
閉幕を目前に連日20万人以上が押し寄せる大阪・関西万博。累計来場者は2270万人を突破し、表向きは「大成功」の空気が漂う。しかしその舞台裏では、入場予約が取れない“入れない万博”現象に乗じ、高額転売や詐欺被害が続出している。関西テレビ「newsランナー」(10月1日放送)が報じた現場取材をもとに、被害者の悲鳴、加害者の呆れた開き直り、そして行政・メディアへの批判――。華やかな熱狂の裏に潜む「負の遺産」を追った。
長蛇の列と「入れない現実」
大阪湾岸の会場に朝9時前から延びる人の列。炎天下や秋雨をものともせず、家族連れや学生たちが入場を待つ。だが「チケットを持っていても予約ができない」「当日券狙いで徹夜したのに買えなかった」という声が相次ぐ。
未使用チケットを当日券に交換する制度も設けられたが、一日数百枚しかないため、夜8時から場所取りする親子や、地面にレジャーシートを敷き横たわる人々の姿も。小学児童は「寝心地はまあまあ」と笑ったが、親は「1時間しか寝られなかった」と疲労困憊。始発組の男女は「6時半には終了と聞いて絶句した」と肩を落とし、「仕方ないから海遊館でも行く?」と自虐気味につぶやいた。
フリマに溢れる“闇チケット”
こうした需要を狙ってネット上には“闇市場”が広がっている。フリマアプリには定価の4倍以上で出品された入場チケットが並び、なかには「入場枠確保済み」とうたう怪しげな出品も目立つ。転売禁止の文言も完全に無視されている。
問題は高額販売だけにとどまらない。もっと悪質なのは“詐欺”だ。
兵庫県の男性は足が不自由なため、秋の涼しい時期に来場を試みたが、公式サイトは満員。SNSで「障がい者枠あり」とする投稿を見つけ、連絡を取った。指定された金額は7400円。だが送金後に届いたのはパスワード付きPDFデータ。「解除するには追加料金が必要」と迫られ、さらに「返金するから1万8000円送れ」と次々要求された。男性は「ほんまに腹立つ。弱い部分もあったが、だまそうとする行為自体が許せない」と憤った。
泣き寝入りする女性たち
被害は男性だけではない。大阪府内の女性は母親らと訪れるため、3枚分19500円を送金。しかし「確認します」と返事が来ただけで、その後は音信不通となった。女性は「アカウントが生きていて、投稿も繰り返されていたので信じてしまった」と肩を落とす。
「早く決断しないと」と焦らされ、気付けば送金。SNS上には「詐欺に遭った」「チケットが届かない」といった被害報告が続々と投稿され、だまされた人々の無念さが滲み出る。
開き直る加害者たち
さらに驚くべきは詐欺師たちの態度だ。取材班が直接コンタクトすると、返ってきたのは「ただの金稼ぎ」「事前送金が危険と分かっているのに引っかかる方も悪い」という開き直りの返答。
被害者の涙を嘲笑するような物言いに、記者でさえ怒りを覚える。週刊誌的にいえば、これは“モラルの腐敗見本市”だ。被害者を叱責することで罪悪感を薄め、むしろ優越感すら漂わせる態度。まさに「人の弱みを食い物にする商売」が正当化されている。
行政とメディアの責任のなすり合い
大阪府の吉村洋文知事は「犯罪であり許されない。高額チケットに手を出さないように」と呼びかけた。しかし被害を未然に防ぐ施策は後手に回った感が否めない。
一方、橋下徹氏は「今の混乱はメディアの責任も大きい」と強調。序盤は「つまらない」「目玉がない」と報道が続き、販売促進のために「通期パス」を設けた。その結果、終盤に需要が集中したというのだ。行政の読みの甘さ、メディアの一斉批判、そして責任のなすり合い。被害者にとっては「どこが悪いか」より「どう守られるか」が問題だが、その視点が欠けている。
ミャクミャクまで食い物に…残り12日、負の遺産をどう総括するか
さらに追い打ちをかけるのが、公式キャラクター「ミャクミャク」を悪用した偽サイトだ。トレンドマイクロの調査によれば、わずか2週間で344件も確認され、セール価格で誘い込んで粗悪品を送りつけたり、個人情報を盗み取るケースもある。人気キャラすら詐欺の餌食となり、熱狂がそのまま犯罪者のビジネスチャンスにされている。
閉幕まで残り12日。SNSには「最後に行きたい」という声が溢れるが、その熱気を狙う闇商売はとどまる気配がない。
涙を流す被害者、開き直る加害者、後手に回る行政、責任を押し付け合うメディア――。
「入れない万博」は、成功と同時に“負の遺産”をも残そうとしている。果たして未来に語り継がれるのは栄光か、それとも失敗の記憶か。泣いても笑っても、答えが出るのはあとわずかだ。