
冬の気配が深まる中、全国の医療機関には高熱や咳を訴える人々が列をつくっている。体温計の数字を見つめる指先は震え、待合室には不安と疲労の気配がにじむ。
その裏で、今季のインフルエンザを決定づける“新顔”が静かに勢力を広げていた。
「サブクレードK」。
これまで広く流行してきたA香港型(H3)の系統から派生した新たな変異株で、現在報告されているH3の約96%がこの型に置き換わったことがわかった。
急速に広がる感染 前年の17倍という異例の増え方
今季の患者報告数は、ある週だけで19万人を超えた。
前年の同じ時期と比べると17倍という異常なペースで、季節性インフルエンザのいつもの流れとは明らかに様相が異なる。
秋の終わりから冬の入り口にかけて、学校や職場では咳が連鎖するように広がり、家族全員が次々と寝込む例も相次いでいる。
医療機関では、インフルエンザと新型コロナの同時感染を示す検査結果も散見され、現場の緊張が続く。
分析によると、10月下旬から11月下旬に採取されたインフルエンザウイルスの大半がH3型で、そのほぼすべてがサブクレードKへと切り替わった。
感染力は従来の2割増 多くの人が免疫を持たず“初対面”のウイルス
サブクレードKの特徴は、何よりもその広がりの速さにある。
従来株より感染力が2割ほど強いと推定され、初めて接する人が多いことが勢いを加速させている。
症状自体は従来のA型と大きな違いはない。
高熱、のどの痛み、咳、筋肉痛。
ただ、H3型が主流となる年は、子どもや高齢者で重症例がやや増えやすい傾向が知られており、慎重な見極めが求められる。
検査については、よく使われている迅速検査キットでもA型H3として検出される。医療現場でサブクレードKかどうかを特定する細かい分析は行われないものの、診断や治療自体に問題はない。
ワクチンは「重症化予防」に明確な効果 感染予防力は限定的
今季のワクチンはH1N1、H3N2、B型の3種を組み合わせたものだが、今回広がっているサブクレードKは今シーズン生まれたばかりの変異株であり、ワクチンの系統とは完全には一致しない。
そのため、感染自体を防ぐ力は強くないとされる。
しかし、抗体の構造が大きく変わっているわけではなく、重症化を防ぐ効果は十分に期待できると分析されている。
季節が本格的な流行期へ向かう中、未接種の人が今から接種を検討することには十分な意味がある。
ワクチン接種者が減り続ける“逆転現象” 背景にあるのは「ワクチン疲れ」
一方で、ワクチン使用量は近年減っている。
かつては不足が続いたが、現在は余るほどになっているという。
理由のひとつに指摘されるのが「ワクチン疲れ」。
新型コロナ禍で何度も接種を繰り返したことで、体調への不安や「もう打ちたくない」という心理的な抵抗感が根付いた可能性がある。
しかし、サブクレードKは感染速度が早く、免疫を持たない層が大半だ。
特に子どもや高齢者にとっては、ワクチンの重症化を防ぐ力が重要な意味を持つ。
基本の感染対策は変わらず有効 冬本番へ向けて警戒続く
手洗い、マスク、咳エチケット。
どれも見慣れた対策だが、今季の変異株に対しても有効とされる。
抗インフルエンザ薬もこれまでの治療と同じように効くとされ、治療方針が大きく変わることはない。
ただし、流行のピークはこれから迎える見通しだ。
街を行き交う人々の吐く白い息の向こうで、ウイルスは静かに勢力を拡大している。



