
東京大学大学院医学系研究科の現職教授が、性風俗店や高級クラブでの高額接待を受けていたとして逮捕された。研究の名を盾にした権力行使、断れなかったと語る企業側、そして繰り返される東大不祥事。国立最高学府の内側から、強烈な腐臭が立ち上っている。
研究と倫理の最前線で何が起きていたのか 東大医学部教授の逮捕
東京大学大学院医学系研究科教授の佐藤伸一容疑者(62)が、共同研究を巡り高額接待を受けたとして、24日、警視庁に収賄容疑で逮捕された。国立大学法人の教職員は「みなし公務員」とされ、刑法上の収賄罪の適用対象となる。
研究と倫理の象徴であるべき医学部教授が、性風俗店通いを当然のように要求していたという構図は、国民感情から見ても異様だ。白衣の下で行われていたのは、学問とは程遠い、露骨な利益誘導と享楽の世界だった。
事件は、大学と民間団体が共同で研究を行う「社会連携講座」を舞台に発覚した。佐藤容疑者は、大麻に含まれる合法成分の皮膚への効能などを研究する講座の設置や運営を巡り、一般社団法人「日本化粧品協会」代表理事の男性(52)から、約180万円相当の接待を受けた疑いが持たれている。
フランス料理から吉原ソープへ 指定された接待コースの生々しさ
捜査関係者の説明で浮かび上がる接待の中身は、学者の会食という言葉から連想されるものとはかけ離れている。最初は都内のフランス料理店での会食だった。約15万円の飲食代を協会側が支払ったという。
だが、それは序章にすぎなかった。その後、接待の場は東京・吉原のソープランド、銀座の高級クラブへと移行していく。しかも場所は「お任せ」ではない。佐藤容疑者側が指定していたとされる点が、この事件の下世話さと醜悪さを際立たせている。
接待は月に2回ほどのペースで繰り返され、1回で10万円を超えることも珍しくなかった。研究費の使途でもなく、打ち合わせでもない。研究の便宜を図る見返りとして、性風俗店での接待を要求する。学問の名を借りた私的享楽の追求に、SNSでは「教授様の接待フルコース」「研究よりソープ優先」といった嘲笑が飛び交った。
社会連携講座という名の温床 資金難と権力集中が生んだ歪み
社会連携講座は、民間企業や団体が資金を拠出し、大学と共同で研究を進める仕組みだ。慢性的な資金不足に悩む大学側にとっては、外部資金を確保できる生命線とも言える。
しかし、その構造は常に危うさをはらんでいる。研究テーマの選定、進行管理、成果の扱いにおいて、教授個人に権限が集中しやすいからだ。今回の講座でも、研究内容を決めたのは佐藤容疑者で、実務は元特任准教授の男性医師(46)が担っていたという。
この元准教授も、約190万円相当の接待を受けていたとされ、警視庁は任意で事情を聴いている。講座は2023年4月に開設されたが、昨年3月末、研究期間の途中で閉鎖された。成果は一定程度出ていたとされるが、その裏で何が取引されていたのか、疑念は尽きない。
「ノーと言えなかった」企業側の言い分 被害者面する違和感
日本化粧品協会関係者は、「接待をやめたら研究のスピードを遅くされたり、止められたりした」「毅然とノーと言えなかった」と語っている。教授に権限が集中し、逆らえない雰囲気があったという主張だ。
だが、SNS上ではこの言い分にも冷ややかな視線が注がれている。
「断れなかったでは済まない」「結局は成果が欲しくて接待を続けた」といった声が相次いだ。研究成果を事業に生かしたいという思惑があった以上、完全な被害者と言い切れるのかは疑問が残る。
研究とビジネスが密接に結びつく現代において、こうした「断れない関係性」は珍しくない。だが、その結果が吉原ソープ指定という事実であれば、もはや笑えないブラックユーモアだ。
東大に相次ぐ不祥事 総長謝罪でも消えないガバナンス不全の影
東京大学では、今回の佐藤伸一容疑者(62)の逮捕以前から、医学部を中心に不祥事が相次いでいた。
昨年11月には、東京大学医学部附属病院に所属していた准教授が、医療機器の選定を巡り、特定の医療機器メーカーから金銭提供を受けていたとして、警視庁に収賄容疑で逮捕されている。
この事件では、准教授が病院内での医療機器導入に一定の影響力を持つ立場にあり、メーカー側から現金約70万円相当を受け取っていた疑いが持たれた。提供された金銭の一部は、私的に使用されていたとも報じられている。
この不祥事を受け、東京大学は外部の弁護士を交えた調査を実施すると発表したが、学内のチェック体制や権限構造に大きな問題があったことが浮き彫りになった。研究費や寄附金、医療機器選定といった分野で、現場の裁量が過度に大きく、透明性が確保されていなかった点は、今回の社会連携講座を巡る収賄事件とも重なって見える。
藤井輝夫総長は当時、「大学全体として極めて重く受け止めている」「信頼を著しく損なう事態だ」とコメントし、組織体制の見直しや再発防止策の検討を表明した。しかし、その舌の根も乾かぬうちに、医学系研究科教授が性風俗店や高級クラブでの接待を受けていた事実が明るみに出たことで、総長の謝罪は結果として形骸化した。
東大は現在、政府の大学ファンドを活用する「国際卓越研究大学」の認定を目指しているが、ガバナンスやコンプライアンス体制が審査の重要項目とされている。有識者会議では、「継続審査中にガバナンスに関わる新たな不祥事が生じた場合、審査を打ち切る可能性がある」と指摘されていた。今回の事件は、その警告が現実になり得ることを示した格好だ。
SNS上では、「また医学部か」「東大ブランドも地に落ちた」「不祥事が起きるたびに謝罪して終わり」といった批判が噴出している。短期間で複数の教員が逮捕される異常事態に、東大の統治能力そのものを疑問視する声は強まる一方だ。
研究実績や輝かしい経歴の裏で、権限が集中し、チェックが働かない構造が温存されてきた結果が、今回の連続不祥事と言える。総長の「言語道断」という言葉とは裏腹に、ガバナンス不全の影は、いまだ濃く大学全体を覆っている。



