
京都の老舗「よーじや」が60年ぶりにロゴを刷新し、新キャラクター「よじこ」を発表。脱・観光依存を掲げ、再起を図る動きが注目を集めている。
よーじやが60年ぶりにロゴ変更 新キャラ「よじこ」も誕生
化粧品雑貨を手がける京都の老舗「よーじやグループ」が、60年にわたって使用してきたブランドロゴを刷新し、企業キャラクター「よじこ」を新たに誕生させた。ロゴの変更は1965年の制定以来初めてであり、観光依存型の事業からの脱却と、京都発のライフスタイルブランドへの転換を目指す一環とされる。発表は3月26日に行われ、國枝昂代表取締役が記者会見で方針の転換について語った。
観光依存の脆さに直面 コロナ禍が突きつけた経営の転換点
新型コロナウイルスの影響で観光客が激減した2020年以降、「よーじや」は売上の大幅な落ち込みに直面した。2019年によーじやグループに入社した國枝代表が経験した「ひどい月では売上97%減」という危機的状況は、観光業への依存がいかに経営の脆弱性を招くかを突きつけた。これを転機とし、同社は「あぶらとり紙=観光土産」という旧来のイメージから脱却し、地元や国内のリピーター層に向けたブランド構築へと大きく舵を切った。
新ロゴと「よじこ」で打ち出す新たなブランド像
新しいブランドロゴは、「よーじや」の文字を主体に据えたミニマルなデザインへと刷新され、従来象徴だった「手鏡に映る京美人」の意匠はロゴから外された。これまでのロゴにあった手鏡のシルエットも企業ロゴからは姿を消し、「文字のみ」という大胆な選択によって、より洗練された現代的なブランド像を打ち出す意図が込められている。
長年親しまれてきた「京美人」の顔は、完全に消えるわけではない。そのキャラクター性を引き継いで誕生したのが、新たな企業キャラクター「よじこ」である。よじこは、手鏡から飛び出してきた現代の京都の女性という設定で、ロゴには収まりきらない情感やストーリーを担う存在として位置づけられている。今後は、広告やSNS、店舗のビジュアル展開、さらにはオリジナルグッズなどを通じて、柔軟で多層的なブランドの「語り手」として活躍する見込みだ。
現代の京都を生きる「よじこ」 新キャラで拡がる顧客接点
新キャラクター「よじこ」は、手鏡の中から現代の京都に飛び出してきた女の子という設定で、企業のイメージ刷新を担う存在として開発された。「Suicaのペンギン」などを手がけたイラストレーター・坂崎千春氏がデザインを担当し、親しみやすさと現代性を備えたキャラクターとなっている。ピンクのワンピースに身を包んだ「よじこ」は、京都生まれながらも文化にはあまり詳しくないというユニークな設定で、今後は直営店舗やオンラインでグッズ販売も展開される。
企業としてのメッセージも新たに掲げられた。グループのスローガンには「みんなが喜ぶ京都にする よーじやグループ」との言葉が添えられ、ロゴとともに掲出されている。
“京美人”から“よじこ”へ 変わる女性像とブランドの時代感覚
「よーじや」の旧ロゴに描かれていたのは、白粉をまとった古風な美人画のような女性像だった。目鼻立ちはくっきりとしながらも感情を排したその表情には、“京都らしさ”とともに、“控えめで上品”という時代の女性像が投影されていた。
一方で、新キャラクター「よじこ」は、全身が描かれ、明確な個性と物語を持つ存在として生まれている。ピンクのワンピースをまとい、京都に暮らしながらも文化には詳しくないという設定は、かつての「受け身な美人」から、現代的で自発的な存在への転換を象徴している。
この変化は、単なるデザイン上の刷新ではなく、女性の社会的役割や消費者としての位置づけが変化するなかで、企業がどのように時代と向き合うかというメッセージでもある。ブランドが掲げる“京都の未来をつくる”というスローガンは、こうした社会の変容と歩調を合わせる意志表明とも読み取れる。
老舗の挑戦が問う、地方ブランドの未来
今回のロゴ刷新とキャラクター導入は、単なるブランディング変更にとどまらず、企業の再構築そのものである。國枝社長は「京都発のライフスタイルブランド」としての新たな展開を示唆し、新規事業の準備も進めていると述べた。
観光依存からの脱却を掲げる企業は増えており、その試みの成否は地方経済の行方にも影響を及ぼす。「よーじや」の取り組みは、その象徴とも言える事例だ。ロゴ変更という大胆な決断の裏にあるのは、120年にわたり培ってきた京都の老舗としての矜持と、未来への責任である。