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バルミューダに“15億円赤字”の衝撃 スマホ失敗の爪痕と、家電ブランドの底力を検証する

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バルミューダ
BALMUDA 公式サイトより

高級家電ベンチャーとして独自の地位を築いてきたバルミューダが、2025年11月7日、2025年12月期の通期業績予想を従来の黒字から一転、15億円の赤字へと大幅修正すると発表した。規模100人規模の企業には打撃の大きい数字だ。
なぜ同社はここまで揺らいだのか。スマホ参入の失敗がいかに事業を変質させたのか。そして、家電ブランドとしての底力はいまなお健在なのか。SNSの反応も含め、多角的に読み解く。

 

創業から“高級家電ブームの象徴”へ ブランドを育てた20年

2003年創業のバルミューダは、「The GreenFan」「BALMUDA The Toaster」など、生活体験を変える家電を次々に投入し、2010年代の“高級家電ブーム”を牽引した。
同社の特徴は、スペック競争ではなく“生活の時間をデザインする”という思想にある。日常の所作や温度・光の質感を細部まで設計する姿勢が多くのファンを獲得し、北米・中国・韓国などにも進出。2020年にはマザーズ(現グロース市場)へ上場し、日本発デザイン家電メーカーとして確固たるブランドを築いた。

ブランド価値は単なる「高機能家電」ではなく「価値観としての家電」であり、これが長年の支持基盤となった。

 

スマホ参入で露呈した“デザイン偏重戦略の限界” 成功体験が裏目に

転機となったのは2021年発売の「BALMUDA Phone」である。
直線を極力排した曲面デザイン、4.9インチ小型筐体、独自UIなど、バルミューダらしい思想が詰まっていた。寺尾玄社長は「生物の体は直線でできていない」と語り、300体以上のモックで形状を追求したという。

だが問題は“価格と性能の乖離”だった。
価格は14万円超(SIMフリーでも10万円台)ながら、搭載SoCはミドルレンジ級のSnapdragon 765。
競合製品であるGoogle Pixel 5は同等スペックでより安価、カメラ性能も高いとされ、「価格はハイエンド、性能はミドル」という指摘が噴出した。

スマホ市場は家電以上に“実用性”と“コスパ”が優先される世界だ。
SNSでは、
「デザインは好きだが、この価格なら他を選ぶ」
「5万円台なら評価は違った」
といった声が相次ぎ、期待値の高さが失望の大きさにつながった。

加えて、スマホ開発の経験不足も影響した。京セラが製造を担ったが、ネットワーク検証やOS最適化、カメラチューニングなどは膨大なノウハウを必要とする。発売当初には細かな不具合指摘もあり、ブランドが本来得意とする「使用体験の滑らかさ」が十分に発揮できなかった。

こうしてBALMUDA Phoneは“ブランドの勇敢な挑戦”であると同時に、“高級家電の成功体験をそのまま持ち込んだ失敗例”とも評されることになり、2023年に事実上の撤退を発表した。

 

業績悪化の連鎖 黒字から再び赤字へ、売上21%減の重さ

スマホ事業の失敗は、財務に大きな影響を与えた。
2022年12月期の純利益は300万円(前期比99.7%減)。
2023年12月期は20.7億円の赤字。
2024年に一時6700万円の黒字へ戻したが、2025年は15億円の赤字予想へと逆戻りした。

特に深刻なのは売上高の減少だ。2025年12月期は前年比21%減とされ、家電事業の回復が追いついていないことが示唆された。

市場では、
「黒字から1年で再赤字は経営判断の甘さ」
「スマホ撤退後の軌道修正が遅い」
といった声が上がり、投資家の警戒感も強い。

家電の底力とブランド価値の持続 “思想を買うユーザー”の存在

ただし、バルミューダが築いてきた“家電ブランドとしての底力”は健在だ。
象徴的なのが「BALMUDA The Toaster」で、発売から年月が経っても、
「結局このトースターに戻る」
「パンの味が変わるという体験が唯一無二」
とSNSで語られ続ける。

2023年発売の「BALMUDA The Plate Pro」も発売初週5000台超の出荷を記録し、熱伝導の均一性や使い心地がプロ並みと評価された。料理系YouTuberやインフルエンサーの実演レビューも追い風となり、口コミ効果が購買へつながっている。

つまり、同社には依然として“世界観を含めて支持する層”が厚く存在する。
これは他社が模倣しづらい強みであり、スマホ失敗後もブランド価値が完全には揺らがなかった理由だ。

 

SNSに見る“極端な二極化”と、再成長の鍵としての原点回帰

今回の赤字発表を受け、SNS上では肯定派と批判派の意見が鮮明に分かれた。

肯定派は、
「生活体験が変わる」「価格ではなく満足度で判断すべき」
という“価値観としての支持”。

批判派は、
「割高感がある」「スマホ失敗で信頼が揺らいだ」
という“コスパ基準の失望”。

この二極化は、ブランドに対する期待の裏返しでもある。
ブランドが“記号”として強い企業ほど、賛否は激しくなる。
そして、この議論が続いていること自体が、バルミューダがなお“特別な存在”である証しともいえる。

同社が再成長するには、
・創業時の「生活体験を変える家電」という原点の再強化
・思想と実用性を両立するアップデート
の2点が不可欠だ。

15億円の赤字という数字は重いが、ブランドの物語はまだ終わっていない。
スマホ失敗という痛みをどう成長の糧に変えるか。
2026年以降の新商品展開と経営判断が、同社の未来を大きく左右する。


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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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