
米大リーグ・エンゼルスの菊池雄星投手が、家族に向けられた虚偽情報や誹謗中傷に対し、法的措置も辞さないとする声明を公表した。実際にどのような投稿が拡散されていたのか。SNSとコメント欄に広がる私刑の実態を検証する。
家族を標的にした虚偽投稿と誹謗中傷の実態
ロサンゼルス・エンゼルスに所属する菊池雄星投手は1月15日、自身のXで「皆さまへのお願い」と題し「心ない投稿を控えていただくことを切にお願い申し上げます」と記した声明画像を投稿した。声明には妻・瑠美さんの署名も添えられ、家族に対する事実に反する内容や、人格・尊厳を傷つける投稿が繰り返されている現状が明記された。
本紙がXや匿名掲示板、ニュースコメント欄を調査すると、誹謗中傷の多くが妻に集中していた点が浮かび上がった。
競技内容とは無関係に、「妻がメジャーでの成績を左右している」「私生活で選手を振り回している」「派手な生活が投球に悪影響を与えている」といった書き込みが断定的に語られていた。
いずれも裏付けのない推測に過ぎないが、語調の強さによって事実のように扱われていた。
中には、妻の人柄や価値観を貶める表現も多く、
「出しゃばり」「目立ちたがり」「選手の足を引っ張る存在」といった人格否定が散見された。さらに、家族が公に発信すること自体を問題視し、「表に出るなら叩かれて当然」「黙って支えるべきだ」と役割を押し付ける言説も確認された。これらは批評ではなく、特定の人物像を作り上げ、集団で断罪する構図に近い。
成績批判を逸脱する私刑化と攻撃の常態化
今回特に顕著だったのは、成績批判が妻への攻撃に転化していく私刑化の過程だ。登板内容や防御率への不満が、いつの間にか「家庭環境が悪いからだ」「妻の影響だ」という因果関係の捏造にすり替えられていった。
匿名性の高い空間では、「誰かが言い出した仮説」が検証されないまま共有され、次第に前提として扱われる。そこへ感情的な言葉が重なり、「やはり妻が原因」「前から問題視されていた」といった同調が生まれる。こうして妻個人が、チーム成績や采配への不満のはけ口として利用されていった。
また、「有名人の配偶者だから批判されても仕方ない」「家族も含めてプロの世界だ」という言説は、私刑を正当化する役割を果たしていた。これは責任論を装いながら、実際には人格権を切り捨てる論理であり、攻撃の常態化を後押しする。菊池が声明で「平穏な生活を著しく害する」と強い表現を用いたのは、こうした攻撃が一時的なものではなく、日常的に繰り返されていたことを示している。
虚偽でも広がる拡散構造と同調圧力
妻に関する誹謗中傷は、拡散構造の中で増幅していた。刺激的な断定や決めつけは拡散されやすく、事実確認は後回しにされる。「聞いた話」「知人が言っていた」という曖昧な前置きが、真実味を装う道具として使われていた。
こうした投稿が重なると、「みんながそう言っている」という空気が形成される。空気ができた時点で、反証や訂正は目に入りにくくなる。誤情報であっても、訂正されないまま残り、妻個人に対する評価として固定化されていく。この過程は、本人が競技成績で挽回できる話ではなく、家族という最も守りたい領域に長期的な負荷を与える。
法的措置に踏み込んだ声明の意味
声明で法的措置に言及したことは、単なる感情的反発ではない。虚偽情報や人格否定が、看過できる段階を越えたという判断を示している。特に妻の署名が入ったことは、被害が本人だけでなく、家族の尊厳と生活に及んでいる現実を社会に突きつけるものだ。
誹謗中傷は、沈黙していれば自然に収束するとは限らない。むしろ黙認と受け取られ、攻撃が激化するケースも多い。線を引き、責任を問う姿勢を示すことは、被害の可視化であり、抑止への第一歩でもある。
WBC出場で高まる注目と受け手の責任
菊池は今季、メジャーリーグでのシーズン開幕に加え、3月開催予定のワールド・ベースボール・クラシック日本代表にも選出されている。国際大会への出場は評価の証である一方、注目度の急上昇は、誹謗中傷が再燃しやすい局面でもある。
代表選出や大会期間中は、結果に一喜一憂する空気が強まり、「誰かを叩くことで参加する」層が流入しやすい。過去の代表選手でも、大会前後にSNS上で中傷が急増した例は少なくない。注目が集まるほど、虚偽情報が入り込む余地も広がる。
だからこそ問われるのが、受け手の責任だ。真偽不明の話題を反射的に引用し、拡散する行為は、私刑の一部を担うことになる。成績批判と人格攻撃を切り分け、家族を標的にした言説から距離を取る姿勢が、健全な応援文化を支える。今回の声明は、攻撃を止めるための警告であると同時に、見る側一人一人に自覚を促す呼びかけでもある。



