
10月16日夜、公式YouTubeの生配信に開始前から40万人以上が待機した。登場したのは、令和を象徴するロックバンド Mrs. GREEN APPLE(ミセス) の3人。
大森元貴(29)は、ゆっくりとした口調で語った。
「2025年12月31日をもってフェーズ2を完結致します。そして2026年1月1日、フェーズ3を開幕します」。
不安と期待が交錯する中、大森は続けた。「活動休止はしません。メンバー編成も変わりません」。
ファンの心配を一蹴するその宣言は、10年の歩みを経たミセスが再び前に進む合図だった。
青春の爆発と静寂――フェーズ1の軌跡
2013年、Mrs. GREEN APPLEは大森元貴(Vo/Gt)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)、山中綾華(Dr)、髙野清宗(Ba)の5人で結成された。
平均年齢わずか20歳前後。ライブハウスから始まった彼らの音楽は、瞬く間に若者の共感を集めた。
2015年にメジャーデビューを果たし、代表曲「青と夏」「僕のこと」「インフェルノ」などが立て続けにヒット。
瑞々しいメロディーと詩的な言葉で“青春ロックの新星”と評された。
だがその裏で、大森の中には「表現をもっと広げたい」「次の段階へ進みたい」という葛藤が芽生えていた。
メンバー個々の方向性の違いもあり、2020年7月、「フェーズ1完結」を宣言。活動を休止するという決断に至った。
この突然の発表はファンに衝撃を与えたが、同時に“解散ではない”という言葉が希望を残した。
5人から3人へ――知られざる再構築の裏側
活動休止後の2年間、バンドは「何を守り、何を変えるか」という根源的な問いに向き合った。
そのなかで、大森・若井・藤澤の3人が中心となり、音楽の核を再定義していった。
一方で、山中綾華と髙野清宗は「それぞれの道を歩みたい」として脱退。2021年12月末をもって正式にグループを離れた。
2人はのちに自身のSNSで、「音楽を続けていくための前向きな選択だった」と説明している。
決して不仲や対立によるものではなく、人生の歩幅を見つめ直した結果だった。
大森は当時の心境をこう振り返っている。
「それぞれが持っていた思いを尊重したかった。
ミセスという場所を守るために、必要な変化だったと思っています」
3人になったミセスは、音の厚みを再構築するためにサポートミュージシャンを迎えながらも、コアの創造は自分たちで完結させた。
藤澤がサウンドの設計を担い、若井がギターアレンジで骨格を作り、大森が作詞・作曲・ビジュアル全般を統括。
まさに“3人のミセス”として、再生の道を歩み始めた。
フェーズ2の飛躍、そしてフェーズ3宣言へ
2022年春、“フェーズ2”が始動。
新体制初の楽曲「ニュー・マイ・ノーマル」は、再生を象徴するような伸びやかなサウンドで話題を呼んだ。
続く「ダンスホール」「ケセラセラ」「ライラック」など、ポップとロックを自在に行き来する楽曲でチャートを席巻。
かつての勢いを保ちながら、表現の幅を飛躍的に広げた。
その結果、2023年には日本レコード大賞を受賞、翌年には連覇を達成。
NHK紅白歌合戦にも出場し、2025年には「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」で最優秀アーティスト賞に輝いた。
人気・実力ともに頂点を極めたフェーズ2の4年間は、まさに“国民的バンド”への階段を駆け上がった時期だった。
しかし、大森は配信で「ここ数年、ほとんど休みがありませんでした」と苦笑いを交え、「来年の夏に1か月の長期休暇をいただきます」と明かした。
それは、走り続けた10年間の重みと、これから先の持続を見据えた“戦略的休息”でもあった。
継承と革新――止まらない物語の先へ
配信の終盤、大森はファンに向けてこう語った。
「フェーズを変えることは、ミセスをより長く続けていくために必要なこと。
夢のような時間を保存しておくためにも、完結することを決めました」
若井は「もっと楽しんでもらえるように進化したい」、藤澤は「より深く愛してもらえるような活動をしていきたい」と誓った。
そしてバンドロゴの刷新、来年秋に予定される6枚目のオリジナルアルバムも発表。
音楽とアート、映像表現を融合させた“総合的プロジェクト”を目指す方針も明かした。
フェーズ3――それは終わりではなく、続けるための変化。
10年の軌跡を経て、青春、再生、そして継承の物語を紡ぐ3人。
その挑戦が、次の時代の音楽地図をどう塗り替えるのか。
大森の言葉が静かに響いた。
「フェーズ3の開幕を、思いっきり楽しんでもらえたら」。
Mrs. GREEN APPLEの物語は、まだ終わらない。