第97回アカデミー賞のノミネート作品が1月23日に発表され、日本からは3作品が選出された。その中で注目を集めるのが、ジャーナリストである伊藤詩織監督による長編ドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」。同作は性的暴行の体験やその後の裁判を題材とし、日本の司法制度に一石を投じる作品として制作された。
この快挙に対し、伊藤監督は「一つの大きな壁を乗り越える出来事」とコメントし、希望を訴えた。
世界的な評価を得た作品
「Black Box Diaries」は2024年1月にサンダンス映画祭で初上映されて以来、50を超える映画祭で上映され、18の賞を受賞した。さらに世界30以上の国と地域で配給が決定するなど、国際的な評価を得ている。しかし日本国内では公開されていない。理由として、映画に使用された映像や音声を巡る問題が挙げられている。
取材手法を巡る批判
同作に対しては、使用された映像や音声が関係者の許可を得ずに公開されたとの指摘が相次いでいる。問題となっているのは、事件現場となったホテルの防犯カメラ映像、タクシー運転手の顔や証言、さらには捜査に協力した刑事とのやり取りなどだ。こうした取材手法に対し、元代理人の西広陽子弁護士は「取材源の秘匿が守られていない」と強く非難し、伊藤監督との関係を断った。
また、東京新聞の望月衣塑子記者もSNSで「取材源の秘匿というジャーナリズムの基本原則が完全に無視されている」と批判。この投稿には賛同の声が集まる一方で、「公益性を優先した作品」という擁護の意見も見られ、議論は平行線をたどっている。
伊藤監督の思い
伊藤監督は今回のノミネートについて、「この作品を通じて、声を奪われてきた人々に希望を届けたい」と述べ、性的暴力の被害者や沈黙を強いられてきた人々へのエールを送った。
しかし、作品が抱える課題を指摘する声も多く、SNS上では「手法の問題が大きい」「公益性を優先するなら収益の使途も明確にすべき」といった意見が寄せられている。一方で、「被害を受けても発信を続ける姿勢を評価すべきだ」といった擁護の声も上がっている。もう少し丁寧にSNSの声を紹介しよう。
作品の社会的意義を評価する声と取材手法や倫理面に疑問を呈する声
あるユーザーは、「作品としては支持すべきだと思えるものの、未許可の映像や音声を含むことを考えると複雑ですね。少なくとも、公益性を優先したというなら、一部を性暴力被害者支援団体に寄付するなど、映画の収益をどうするかについて、何か表明すべきではないかと思います」とコメント。映画の内容とそれが持つ社会的な意義を認めつつも、収益の使い道や制作倫理に疑問を抱いている。
また、「情報源の無断暴露など、手法に大きな問題がある。元弁護士からの忠告もスルー。それは事件捜査に協力した方々を裏切る行為とも言える。今後の犯罪捜査に協力してくれそうな人達を非協力にさせる可能性さえある。とても評価できない」といった厳しい批判も。取材源の秘匿が守られていない点を問題視し、ジャーナリズム全体の信頼性に影響を及ぼす危険性を指摘している。
一方で、伊藤監督の姿勢を支持する意見も見られる。
「フジの件もそうだが、被害者は泣いていつまでも悲しんで弱い存在でいなければ応援されないというのもおかしな話だと思う。被害を受けたことで殻に閉じ込もるのでなく、こうやってどんどん発信して自分の人生を前に進めていっている存在の人も応援されてもいいのではないかなと思う」という声も上がり、被害者が前向きに行動する姿勢に共感を示す意見が寄せられている。
さらに、「被害者としての体験を伝えるのは意義がある。ただ、取材源の守秘義務や関係者のプライバシーをどう保護するかは議論すべきだ」というコメントもあり、作品のテーマと取材手法の間に存在する課題が指摘されている。
望月衣塑子記者もSNSで、「取材源の秘匿というジャーナリズムの基本原則が完全に無視されている」と批判した。この投稿には賛同の声が集まり、《イソコさん、驚くほど真っ当なことを書いている……》や《望月いそこさんが珍しくまともなこと言うてはる》といった意外性を感じたコメントも見受けられる。
こうした多様な意見の中で、「Black Box Diaries」の評価は分かれており、ノミネートの快挙に祝福の声がある一方で、議論はなお続いている。SNS上の声が示すように、作品が持つ意義とその制作過程での問題の両面から、より深い議論が求められているといえる。
授賞式の行方
アカデミー賞の授賞式は3月2日に予定されている。「Black Box Diaries」が果たして受賞を果たすのか。その評価と共に、作品を取り巻く議論の行方にも注目が集まっている。