025年度第2学期から半額を市が負担する方針を明らかにした。対象は約2万人の児童生徒であり、現在は小学生1人当たり月額4350円、中学生・特別支援学校では月額5250円を保護者が負担している。これを市がそれぞれ半額負担することで、家庭の経済的負担を軽減する狙いがある。
この施策には、3億3000万円の財政調整基金と、1億1000万円の地方創生臨時交付金を充当する予定で、市はあわせて給食食材費の高騰対策として約2億円も補正予算案に盛り込む。
市長に初当選した森田初恵氏は選挙公約で「給食費無償化」を掲げており、今回の方針はその「第一歩」と位置づけられる。
無償化のメリット:教育の公平性と家計支援
給食費の無償化には、以下のような複数のメリットが存在する。
- 経済的負担の軽減
家計の可処分所得が増え、特に低所得世帯にとっては生活の安定につながる。 - 教育の機会均等の推進
経済的事情による「昼食格差」を解消し、すべての子どもが等しく栄養バランスの取れた食事を取れるようになる。 - 行政手続きの簡素化
徴収・未納管理といった事務負担が減少し、教職員や学校事務の業務効率が向上する。 - 貧困の可視化リスクの回避
就学援助制度などを利用している児童が周囲に知られることを避ける効果があり、心理的な負担を軽減する。
無償化のデメリット:財源と制度の持続性
一方で、給食費の全額無償化には次のような懸念もある。
- 財政負担の拡大
自治体単独で全額を負担するには持続性に疑問があり、他の福祉予算へのしわ寄せが生じかねない。 - 給食の「コスト意識」の希薄化
無償になることで食材の大切さや食事の意味についての教育的効果が薄れる可能性が指摘されている。 - 高所得層も一律で対象に
所得にかかわらずすべての世帯を対象とすることは「逆進性」を生むとされ、公平性の観点から再考を求める声もある。 - 制度疲労と制度間の整合性の問題
既存の就学援助制度などとの二重構造により、政策の重複と効率性の低下が懸念される。
無償化に代わる「現実的な選択肢」
完全無償化が難しい場合でも、以下のような段階的かつ的確な支援策が考えられる。
- 所得制限付きの補助強化
低所得世帯に絞った段階的な補助により、真に支援が必要な家庭を優先する。 - 就学援助制度の周知と簡素化
既存制度を使いやすくし、申請ハードルを下げることで、対象家庭への支援実効性を高める。 - 学校単位での地域協働モデル
地元農家や企業と連携して食材費の負担を抑える地域参加型の給食提供も一つの方策である。 - クラウドファンディングやふるさと納税の活用
給食支援を目的とした寄付金制度を設けることで、民間からの自発的な支援を促す仕組みも有効である。
「子どもに投資」は社会の礎、だが「持続可能性」も問われる
川越市が掲げた給食費無償化は、子育て支援の文脈において歓迎すべき施策であり、象徴的な「第一歩」といえる。しかし、地方自治体単独で継続的に全額を負担するには限界もある。国による恒久的な制度設計や、広域連携の仕組みが不可欠である。子どもへの投資を社会全体でどう共有し、分担していくか――その議論こそが今、求められている。