
大阪府警は2月15日、大阪市中央区の道頓堀周辺で17歳の男性らが刃物で刺され死傷した事件で、大阪市住吉区の無職、岩崎龍我容疑者(21)を殺人の疑いで逮捕した。岩崎容疑者は14日深夜から15日未明にかけ、ミナミの繁華街にある雑居ビルなどで、奈良県の鎌田隆之亮さん(17)の胸などを刃物で複数回突き刺し殺害した疑いが持たれている。
現場では他にも17歳の男性2人が刺され、そのうち1人が意識不明の重体、もう1人もけがを負った。岩崎容疑者は現場から逃走したが、約2キロ離れた大阪市浪速区内で凶器とみられる刃物を所持していたところを捜査員に確保された。
調べに対し、岩崎容疑者は殺意を否認し、ナイフで威嚇するつもりだったが刺してしまった旨の供述をしているという。
女性への執拗な声かけと仲裁への逆上
なぜ21歳の男は、面識があったとはいえ年下の少年たちに対し、突如として凶刃を振るったのか。情報を集めると、トラブルの卑劣な発端が浮かび上がってきた。捜査関係者や現場周辺の証言によると、当時、被害者らは男女のグループで行動していたが、そこに岩崎容疑者が接触。グループ内にいた女性に対し、執拗にちょっかいを出したり、声をかけたりしたことが口論の引き金になったとみられる。
鎌田さんら男性陣が女性を守ろうと割って入り、やめるよう注意したところ、岩崎容疑者が激高。短気な性格に加え、年下の少年に制止されたことでプライドを傷つけられたのか、所持していた刃物を取り出し、無防備な少年たちの急所を次々と狙う凶行に及んだ疑いが強い。威嚇という言葉とは裏腹に、その行動は極めて感情的かつ一方的な暴力であった。
メディアが報じた容疑者の人物像
岩崎容疑者は、現場近くの通称グリ下と呼ばれる道頓堀のグリコサイン下の遊歩道に頻繁に出入りしていたことが報じられている。産経新聞の報道によると、昨夏にグリ下で容疑者と知り合ったという15歳の女性は、容疑者について、見た目は怖いが話すと優しく、頼れる存在だったと証言している。
一方で、怒らせると感情の制御ができなくなるという評判もあり、容疑者自身が薬物の過剰摂取(オーバードーズ)を行っていると話していたという情報もある。
また、知人の17歳男性の証言として、事件前日の14日にグリ下周辺で行われたミュージックビデオの撮影に容疑者がエキストラとして参加し、その際に本物の刃物と模造刀の両方を周囲に見せていたことが明らかになっている。近隣住民からは、数カ月前に部屋から殺すぞという怒号や女性の制止する声が聞こえたとの証言もあがっている。
記者が目撃したグリ下の実態と変容
岩崎容疑者が拠点としていたグリ下は、家庭や学校に居場所のない若者が集まる場所として知られる。
2年ほど前に記者が現地を訪れた際、土曜の夜の道頓堀は観光客で賑わっていたが、グリ下の一角だけは異質な空気が漂っていた。地雷系メイクの少女や着ぐるみを着た若者たちがスマートフォンを操作しながら滞留する姿は、東京・歌舞伎町の「トー横」を彷彿とさせる。しかし、観光客など含めて多種多様な人々が入り乱れるトー横に比べ、当時のグリ下はより閉鎖的で、素行の悪さが目立つ独特の緊張感があった。
実際に現地の実態を記したルポルタージュなどによると、そこでは「死にたい」「じゃあ死ねよ」「生きたい」といった会話が、深刻さよりも独特の軽いノリで交わされていたという。外部の人間を積極的に排除はしないが、相互不干渉の結界のようなものが張られた空間だったとも言われている。
行政は対策として2025年に柵を設置するなどして滞留を防ごうとしているが、若者たちはそこから西へ離れた湊町リバープレイス周辺の通称「浮き庭」へと移動しており、コミュニティ自体は場所を変えて存続している。
岩崎容疑者もまた、こうしたコミュニティの中に身を置いていた一人だったとみられる。
今後の捜査と量刑の目安
警察は、岩崎容疑者と被害者らの間に何らかのトラブルがあったとみて捜査を進めている。容疑者は威嚇のつもりだったと殺意を否認しているが、胸部などの急所を執拗に刺している点や、あらかじめ殺傷能力のある刃物を携帯していた点から、殺意の認定が焦点となる。
日本の刑法における殺人罪の法定刑は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役である。本件では被害者が1名死亡していることに加え、別の1名が重体、さらに1名が負傷しているため、単独の殺人事件よりも重い刑が科される可能性が高い。
過去の量刑傾向を鑑みると、突発的なトラブルであったとしても、結果の重大性と凶器準備の危険性から、懲役15年から20年、あるいは無期懲役といった重い判決が言い渡される公算が大きい。



