
2025年に入り、全国的に「百日ぜき(百日咳)」の感染が拡大している。咳が長期間続く特徴を持つこの感染症の急増を受けて、医療現場ではせき止め薬の不足という新たな課題が浮上している。とりわけ子どもや高齢者、咳が止まらない患者にとっては日常生活に支障をきたすケースも多く、代替手段や生活上の工夫が注目されている。
百日ぜき、3カ月で前年超え 咳の相談が急増
国立感染症研究所によると、2025年1月から3月23日までに報告された百日ぜきの患者数は全国で4100人に上り、2024年の年間患者数(4054人)をすでに上回った。
東京都北区の「いとう王子神谷内科外科クリニック」では、百日ぜきの疑いで来院する患者が急増している。伊藤博道院長は「通常は月1~2人だったが、今は週2~3人いる。通常の3〜4倍」と語る。
咳止め薬の供給に不安 「強い薬が手に入りにくい」
伊藤院長は、感染拡大に伴う処方薬の需給逼迫についてこう述べる。
「せき止めは一時期よりは充足してきたが、特に強いせき止め薬が不足している場面は多々ある。咳が止まらず生活の質を落としている患者もいる」
特に医療機関で用いられる麻薬性鎮咳薬(コデイン系など)や中枢性の強力な薬剤の供給が滞っており、処方の制限がかかる場面も出ているという。
【表1】咳止め薬が不足した際の代替策まとめ
分類 | 具体的な対応・代替策 | 備考 |
---|---|---|
医療的代替 | 去痰薬(カルボシステイン等) | 痰の排出を促し、咳をやわらげる効果 |
気管支拡張薬(吸入薬) | 喘息様の症状や呼吸の通りを改善。医師の判断が必要 | |
漢方薬(麦門冬湯・麻杏甘石湯など) | 個人差があるが、体質に合えば効果あり | |
市販薬 | トローチ・のど飴 | 乾燥対策やのどの保湿に有効。誤嚥に注意 |
生活環境調整 | 加湿・室温管理 | 湿度50〜60%を保ち、のどを乾燥から守る |
水分補給(白湯・お茶など) | 粘膜の潤い維持に寄与 | |
就寝時の上体の傾斜 | 枕を高くするなどして咳を和らげる姿勢に | |
刺激物の回避 | たばこ、香水、ホコリなどを遠ざける |
「薬が効かない咳」への理解と対策
百日ぜきの咳は、抗菌薬で菌が消えてもなお数週間〜数か月続くことが多く、「薬を飲んでも効かない」と不安を訴える患者も多い。しかしこれは、感染後に気道が敏感になり、咳反射が過敏になることによる「咳嗽期(がいそうき)」の影響であり、ウイルスや菌の再感染とは異なる。
そのため、薬剤に依存せず、のどの刺激を避ける生活環境の整備が長引く症状の対処において極めて重要となる。
医師の受診を躊躇しないで
一方で、強い咳が長引いているにもかかわらず、医療機関の受診を控える人も少なくない。百日ぜきは早期に抗菌薬を使うことで、重症化や感染拡大のリスクを減らすことができる。
特に以下に該当する人は、早めの受診が推奨されている:
- 乳児や高齢者
- 2週間以上咳が続く人
- 咳で夜眠れない、息苦しい
- 家族や職場に百日ぜき患者がいる場合
予防は「ワクチン」と「基本的な感染対策」
感染を防ぐ手立てとして最も有効なのは定期予防接種である。日本では、四種混合ワクチン(DPT-IPV)に百日ぜきの成分が含まれ、生後3か月から接種が始まる。加えて、成人や高齢者も免疫が薄れている場合が多いため、必要に応じて**追加接種(Tdapなど)**が推奨されている。
厚生労働省は、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策も引き続き呼びかけている。