
1975年に産声を上げたテレビ朝日系の特撮ヒーロー番組「スーパー戦隊シリーズ」が、現在放送中の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』をもって終了することが共同通信の取材で明らかになった。
『秘密戦隊ゴレンジャー』から始まった50年近い歴史が、ついに終わりを迎える。世代を超えて愛されてきた国民的コンテンツの終幕は、特撮界にとってひとつの時代の終わりを意味する。
半世紀のヒーロー文化が遺したもの
「スーパー戦隊シリーズ」は、赤・青・黄・緑・ピンクなど色分けされた戦士たちがチームを組み、強大な悪に立ち向かう構図で知られる。
変身、名乗り、そして巨大ロボットによる合体バトル——その一連の“儀式”は、数十年にわたり日本の子どもたちの成長と共にあった。
1970年代の高度経済成長期、家族がテレビの前に集う“日曜の朝”はこの番組から始まるのが定番となり、特撮ヒーローは「家族の絆」の象徴でもあった。1980年代以降は、視覚効果の進化と共にスケールを拡大し、バンダイとのタイアップによる変身グッズ・ロボット玩具の販売が爆発的ヒット。
子どもたちの間で「レッドになること」は憧れの代名詞だった。社会的にも、戦隊ヒーローは単なるエンターテインメントを超えた存在だった。いじめや孤独、仲間との絆などを描くドラマパートは、時に大人たちにも感動を与えた。多くの親が自らがかつて観た戦隊を子へと継承し、三世代で同じ番組を語る文化を生んだ点は、日本のテレビ史における稀有な功績といえる。
スター俳優を生み出す“原石の舞台”
スーパー戦隊シリーズが歩んだ半世紀は、同時に若手俳優たちの青春でもあった。戦隊ヒーローのスーツの中で汗を流し、仲間と切磋琢磨した俳優たちは、後に日本の映像界を代表する存在となった。
『侍戦隊シンケンジャー』で主演した松坂桃李(37歳)は、戦隊卒業後にドラマ・映画界で演技派俳優として飛躍。『烈車戦隊トッキュウジャー』で注目を集めた横浜流星(29歳)は、恋愛ドラマやシリアス映画の主役を担い、世代を代表する俳優となった。
そしていま、戦隊やライダー出身俳優の頂点に立つのが「国宝俳優」吉沢亮(31歳)である。
彼は『仮面ライダーフォーゼ』(2011年)での端正なルックスと確かな演技力で注目を浴び、以降、『銀魂』『キングダム』『PICU』など数々の話題作に出演。NHK大河ドラマ『青天を衝け』では渋沢栄一役を演じ、令和の“国宝級イケメン”としてその名を不動のものとした。
吉沢はインタビューで「特撮で鍛えられたのは、カメラの前で“子どもたちの夢を裏切らない覚悟”」と語っており、戦隊・ライダー文化が育てた精神性の象徴とも言える存在だ。
こうした俳優たちの系譜が、日本のエンタメ界における「特撮学校」のような役割を果たしてきたことは疑いない。戦隊シリーズは、単にヒーローを描く場ではなく、“人を育てる現場”でもあったのだ。
終了の背景に潜む構造的限界
だが、華やかな表舞台の裏で、制作現場は限界に達していた。関係者によれば、終了の最大の要因は「制作費の高騰」と「収益構造の変化」にある。
地上波放送の広告収入が落ち込み、視聴者の中心がテレビから配信サービスへと移る中で、特撮番組の収益を支えてきた玩具販売も飽和状態に陥った。コロナ禍を経てイベント・劇場版などの収入が不安定となり、もはや番組単体で採算を取ることは難しかったという。
加えて、CGやドローン撮影の増加により、1話あたりの制作費は平成初期の約2倍に上昇。スタッフやキャストの労働環境改善も求められる中、従来の「毎年一作」ペースでは回らなくなっていた。
かつて日本のテレビ文化を象徴した“日曜朝の戦隊枠”は、時代の変化とともにその役割を終えようとしている。ある制作関係者は、「戦隊はこれまで日本の希望を描いてきたが、今はその希望を維持するだけの経済基盤がない」と嘆く。
“戦隊不倫”が落とした影 揺らぐ信頼とブランド価値
終了を前にして、シリーズにさらなる衝撃を与えたのが、現行作品『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の出演者による不倫疑惑報道だ。報道によれば、出演俳優と共演女優の不倫関係が明らかになり、撮影現場や番組イベントに大きな混乱をもたらした。
ヒーローという清廉なイメージが求められる特撮作品において、この種のスキャンダルは致命的だ。スポンサー企業からは「番組のイメージ低下を懸念する声」が相次ぎ、関連グッズのプロモーション活動にも一時的な制限がかかったという。
現場では出演者の差し替えや脚本の修正が行われ、最終回の撮影スケジュールにも遅れが生じている。長年、子どもたちに夢と勇気を与えてきた作品が、現実の倫理問題に揺さぶられるという皮肉な構図だ。
ファンの間では「作品に罪はない」という擁護の声も上がる一方、「ヒーローの顔をした人間が裏で不誠実な行動をしていた」という失望の反応も目立つ。戦隊ブランドの信用は、かつてないほどの試練に晒されている。
未来への再生か、静かな終焉か
シリーズの終了は“終わり”を意味するのか、それとも“再生への始まり”なのか。制作会社や放送局は今後、作品の知的財産を活用したアニメ化、海外展開、配信限定シリーズなどの構想を練っているとされる。
半世紀にわたり積み上げたヒーロー像を、時代に合わせて再構築する試みは避けられないだろう。だが、“毎週テレビで戦うヒーローがいる日常”が消える現実に、世代を超えた喪失感が広がっている。
SNS上では「子どものころの憧れが終わってしまう」「日曜の朝が空っぽになる」といった声が次々と投稿され、国民的シリーズが果たしてきた精神的支柱としての役割の大きさが改めて浮き彫りになっている。
50年の歴史に幕を下ろす「スーパー戦隊シリーズ」。それは、単なる番組終了ではない。日本のヒーロー文化が、次の時代へどう受け継がれていくのかを問う象徴的な出来事となるだろう。



