
熱狂に包まれたドジャー・スタジアムが、静寂に変わった。
ワールドシリーズ第5戦、初回わずか3球での2者連続アーチ。スネルの好投も報われず、打線はブルージェイズの若き右腕イェサベージの前に沈黙した。
1-6の完敗。ドジャースは2連敗で崖っぷち。大谷翔平は4打数無安打、連覇の夢をつなぐ望みは、次戦・山本由伸の右腕に託された。
静まり返ったドジャー・スタジアム
10月30日(日本時間)、ロサンゼルス。
白いユニフォームの波が揺れたのは、最初のわずか数分だった。
ドジャース先発・ブレイク・スネルが投じた初球。
ブルージェイズの1番・シュナイダーが快音を響かせ、打球は右中間席へ吸い込まれた。続く2番・ゲレーロJr.も2球目を完璧に捉え、左翼席へ。
わずか3球で2失点。ワールドシリーズ史上初の“試合開始から2者連続ホームラン”だった。
観客席は一瞬、息をのんだまま動かなかった。
だが、ベンチで腕を組むロバーツ監督の表情は変わらない。
「まだ序盤だ」と言わんばかりに、スネルは沈黙の中、ゆっくりと息を吐いた。
光明はヘルナンデスの一振りだけ
ブルージェイズ先発は22歳のルーキー右腕、トバイアス・イェサベージ。
動くストレートに落差の大きいスプリット。
2回を終えた時点でドジャース打線は5者連続三振。
ベテランのフリーマンも、スターのベッツも、わずかに首をかしげるだけだった。
静まり返った本拠地を救ったのは、8番・キケ・ヘルナンデス。
内角低めのストレートを完璧にさばくと、打球は左翼席へ一直線。
本拠地のスタンドがようやく歓声に包まれた。
「ここからだ」。
誰もがそう思った瞬間だったが…。
魔の7回、再び
4回、スネルはライト線への三塁打から犠牲フライを許し、1-3。
それでも、粘りのピッチングで6回までを最少失点で切り抜けた。
116球、限界を超えた右腕に、ロバーツ監督は「もう一人」と腕を上げた。
だが、この采配が、再び試合を狂わせる。
7回、2死一・三塁。
代わったエンリケスの1球目は、大きくワンバウンド。
キャッチャーのミットをはじき、ボールはバックネットへ。
走者が生還。1-4。
続く打者にはライト前タイムリー。スタンドの空気が重く沈む。
2試合連続、“魔の7回”だった。
イェサベージの支配
その裏、マウンドのイェサベージはまるで別世界の投球を見せた。
ストレートは150キロ台半ば。スプリットは落差40センチ。
大谷翔平の第3打席、甘く入ったスライダーを完璧に捉えた打球は、右中間へ一直線。
だが、バーガーがダイビングキャッチ。
スタンドからはため息と、わずかな拍手。
7回を投げ切り、12奪三振。新人投手としてのワールドシリーズ最多記録を塗り替えた。
ブルージェイズベンチが沸き立つ一方で、ドジャースの打席には焦燥の色が広がっていた。
連覇の夢を託す男へ
8回、再び暴投からの失点。
記録上は「ミス」だが、心の乱れが映し出されていた。
ロバーツ監督は試合後、険しい表情で言った。
「アウトを取れる場面で確実にアウトを取れなかった。それがすべてだ」
1-6。
スコアボードの光がにじむ。
球場を後にするファンの中から、「次は山本だ」「彼ならやってくれる」という声がかすかに聞こえた。
シリーズは3勝2敗。
舞台をトロントへ移し、ドジャースの命運は山本由伸の右腕に委ねられる。
大谷翔平は、今シリーズここまで打率.185。
イェサベージに完璧に抑え込まれたこの試合でも、打球の鋭さは戻りつつある。
一方、ブルージェイズ打線は「線」としての強さを見せつけた。
繋ぐ打撃、確実な進塁、守備の集中。
ドジャースが連覇を狙うなら、「一発頼み」からの脱却が必要だ。



