
野村ホールディングスが、国際的な脱炭素金融枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」からの離脱を決定した。三井住友フィナンシャルグループに続く動きであり、世界の金融市場における持続可能性戦略の転換点となる可能性がある。だが、この決断の背景にはどのような要因があるのか。また、脱退によって金融業界や投資家への影響はどこまで及ぶのか。今後の日本の金融機関の動向とともに詳しく解説する。
NZBA脱退の背景 国際的な枠組みの意義とは
NZBAは2021年に設立され、2050年までに加盟銀行の融資や投資活動を通じて温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指している。金融業界における気候変動対策の一環として注目されてきた枠組みだが、各国・地域ごとに脱炭素化への取り組みの温度差が生じている。
特に、今年1月に発足した米トランプ政権が気候変動対策に対して消極的な姿勢を示したことが、金融機関の方針転換を加速させている。共和党主導の州政府などからは、金融機関が特定の投融資方針を持つことに対し、独占禁止法違反の可能性を指摘する声が相次いでいる。これを受け、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスといった米大手銀行がNZBAから離脱し、世界的に金融機関の姿勢が変化しつつある。
野村HDの戦略転換 なぜNZBAを離脱するのか
野村HDの事業モデルは、商業銀行ではなく投資銀行業務を中心としている。NZBAは主に商業銀行向けの枠組みであり、証券業務を中心とする野村HDの事業構造とは完全には適合しない部分があった。融資と異なり、証券業務では企業の資金調達を支援する役割が大きく、NZBAの求める具体的な目標設定が難しかったとみられる。
また、野村HDは国際的な枠組みに依存せず、地域ごとの経済状況や政策に応じた持続可能性戦略を推進する方針を固めた。そのため、NZBAのルールに縛られず、独自の戦略を展開する道を選んだと考えられる。
脱炭素への取り組みは継続
野村HDは、脱炭素への取り組み自体を後退させるわけではないとしている。2050年度までに主な投融資先の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標は引き続き維持する方針だ。また、2026年3月までの5年間で1250億ドル(約19兆円)のサステナブルファイナンスを提供する目標も据え置く。
加えて、環境関連の投資分野では、グリーンボンド(環境関連事業に資金を提供する債券)や、インパクト投資(社会・環境の課題解決に貢献する投資)にも引き続き力を入れるとみられる。
専門家の視点 ESG投資の未来とは
金融アナリストの間では、野村HDのNZBA脱退について賛否が分かれている。一部の専門家は「国際的な枠組みからの離脱は、短期的には投資家に不安を与える可能性があるが、長期的には企業の独自戦略を確立するための合理的な選択だ」と評価する。
一方で、「ESG投資を重視する機関投資家の間では、NZBA離脱が企業の環境意識の後退と捉えられ、資金調達の選択肢を狭める可能性もある」との懸念も指摘されている。
今後の展望 日本の金融機関はどう動くのか
野村HDのNZBA離脱は、単なる一企業の決定ではなく、日本の金融機関全体に影響を及ぼす可能性がある。三井住友フィナンシャルグループに続く形となったが、今後、他の金融機関がこの流れに追随するのか、それとも独自の持続可能性戦略を強化するのかが注目される。
世界の金融市場では、脱炭素を重視する投資家と、短期的な利益を追求する層の間で意見が分かれている。日本の金融機関がどのような方針を採るのか、今後の動向が注視される。