
日本で外国人労働者をめぐる議論が活発化している。物流界では大型トラックドライバーの高齢化が深刻化し、ヤマト運輸はベトナム人ドライバーの採用・育成計画を打ち出した。一方、SNSでは「外国人が増えると治安が悪化するのではないか」という不安が根強い。本稿では、統計と現場・専門家の声をもとに「不安の正体」を冷静に分析する。
増えるベトナム人ドライバーと現場の実態
ヤマト運輸とベトナムのIT企業FPTは2025年11月、特定技能制度を活用したベトナム人大型トラックドライバーの採用・育成に関する基本合意を結んだ。ヤマト運輸のリリースでは、FPTグループの教育機関に特別クラスを設け、毎年100人の採用を目指すスキームが示されている。行政書士による解説では、2027年から2031年にかけて最大500人規模の採用構想と整理されている。
計画では、2026年からベトナムで半年間、日本語や日本文化、安全運転の基礎を学んだ後、日本国内で約1年間の研修を行い、大型自動車免許の取得をめざす流れが想定される。都内で働くヤマト運輸の現役ドライバーは、人手不足の深刻さを指摘しつつ「採用そのものは歓迎だ」と語る。ただ、教育期間だけで日本の交通環境に十分慣れられるかについては慎重な見方もある。幹線輸送では荷物に直接触れる機会が比較的少なく、窃盗などのリスクが過度に語られやすいという声も聞かれた。
外国人増加をめぐる“五つの誤解”
外国人労働者の増加には、しばしば次のような誤解が伴う。
1. 「外国人が来れば治安が悪化する」
犯罪統計は母集団規模や在留資格の内訳を十分に反映していない場合がある。突出した数字だけが切り取られて拡散されれば、不安は増幅しやすい。
2. 「外国人が社会保障を食い潰す」
多くの就労外国人は税金や社会保険料を支払っており、社会保障制度の純粋な負担要因とは限らない。
3. 「外国人増加は経済の停滞を招く」
少子高齢化が進む中で、外国人は労働力を補う存在として産業を支えている。
4. 「外国人は日本の文化や交通ルールを守れない」
企業は言語教育や安全運転教育を組み込んだ研修制度を整備し、段階的にルール理解を深める取り組みを進めている。
5. 「外国人を受け入れると地域社会が不安定になる」
不安の大きさは制度設計や受け入れ体制の質に左右され、国籍そのものが不安要因になるわけではない。
統計が示す現実:犯罪と国籍
警察庁の公表データを整理した分析では、2024年の来日外国人による総検挙人員は12,170人で、そのうちベトナムが3,990人と最も多く、構成比は32.8%だった。刑法犯で検挙されたベトナム人の大部分は窃盗で、検挙件数は5,992件とされている。重要犯罪や窃盗の検挙件数は前年から増加しており、来日外国人犯罪全体として増加傾向が示されている。
一方で、法務省『犯罪白書』によれば、刑法犯検挙人員総数18万3,269人のうち外国人の比率は5.3%にとどまる。国全体の犯罪の中で外国人が占める割合は限定されており、単純に治安悪化と結びつけることはできない。経済産業省が主催した外国人研修指導協議会では、警察庁が作成した国籍別・在留資格別の検挙状況が資料として共有されており、在留資格の種類や就労分野によって統計上の姿が大きく変化する実態が整理されている。
不安の正体は構造にある
外国人増加に伴う不安は、統計の切り取り方やSNSでの情報拡散、そして受け入れ制度の準備不足など複数の要因が重なることで増幅される。SNSでは刺激的な事例が選択的に広がり、アルゴリズムが不安を強調する傾向がある。企業の教育体制が十分でなければ、現場への適応が遅れ、地域社会との摩擦が生まれやすくなる。
迎え方を誤れば不信が生じ、迎え方を整えれば安心が生まれる。外国人受け入れの課題は「量」ではなく「質」にある。
“どう迎えるか”が未来を左右する
外国人労働者の受け入れは、人口減少が進む日本にとって避けられない課題だ。重要なのは「誰が来るか」ではなく、「どのような体制で迎えるか」によって結果が大きく変わる。
安心して働ける環境が整えば、定着や生産性の向上につながる。教育や支援が不足すれば、誤解や摩擦は起きやすい。現場では言語や仕事の進め方など暗黙の前提が多く、初期指導やフォローが欠かせない。地域社会でも変化が一方的に進めば不安が膨らむが、情報共有や相談窓口があれば不信を抑えられる。
制度設計、職場教育、地域とのコミュニケーション。この3つがそろってはじめて受け入れは円滑に機能する。迎え方の質こそが不安を和らげ、共生の形をつくる鍵となっている。



