
薄曇りの午後、渋谷のNHK局内ロビーには、独特のざわめきが漂っていた。記者たちの視線が一斉に壇上へ向けられると、第76回NHK紅白歌合戦の出場歌手が発表された。
初出場は&TEAM、aespa、FRUITS ZIPPER、M!LKら10組。令和の音楽シーンを象徴する新星が並ぶ一方で、19年ぶりのORANGE RANGEや、2人体制で挑むKing & Princeの復帰など、世代と時代が交差するラインナップとなった。
発表後のネットには「K-POPの比率」「目玉不足」「平成ブーム」など賛否の声が噴出。放送100年を締めくくる紅白は、今まさに“転換点”に立っている。
会見場に漂う緊張と期待
カメラのフラッシュが眩しく弾けた。静けさとざわめきが交互に訪れる会場で、司会の名前が読み上げられるたび、空気が少しずつ温度を変えていく。
綾瀬はるか、有吉弘行、今田美桜、鈴木奈穂子アナウンサー。新旧が交差した布陣だ。
テーマは「つなぐ、つながる、大みそか。」
放送100年の節目に掲げられた言葉は、音楽を通じて“分断の時代を越える”という宣言にも聞こえた。
紅組・白組の出場歌手一覧と初出場10組
今回発表された出場歌手は、紅組20組・白組17組の計37組。初出場は10組となった。
紅組(20組)
- アイナ・ジ・エンド(初)
- あいみょん(7)
- ILLIT(2)
- 幾田りら(初)
- 石川さゆり(48)
- 岩崎宏美(15)
- aespa(初)
- CANDY TUNE(初)
- 坂本冬美(37)
- 高橋真梨子(7)
- ちゃんみな(初)
- 天童よしみ(30)
- 乃木坂46(11)
- HANA(初)
- Perfume(17)
- ハンバート ハンバート(初)
- FRUITS ZIPPER(初)
- MISIA(10)
- 水森かおり(23)
- LiSA(4)
白組(17組)
- &TEAM(初)
- ORANGE RANGE(3)
- King & Prince(6)
- 久保田利伸(2)
- 郷ひろみ(38)
- サカナクション(2)
- 純烈(8)
- TUBE(3)
- Number_i(2)
- 新浜レオン(2)
- Vaundy(3)
- BE:FIRST(4)
- 福山雅治(18)
- 布施 明(26)
- Mrs. GREEN APPLE(3)
- 三山ひろし(11)
- M!LK(初)
特別企画
・堺正章
・氷川きよし
令和の新星10組 初出場の若い熱量
今回の紅白で最も目を引いたのは、10組の初出場アーティストだ。
ステージ経験よりも、SNSやストリーミングの爆発力で一躍国民的知名度を獲得した令和組が多い。
アイナ・ジ・エンドは静かな佇まいの中に鋭い視線を宿し、幾田りらは柔らかな笑顔で会場を包んだ。
FRUITS ZIPPERのメンバーが鮮やかな衣装で登場すると、場内に小さなどよめきが起きた。
aespaやCANDY TUNE、ILLITら、国境を越えて活動するグループも加わり、会場の景色は一瞬で2025年の音楽地図そのものとなった。
ちゃんみなは指輪を輝かせ、プロデュースしたHANAがステージ脇で控える。
二人の笑い声がこぼれるたび、会見場の空気がふっと和らいだ。
また、フォークデュオのハンバート ハンバートが初めて紅白の舞台に立つことも大きな話題となった。素朴で温かい歌声が並ぶ今年のラインナップの中で、独特の存在感を放っている。
ORANGE RANGEの19年ぶり、TUBEも復帰
平成の記憶が会場に流れ込んだのは、ORANGE RANGEの名が読み上げられた瞬間だった。
報道によれば、今年公開された「イケナイ太陽(令和版)」MVが“平成あるある”を織り込んだ構成で大反響を呼び、再生数は2億回を突破。平成ブームが再び音楽界を揺らした象徴でもある。
TUBE、布施明、久保田利伸らベテラン勢もラインナップに加わり、「懐かしさ」と「新しさ」が同居する今年の紅白の特徴がより鮮明になった。
3年ぶりにSTARTOから出場 2人体制King & Prince
ひときわ注目を集めたのが、STARTO ENTERTAINMENT所属のKing & Princeだ。
事務所として紅白は3年ぶりの復帰。
2人体制になって初の紅白となる彼らの名前が表示された瞬間、会場では数人の記者が思わず顔を見合わせる姿があった。
一方、同じSTARTO所属のNumber_iも出場。
かつて同じグループで活動したメンバー同士が、別々の場所に立つ紅白という構図は、令和以降の芸能界の“新しい風景”を象徴している。
ネットで広がる賛否 「K-POP枠」「目玉不足」「紅白離れ」
発表後、ネット上には多様な意見が書き込まれた。
「今年の紅白、K-POP多すぎない?」
「紅白は日本の伝統番組だから純日本の歌手で構成してほしい」
こうした声は例年より強く、グローバル化の象徴でもあるK-POP系アーティストの存在が議論を呼んでいる。
逆に、
「チャートの現実を見れば、K-POPを外すほうが不自然」
「今年のSNSの中心はどう見てもこのラインナップ」
と、支持の声もある。
さらに、
「今年は目玉が弱い」「世代の溝が広がっている」
「紅白を見る年齢層そのものが変わってきている」
といった“紅白そのもの”への根源的な議論も目立つ。
会見場の熱気とは対照的に、視聴者の温度は分断されつつある。
大幅入れ替え22組不在 NHKの選考はどこへ向かうのか
今年のリストには、昨年出場した22組の名前がなかった。
aiko、櫻坂46、Superfly、緑黄色社会、LE SSERAFIM、JO1、星野源など、
音楽シーンの中心人物が不在となった形だ。
NHKの選考基準は、例年通り
「その年の活躍」「世論の支持」「企画・演出への合致」。
とはいえ、視聴者心理は必ずしもその“合理性”に沿うわけではない。
「配信強者だけの番組になっていないか」
「世代バランスが偏りすぎていないか」
「朝ドラ枠の扱いは?」
紅白が時代に適応しようとするほど、国民的番組とは何かが改めて問い直される。
今年の紅白は“転換点”になる
令和の新星、平成ブーム、昭和歌謡、K-POP、朝ドラ枠、配信世代。
異なる文化がひとつのステージに押し込まれるのが紅白歌合戦だ。
今年の出場者は、その多様性が限界まで膨らんだ結果とも言える。
ただし、逆に言えばこれが「いまの日本の音楽シーンの総体」でもある。
果たしてこの多様性が、視聴者をつなぐ音楽として結実するのか。
それとも、世代間の距離を浮き彫りにするのか。
答えは、大みそかの夜に明らかになる。



