
半世紀にわたり、日本の「食」と「人の温もり」を伝え続けたフジテレビの『くいしん坊!万才』が、11月22日に幕を下ろす。最後のロケ地は鹿児島。松岡修造が涙を浮かべて噛みしめた一口に、50年の歴史が宿っていた。
湯気の向こうの涙 松岡修造、最後の旅へ
湯気の向こうに、白いご飯が輝いていた。
鹿児島・霧島市。定年後に米作りを始めた元カメラマンの家を訪ねた松岡修造は、炊きたての新米を前に言葉を失った。
20年以上にわたり延べ1000回以上出演した“くいしん坊”が、箸を持つ手を震わせ、目に涙をにじませる。「この味を、ずっと覚えていたい」。
その一言に、番組の原点、食べることの喜びが凝縮されていた。
10月26日(日)17時25分、番組は関東ローカルで放送を再開する。
休止から9カ月ぶりの復活ロケであり、11月22日の最終回へ向かう全4回のラストランの幕開けとなる。
全国6599回、“いい味、いい旅、いい出会い”
『くいしん坊!万才』が歩んだのは、日本列島を縦断する食の旅だった。
1975年に放送を開始。初代・渡辺文雄を皮切りに、竜崎勝、友竹正則、宍戸錠、川津祐介、梅宮辰夫、村野武範、辰巳琢郎(旧字)、山下真司、宍戸開、そして11代目・松岡修造へとバトンがつながれた。
“いい味、いい旅、いい出会い”をテーマに、郷土料理や特産品を通して地域の暮らしや文化を掘り下げてきた。
1975年6月30日から2025年11月16日まで。その放送回数は実に6599回。
50年という年月が、日本の「食の記憶」を丁寧に紡いできた証だった。
“ごちそうさま”の先に
最終回は、11月22日(土)13時30分からの特別番組として放送される。
歴代レポーターが一堂に会し、「人生で一番おいしかった料理」や「一生忘れられない味」を語り合う。
昭和、平成、令和、それぞれの時代を象徴する“食”の記憶がひとつに重なる。
『くいしん坊!万才』は、単なるグルメ番組ではなかった。
一皿の料理の背後には、その土地で生きる人々の誇りと物語があった。
松岡修造が涙でかみしめた新米の白さには、6599回分の「ありがとう」と「ごちそうさま」が込められていた。
半世紀の旅路を終えた今も、あの笑顔と湯気はきっと、誰かの記憶の中で湯気を立て続けている。