
節分当日の夕方、百貨店やスーパーの食品売り場には、色とりどりの恵方巻が山のように並ぶ。海鮮、和牛、穴子、さらには1万円を超える豪華品まで、同じ「巻き寿司」とは思えない光景だ。
2026年、恵方巻が生み出す経済効果は約730億円に達すると試算されている。その一方で、節分の夜が更けるころ、約16億円分の恵方巻が行き場を失い、廃棄される見通しだ。
なぜ、これほど売れ、そして捨てられるのか。恵方巻商戦の最前線を追うと、日本の消費社会が抱える歪みが浮かび上がってくる。
節分の売り場で起きている「異様な光景」
節分当日、売り場は独特の熱気に包まれる。特設コーナーに積み上げられた恵方巻。価格帯は数百円から1万円超まで幅広く、具材も実に多彩だ。
家族連れが立ち止まり、スマートフォンで値札を撮る。会社帰りの客は「今年はどれにするか」と迷いながらも、一本を手に取る。
だが、時間が進むにつれ、売り場の空気は少しずつ変わる。値引きシールが貼られ、それでも残る高級品。閉店間際、誰にも選ばれなかった恵方巻が、静かに回収されていく。
経済効果約728億円 恵方巻は巨大市場へ
関西テレビの報道によると、2026年の恵方巻による経済効果は約728億8138万円と試算されるという。
過去に類がないほど、大きな経済効果をもたらす可能性もあるようだ。
いまや恵方巻は、節分という一日限りの行事でありながら、土用の丑の日のうなぎやクリスマスケーキと並ぶ、国民的消費イベントへと成長した。
発祥は関西、全国区化の転機はバブル崩壊後
恵方巻の歴史は意外に浅く、大阪を中心とした関西発祥とされる。
大正時代、一部で行われていた巻き寿司の風習が、1970年代に寿司店の販売施策として広がった。全国区へと押し上げたのは、1990年代初頭のバブル経済崩壊後だ。
「景気が悪いなかで、年に一度、切らずに売れる商品があるという話が東京に伝わった」。その後、コンビニエンスストアが参入し、一気に全国へ拡大した。
1万円超えも登場 恵方巻は“進化”を続ける
近年の特徴は、高級化と多様化だ。
百貨店では、1万円を超える恵方巻が珍しくなくなった。本マグロや伊勢海老、和牛を詰め込んだ一本は、「寿司」というより「ごちそう」として存在感を放つ。
一方で、スーパーでは米も海苔も使わない「タコス恵方巻」といった新商品も登場。原材料高騰への対応と、若年層の需要開拓を狙った試みだ。
恵方巻は、伝統行事の枠を超え、時代に合わせて姿を変えている。
物価高が直撃 平均価格は11.7%上昇
しかし、その進化は厳しい現実と背中合わせだ。
帝国データバンクの調査によると、恵方巻の平均価格は前年より11.7%上昇。米は30%以上、海苔や卵、エビも軒並み値上がりしている。
寿司店の現場では、「ほぼすべての材料が上がっている」との声が漏れる。それでも、地元客を思い、価格を据え置く店もある。利益を削りながら続ける節分商戦は、決して楽ではない。
16億円が消える夜 食品ロスという現実
経済効果の裏で生まれるのが、食品ロス。
2026年に約16億4890万円分の恵方巻が廃棄される見込みだという。
なぜ減らないのか。理由の一つが「売り切れ」を避けたいという小売側の論理だ。夕方に商品が欠ければ、「品揃えが悪い店」という印象を持たれ、次の来店につながらない。
「廃棄を覚悟で、常に一定量を並べざるを得ない」。この判断が、ロスを生み続けている。
予約販売はなぜ機能しないのか
国や消費者庁は、予約販売の拡大を呼びかけている。
しかし、現場では「予約制でも売れ残る」という声がある。背景には、本部主導で早期に数量を決める仕組みや、売上目標ありきの発注構造があると指摘されている。
形だけの予約制では、ロス削減にはつながらないのが実情だ。
恵方巻は、このままでいいのか
恵方巻は、日本人が季節行事を楽しむ文化と、商業主義が結びついた象徴だ。
経済効果730億円という数字は確かに大きい。しかし、その裏で16億円分が廃棄される現実を、単なる「仕方のないコスト」として済ませてよいのだろうか。
節分の夜、売り場から消えていく恵方巻の山は、私たち一人ひとりに問いを投げかけている。



