
ドジャースの地区シリーズ突破で沸くロサンゼルス。しかしその熱狂の裏側で、大谷翔平(31)をめぐる別の「戦い」が静かに進行している。大谷が広告塔を務め、購入者第1号として名を連ねたハワイの高級別荘プロジェクトをめぐる訴訟で、新たな訴状が提出されたのだ。争点は「大谷の名の使い方」だけでなく、「家族を巻き込んだ広告利用」への不快感にも及ぶ。球界のスターが直面するブランド・リスクの実態を追う。
妻子の応援とともに“充実の秋”、一方で法廷の影
10月9日(現地時間)、ロサンゼルス・ドジャースは本拠地でフィリーズを下し、地区シリーズを3勝1敗で突破した。球場には、妻・真美子さんと生後まもない娘の姿も。夫を見守る家族の姿はSNSでも話題となり、「温かい家族愛」と称賛の声が広がった。
しかしその裏で、大谷がかつて広告契約を結んだハワイの別荘開発をめぐる訴訟が、再び火を噴いている。現地時間9月30日、原告側が新たな訴状を提出。ポストシーズン開幕の日に合わせるかのようなタイミングに、米メディアも「法廷とグラウンドの二重戦」と報じた。
プロジェクトの原点——大谷が“1号購入者”だった
問題のプロジェクトは、ハワイ州マウイ島で計画された高級別荘地開発。原告はデベロッパーのケビン・J・ヘイズ氏と、不動産ブローカーの松本朋子氏。2人は不動産投資会社「キングスバーン・リアリティーキャピタル」と共同で開発を進めていた。
彼らは2022年、大谷とプロモーション契約を締結し、「メジャーリーガーも愛する極上リゾート」というイメージ戦略を展開。大谷自身も購入者第1号として契約したとされ、当初は“夢の別荘プロジェクト”として日米メディアで紹介された。
しかし2023年夏、状況は一変。原告側は「大谷の代理人バレロ氏が不当な圧力をかけ、我々をプロジェクトから排除した」と主張。8月には大谷本人とバレロ氏を相手取り、訴訟を起こした。その直後、プロジェクト公式サイトから大谷の写真とコメントが削除され、ファンの間では「何が起きているのか」と憶測が飛び交った。
「不正利用」か「権力の乱用」か——両者の主張が真っ向対立
この訴訟に対し、大谷側は9月14日付で「大谷の名や肖像が契約外で不正に使用された」として棄却を求める文書を提出。バレロ氏とともに「プロモーション契約の逸脱」を指摘した。
だが、原告はこれに反論。9月30日に再提出した訴状では、「大谷側は、事前に写真使用の承諾を得ていたにもかかわらず、後から『不正利用』と主張した」と指摘したうえで、バレロ氏による“脅迫的な発言”を記録した。
訴状には次のような一節がある。
〈バレロ氏はキングスバーン社に対し、『原告を外さなければ大谷氏の名で報復訴訟を起こす』と警告した〉
〈キングスバーン社は“大谷氏をなだめるためだけに”原告の解任を決定した〉
原告側は、「バレロ氏は大谷の承認のもとで行動していた」と明記し、代理人ではなく“大谷本人の意思”が背景にあると訴えている。
妻・真美子さんと娘を“広告素材”にしたことへの不満
訴訟が複雑化する背景には、「家族の扱い」があるとされる。米在住ジャーナリストは次のように語る。
「1月の着工式で、妊娠中の真美子さんが映り込んだ写真がプロジェクトの公式サイトに掲載され、すぐ削除された“事件”がありました。プライバシーに極めて敏感な大谷夫妻にとって、これは一線を越えた行為だったはずです」
さらに、購入希望者向けに「契約者は年に一度大谷夫妻とディナーを楽しめる」と宣伝していたことも問題視されたという。原告側は「大谷の了承を得ていた」と説明しているが、代理人側は「虚偽の約束」として反発。家族を巻き込んだ“営業戦略”が、信頼関係を決定的に壊したとみられる。
大谷がこの別荘に関心を持ち始めたのは2022年10月ごろ。松本氏と現地を視察した際には、まだ結婚前であり、現在のような家庭像は描けていなかった。だが今は、生まれたばかりの娘と妻の存在が何よりも大切になっている。広告利用をめぐる価値観の変化も、訴訟の背景にあるだろう。
ブランド帝国の拡大とリスク——11月3日、初回期日へ
この訴訟の初回審理は、11月3日にオンラインで実施予定だ。ちょうどポストシーズン終了直後にあたる。
訴訟の結果次第では、大谷の広告活動全体に影響を及ぼす可能性もある。
大谷は現在、世界各国で十数社とスポンサー契約を結び、肖像権ビジネスの規模は数十億円にのぼる。メディア露出が拡大するほど、肖像の扱いや管理責任は重くなる。弁護士の一人は「スター選手が“ブランド化”するほど、法的トラブルの火種は増える」と語る。
華やかなプレーの陰で、法廷という現実的な課題に直面する大谷。勝負の秋は、グラウンドの外でも続いている。