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TSIホールディングスが展開する「ジルスチュアート(JILL STUART)」は、ブランド事業の再編に伴い、アパレル事業を「ジル バイ ジルスチュアート(JILL by JILL STUART)」に一本化することを発表した。これにより、ジルスチュアートの各店舗は2月末をもって順次閉店し、公式オンラインストアとオフィシャルアプリも2月12日正午に閉鎖された。
長年の人気ブランドが決断──ジルスチュアートの軌跡
ジルスチュアートは、1994年にニューヨークコレクションでデビューし、1997年に日本市場へ進出した。以降、ビューティーラインや「ジル バイ ジルスチュアート」などのブランドを展開し、2022年9月にはリブランディングを実施、2024年3月には新ライン「ダブリュージェイ ウィズ ジル スチュアート(W/J with JILL STUART)」を立ち上げるなど、積極的な展開を行ってきた。しかし、今回のブランド事業再編により、ジルスチュアートのアパレル事業は「ジル バイ ジルスチュアート」へ一本化されることとなった。
再編の背景にある市場の変化
今回の再編の背景には、コロナ禍以降の消費者心理の変化や市場環境の変動があると考えられる。TSIは、Z世代をターゲットとしたブランディング強化の一環として、2022年9月に「ジルスチュアート」と「ジル バイ ジルスチュアート」のブランドコンセプトやロゴの刷新を行った。しかし、消費者の購買行動や市場のニーズが急速に変化する中で、ブランドの再編成が必要と判断されたと推察される。アパレル事業を「ジル バイ ジルスチュアート」に一本化することで、リソースの集中と効率的なブランド運営を目指していると考えられる。一方で、コスメ部門である「ジルスチュアート ビューティ」は引き続き展開される予定であり、アパレルとは異なる路線でのブランド強化が続けられる見込みだ。
各ブランドの特徴とターゲット層
ジルスチュアートのアパレル事業には、「ジルスチュアート」「ジル バイ ジルスチュアート」「ダブリュージェイ ウィズ ジルスチュアート(W/J with JILL STUART)」の3ブランドが存在する。
「ジルスチュアート」は、フェミニンかつクラシカルなデザインが特徴で、20代後半から30代の女性を主要ターゲットとしていた。「ジル バイ ジルスチュアート」は、より若年層を意識したカジュアルなデザインを展開し、10代後半から20代前半の女性を中心に支持を集めている。また、「ダブリュージェイ ウィズ ジルスチュアート」は、2024年3月にスタートした新ブランドで、ファッションを通じたライフスタイル提案を重視し、幅広い層に向けたアイテムを展開している。
今回の再編により、「ジル バイ ジルスチュアート」に一本化することで、より若年層に向けたブランド戦略の強化が進められることになる。
競争激化のなかで生き残るための戦略──コスメ部門は継続
今回の再編により、ブランドの統一感が高まり、マーケティング戦略や商品開発において一貫性を持たせることが可能となる。また、リソースの集中により、コスト削減や業務効率の向上が期待される。一方で、長年「ジルスチュアート」を支持してきた顧客にとっては、馴染みのあるブランドが終了することへの戸惑いや不満が生じる可能性がある。また、高価格帯の商品を求める顧客層への対応や、ブランドイメージの維持・向上といった課題も考えられる。
競合ブランドとの戦いをどう乗り越えるか
今回の再編を受けて、TSIは「ジル バイ ジルスチュアート」のブランド力強化と、ターゲット層であるZ世代への訴求を一層推進すると考えられる。しかし、アプワイザー・リッシェやプロポーションボディドレッシング、ノエラといった同じくフェミニンスタイルを軸にするブランドとの競争は激化する可能性が高い。これらのブランドはそれぞれの独自性を強化しながら市場シェアを広げており、「ジル バイ ジルスチュアート」の今後の成長戦略が鍵を握る。
ビジネスパーソンにとっては、今回の事例は市場環境の変化に対応した柔軟なブランド戦略の重要性を示唆している。自社のブランドポートフォリオやターゲット層の見直し、リソースの最適配分など、経営戦略の再考を促す契機となるだろう。