
マクドナルドのハッピーセットに付いた「ポケモンカード」が転売ヤーの標的となり、批判が広がった。一方で吉野家は同じキャラクター景品でも異なる仕組みを導入し、一定の評価を得た。市場データ、消費者心理、そして国内外の規制動向から両社の違いを読み解く。
マクドナルド「ハッピーセット」ポケモンカード転売騒動の現場
8月9日、全国のマクドナルド店舗に長い列ができた。子どもを連れた家族が「まだ残っているかな」と期待を込めて並んだが、掲示板には「本日のポケモンカードは終了しました」の文字。落胆する親子を横目に、紙袋を抱えた若者が足早に去っていった。
この日、ハッピーセット購入者限定で配布されたのは、マクドナルドロゴ入りの「ポケモンカード」2枚。販売価格は510円からで、単純計算すれば1枚あたり約255円の“仕入れ値”となる(公式が示した数字ではなく便宜的な概算)。
しかしフリマアプリにはすぐに出品が相次ぎ、10パックで23万9,999円(1パックあたり約2万4,000円)という高額出品や、単品でも6,000円前後から1万円超の価格帯で取引されるケースが確認された。ピカチュウ単カードも4,000円台で出品されており、定価との乖離は鮮明だ。
ポケモンカード市場3000億円 転売ヤーが狙う必然性
背景には市場の急拡大がある。日本玩具協会の統計によれば、2024年度の国内玩具市場は1兆992億円。そのうちトレーディングカードゲーム(TCG)が約27.5%を占め、規模にして3,024億円に達した。
ポケモンカードはもはや子どもの遊びにとどまらず、投資対象や収集品として扱われる。なかには数百万円から数千万円で取引されるカードもあり、犯罪組織によるマネーロンダリングに利用されるケースすらある。こうした“資産価値”を持つ商品を景品に設定した時点で、子ども向け企画は大人の投機需要に飲み込まれる必然性を抱えていた。
吉野家の時間差提供がもたらした効果
一方、吉野家は同じキャラクターコラボでも異なる仕組みを導入した。2025年1月に実施した「カービィ盛」キャンペーン第3弾では、450円の会計で1ポイントを付与し、2ポイントでフィギュア1個と交換できる仕組みを導入。さらに、その場で渡さず、7月上旬に発送する形式を採用した(ITmedia報道)。
半年待つ仕組みは、消費者には「正規ルートで必ず届く安心感」を与えた。一方で転売ヤーにとっては「半年後に人気が続く保証がない」ため在庫リスクが大きく、買い占めの動機を削いだ。実際、SNSには「半年待った甲斐があった」「安心して購入できた」といった声が寄せられ、マクドナルドの混乱との対比が際立った。
法的視点:景品表示法と国内外の転売規制
景品表示法では「過大景品の禁止」が定められており、景品の価額は取引価格の20倍かつ10万円が上限だ。ハッピーセットの価格を考えれば、今回のカードが直ちに違法となることはない。しかし「景品が本来の目的を歪めた」という点では、制度の想定外を突かれたともいえる。
日本でも2019年に「特定興行入場券の不正転売禁止法」が施行され、コンサートやスポーツのチケット転売は刑事罰の対象となった。ただし対象はあくまでチケットに限られ、今回のような玩具や食品景品は規制の枠外にある。
一方で海外はより広い対応を進めている。米国では2016年に「BOTS Act」が成立し、ボットによる大量購入や転売を禁止。フランスではコンサートチケット転売に罰則を科し、イギリスでも消費者保護の観点から段階的に規制を強化してきた。対象は主にチケットだが、オンライン取引全般に応用できる仕組みとして議論されている。
日本が「分野別・限定的な規制」にとどまるのに対し、欧米は「横断的・包括的な規制」へと踏み込みつつある。この差は、企業の自主対応にどこまで依存するかという点で、今後の課題を浮き彫りにしている。
SNSの声に映る企業姿勢の差
SNSの反応は象徴的だった。マクドナルドには「子どもが楽しめない」「食べ物を粗末に扱う販促は失敗だ」といった批判が集中。一方で吉野家には「半年後でも信頼できた」「健全な仕組み」と称賛が並んだ。
「今すぐ欲しい」という消費者心理を転売ヤーが突き、ブランドを揺るがしたマクドナルド。逆に「必ず届く」という安心感を与えて心理を制御した吉野家。両社の姿勢の差が、評価の分岐を鮮明にした。
転売騒動が突きつける次の一手
単なる購入制限では、転売ヤーを抑え込めない。並び直しや多店舗回りで容易に突破されるからだ。今後は、抽選販売・本人確認・時間差提供といった複合的な仕組みが必要になる。
重要なのは、消費者に「正規ルートで必ず手に入る」という信頼を持たせることだ。おまけ商法は話題を呼ぶ強力な武器であると同時に、企業姿勢を問われる試金石でもある。国内の法制度が追いつかない中、マクドナルドと吉野家の差は、ブランドの未来を左右する分岐点として映し出されている。