
春先に多く見られる鼻づまりや頭痛。その原因が「花粉症」なのか「副鼻腔炎」なのか、見極めに苦しむ人が少なくない。とくに黄砂やPM2.5の影響が重なる時期には、両者の症状が混在しやすく、適切な対応が遅れるケースもある。
東京都北区の「いとう王子神谷内科外科クリニック」伊藤博道院長は、「今年の副鼻腔炎の患者数は例年の2倍に上っている。風邪と見分けがつかず、受診が遅れる例も多い」と指摘する。
黄砂や花粉が原因となり、鼻の粘膜にダメージを与えることで発症リスクが高まる副鼻腔炎。症状が進行すると、皮膚の深部まで炎症が波及する「蜂窩織炎」に至るケースもあるため、注意が必要だ。
両者の違いや共通点を、以下の表に整理した。
花粉症と副鼻腔炎の比較表
項目 | 花粉症 | 副鼻腔炎 |
---|---|---|
主な原因 | スギ・ヒノキなどの花粉、アレルギー反応 | ウイルス感染、細菌感染、花粉・黄砂による粘膜障害 |
症状の始まり | 花粉飛散時期に合わせて毎年繰り返す | 風邪やアレルギー悪化のあとに発症しやすい |
代表的な症状 | くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ | 鼻づまり、黄色または緑色の鼻水、頭痛、顔面痛、後鼻漏、嗅覚障害 |
痛みの有無 | 通常は痛みなし | 額や目の奥、頬などに鈍痛・圧迫感が出ることが多い |
持続期間 | 花粉の飛散時期に限られる(数週間) | 数週間~数カ月に及ぶこともある |
検査・診断 | 血液検査、アレルギーテスト | 鼻腔の視診、CTやレントゲンで副鼻腔の状態確認 |
治療法 | 抗ヒスタミン薬、点鼻薬、マスクや空気清浄機など環境対策 | 抗菌薬、粘液溶解剤、抗アレルギー薬などを用いた薬物治療 |
予防法 | 花粉回避、マスク、ゴーグル、室内環境管理 | 手洗い、マスク、体調管理、アレルゲンとの接触回避 |
受診の目安 | 目や鼻のかゆみが止まらない、生活に支障が出るとき | 額・目の奥に痛みが出る、鼻水が濁る、長引く鼻づまりがあるとき |
副鼻腔炎の治療にかかる費用と期間
副鼻腔炎の治療費と期間は、症状の重さや治療内容によって異なる。保険診療(3割負担)を前提に、一般的なケースの目安を以下に示す。
治療費の目安(保険適用・3割負担)
項目 | 内容 | 自己負担額(目安) |
---|---|---|
初診料+診察料 | 初回受診時 | 約1,000円〜2,000円 |
検査(レントゲン、内視鏡など) | 副鼻腔の状態を確認するため | 約1,500円〜3,000円 |
薬代(内服薬) | 抗菌薬、去痰薬、抗アレルギー薬など | 約1,000円〜2,500円(7日分) |
再診+処方 | 通院1回ごと | 約500円〜1,500円 |
初回受診から再診までを含めた合計費用は、おおむね1回あたり3,000円〜6,000円程度が目安となる。
治療期間の目安
種類 | 内容 | 期間 |
---|---|---|
急性副鼻腔炎 | 風邪の延長などで一時的に起こる | 約1〜2週間 |
慢性副鼻腔炎(蓄膿症) | 3か月以上続く状態 | 数週間〜数カ月 |
難治性・手術適応例 | 薬で改善しない、再発を繰り返す | 数か月、必要に応じて手術 |
重症化した慢性副鼻腔炎では、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)が行われることがある。保険適用での自己負担は3万〜6万円前後、入院は2〜5日が一般的である。
また、花粉症が副鼻腔炎と関連している場合、抗アレルギー薬の継続処方が必要になることもあり、その場合の薬代は月2,000円前後が目安となる。
伊藤院長は、「副鼻腔炎は風邪から悪化して発症する人もいれば、花粉や黄砂が直接きっかけになることもある。鼻の奥の痛みが広がり、額や顔面にまで影響するようなら、早めに受診してほしい」と呼びかける。
また、気象予報士の森朗氏によれば、ヒノキ花粉のピークは過ぎたが、黄砂は5月も飛来が続く見通しで、引き続き注意が求められている。
予防においては、花粉症も副鼻腔炎も「粘膜のバリアを守る」ことが共通する基本姿勢となる。マスクや手洗い、部屋の換気や加湿を欠かさず、体調を崩さない生活習慣が発症のリスクを抑えるカギとなる。