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安倍元首相銃撃公判で母親と妹が証言 旧統一教会と家庭崩壊の実像が浮かび上がる

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裁判

安倍晋三元首相が奈良市で演説中に銃撃され死亡した事件の裁判は、第8回公判で大きな節目を迎えた。殺人罪などに問われている山上徹也被告(45歳)の動機解明に向け、弁護側は被告の母親と妹を証人として尋問。

旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)への巨額献金、家族の崩壊、子どもたちが抱えた苦悩など、これまで断片的だった家族の歴史が連続した物語として姿を現した。宗教と家族の問題が、なぜ一人の男性を銃撃事件にまで追い込んだのか。その問いに迫る重い証言が並んだ。

 

信仰を続ける母親が明かした献金の全容

第8回公判で証言台に立ったのは、被告の母親だった。
弁護人が現在の信仰について尋ねると、母親は迷いなく「世界平和統一家庭連合です」と答え、旧統一教会であるか問われると「そうです」と応じた。

証言では、家庭を覆った宗教問題の核心が語られた。
母親は1991年8月に入信し、その月末に2000万円、翌1992年3月には3000万円を献金したと明かした。いずれも、1984年に自殺した夫の生命保険金6000万円が原資だった。その後も自宅などの資産約4000万円相当を献金し、総額1億円を超える献金が生活を圧迫した事実が示された。

証言の中で母親は、「献金を一生懸命して役に立とうと思っていたが、大変な間違いだった」と語った。しかし一方で、旧統一教会を強く非難する姿勢は見せなかった。罪悪感と後悔、そして信仰への執着が複雑に絡み合う様子は、法廷に重い空気を落とした。

さらに、母親は銃撃事件の報道を見たときの胸中を「びっくりして信じられなかった。そんなことをしていないと思った」と振り返った。「私がしっかりしていれば、徹也の人生も台無しにならず、安倍さんも議員として活動していたと思う」と述べ、深い自責の念を口にした。

 

被告と家族の軋轢 メールが語る崩壊の過程

第8回公判では、被告と母親・兄妹によるメールのやり取りも読み上げられた。送信・受信・未送信ボックスに残った文面から、家庭内の軋轢と苦悩が具体的に浮かび上がる。

母親には、献金や教団本部訪問のための渡韓について「カネはどうするのか」「家庭をどうするつもりだ」と厳しく問い詰める文章が並んだ。被告が家計の崩壊を肌で感じながら、母親に向けていた怒りと焦りが漂っていた。

兄とのやり取りには、生活の困窮や将来への不安が剥き出しになっていた。兄はその後自殺しており、法廷で読み上げられたメールは、家族が抱えていた重圧の一端を示していた。

対照的だったのは、妹とのメールだ。
「仕事大変かと思うが元気にしているか」
「頑張れ。お兄ちゃんが守ってやる」
「あなたにはあなたの正義がある」

未送信のまま残されていた文面には、妹を支えようとする兄としての、柔らかい言葉が並んでいた。家庭が壊れていく中で、被告が妹に寄せていた思いが他のメールとは明確に異なっていた。

 

妹が語った「忘れようとしてきた記憶」

続いて証人として出廷した妹は、冒頭で深く息を吸い、抑え込んできた記憶を語り始めた。

「生い立ちを話そうとすると、涙が出てつらかった。なるべく忘れようと生きてきました。つらかった、死にたかったという感情があります」

妹の証言は、旧統一教会信仰が家庭にもたらした実際の影響を、ありのままに伝えるものだった。
家には教団関連の写真が飾られ、祭壇のようなコーナーがつくられた。母親は朝晩祈り続け、「日本が韓国に戦争でひどいことをして、すみません」と半紙に書く姿も見たという。

「ろうそくの明かりだけでお祈りするようになり、気持ちが悪いと思った」
「学校から帰っても母はいなかった」
「お金がない生活が続いた」

こうした短い言葉の積み重ねが、子どもたちの幼少期を覆っていた現実を静かに突きつけた。

入廷した妹を見つめた被告は、唇を結び、やがて視線をそらしたまま俯いていたという。その仕草には、妹との精神的なつながりの深さと、彼女に苦しい記憶を語らせてしまった負い目が入り混じっていた。

 

動機解明に向けて揺れる評価

山上被告は逮捕後、「母親が旧統一教会にのめり込み、多額の献金をして家庭が崩壊した」「教団とつながりがあると思った安倍氏を狙った」と供述している。
第8回公判の証言は、こうした被告の動機を裏付ける一方で、計画性の高さや銃器の製造など、行為の重大性とどう折り合いをつけるかという難題も浮かび上がらせた。

弁護側は「宗教による家庭の破綻」を量刑判断の重要な材料に位置づけようとする。一方、検察側は政治的暴力としての危険性を強調し、厳罰を求める姿勢を崩さない。

家庭の崩壊、信仰の暴走、子どもたちの苦悩。これらが積み重なって形成された動機の複雑さは、単純な善悪では整理できない層を持つ。第8回公判は、裁判の本質が「個人の責任」だけでなく「家庭の痛み」にも深く関わることを、証言によって示した回となった。

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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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