青い星に別れ、規制緩和の波が環境行政にも及ぶ

米国環境保護庁(EPA)が、省エネ性能を認証する「エネルギースター」制度の廃止に踏み切る方針を固めた。1992年に創設されて以来、30年以上にわたり家庭や企業のエネルギー効率改善を支えてきた同制度が、トランプ政権下での再編成政策の一環として姿を消す見通しとなった。
ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙(いずれも5月6日電子版)によると、EPAは5月6日に内部会議を開き、大気保護局の解体と制度廃止を職員に伝達したという。
9億台のガソリン車に匹敵するGHG削減効果
エネルギースター制度は、米環境保護庁とエネルギー省が共同で運営してきた非規制型の省エネ認証プログラムで、家電、住宅、オフィス機器などに幅広く適用されてきた。これまでに5,000億ドル以上のエネルギーコストを削減し、排出回避量は温室効果ガス約40億トン。これはガソリン車9億3,300万台分の排出に相当するとされる。
しかし、トランプ政権は第1次政権下でも制度の廃止や民営化を視野に入れていた経緯があり、再登板後の今回、ついに実行に移された格好だ。5月2日に公表された2026年度予算教書では、EPAの大気保護関連プログラムの予算を1億ドル削減すると明記し、「気候変動規制が企業活動を妨げている」との見解を繰り返した。
エネルギー省のエネルギー効率支援プログラムにも2億6,000万ドルの削減が盛り込まれており、気候変動対策に対する予算縮小の姿勢が一貫して見て取れる。
「青い星」消失が及ぼす日常への影響 私たちの家にもあるラベル
今回の制度廃止は米国内にとどまらず、日本の生活者にも無縁ではない。というのも、国内の家電量販店で目にする冷蔵庫やエアコンなどの省エネラベルには、「エネルギースター」認証に基づいた表示が含まれている製品も多いからだ。消費者が「この製品は環境に優しい」と判断する基準のひとつとして、あの“青い星”は大きな役割を果たしてきた。
仮に制度がなくなれば、今後は代替基準の整備が求められ、製品選びの基準が曖昧になる可能性もある。省エネ性能の“見える化”が損なわれれば、家庭の電気代や環境負荷を意識的に管理することも難しくなってしまうだろう。
業界・専門家の反発と制度存続への模索
制度廃止に対しては、産業界からも強い懸念が寄せられている。米国商工会議所や電機業界など複数の団体は3月、EPAのリー・ゼルディン長官宛てに制度の存続を求める書簡を提出。「エネルギースターは官民協働の成功モデル」として、規制に頼らない自主的な取り組みの意義を訴えていた。
また、米国家電製品協会は制度の全面廃止に反対し、エネルギー省(DOE)への移管による継続運用を提案。現行制度の合理化によって、引き続き認証制度の価値を維持する道を模索している。
米国エネルギー節約同盟のポーラ・グローバー会長は、「制度廃止は、家計の光熱費削減という政権の公約と矛盾する」と批判。わずか年間3,200万ドルのコストで400億ドル以上の節約効果をもたらす同制度を「費用対効果の優等生」と評したうえで、「米国の電力需要は2040年までに35~50%増加する」とし、制度の廃止は将来の供給逼迫を助長すると警鐘を鳴らしている。
次世代の“省エネ”はAIが担うのか――ラベルからリアルタイム管理へ
今回のエネルギースター制度の廃止が象徴するのは、もはや「静的な認証ラベルの時代は終わりを迎えつつある」という潮流かもしれない。近年、スマートホーム機器やエネルギーマネジメントシステム(HEMS)の進展により、リアルタイムで電力消費を最適化する“動的な省エネ”の時代が到来している。
AIが家庭やオフィスの電力使用を常時分析し、自動で節電行動を促す仕組みは、従来のラベル認証を超えたパーソナライズドなエネルギー管理を可能にする。たとえば、冷蔵庫や空調機器が時間帯別の電力単価を学習し、使用のピークをずらすことで、結果的にコストも環境負荷も抑えるといった“予測型の省エネ”が実用段階に近づいている。
「ラベルがなくなる」ことは、単なる制度の終焉ではなく、新たなエネルギー効率社会の幕開けかもしれない――。技術革新が生活の隅々に及ぶいま、“青い星”の行方を見守る視線の先には、未来のエネルギー倫理が問われている。