
サントリーホールディングス新浪剛史会長が9月1日付で辞任した。福岡県警が大麻取締法違反の疑いで捜査を進め、8月22日には都内の自宅を家宅捜索。しかし薬物は発見されず、押収されたのはCBDなど合法の成分を含むサプリメントだった。新浪氏は関与を否定したが、会社は辞任を受理。
経済同友会代表幹事を務め、政財界に影響力を持つ人物の退場は、経済界に大きな衝撃を与えている。
捜査の内幕 売人逮捕から“本丸”突入へ
発端は有力売人の逮捕だった。押収品から浮かび上がった発送先リストに、経済界の大物・新浪剛史の名が記されていた。確かな裏付けを得たと判断した警察は、裁判所の令状を携え、異例の大物経営者の自宅へと踏み込んだ。
家宅捜索の光景
8月22日早朝、都内の高級住宅街に数台の捜査車両が滑り込む。近隣住民の視線を避けるように、私服の刑事たちが無言で門をくぐり、令状を示して家宅に突入した。重厚なドアの内側では、警察官たちが手際よく部屋を分担し、キッチンの棚や寝室のクローゼットを次々と開けていく。
「押収!」という声が上がったとき、白い手袋の先にあったのは封を切られていないサプリメントの容器。ラベルにはCBDと記され、ほかにも合成大麻を成分とする健康食品が並んでいた。刑事たちは段ボールを組み立て、押収品を静かに梱包していった。違法薬物は出てこない。その静けさは、逆に異様な緊張感を漂わせた。
通常、このクラスの対象者に踏み込むとき、空振りは許されない。確実な裏付けをもって「本丸」に挑むはずだからだ。それが不発に終わった――この一点が、後の憶測を呼び込んだ。
経歴と接点が生む疑念
新浪氏は神奈川県立横浜翠嵐高校から慶應義塾大学経済学部へ進み、ハーバード経営大学院を修了。三菱商事を経てローソン社長、サントリーHD社長、そして会長職を歴任した。学閥・官僚・財界を縦横に結ぶ人脈を誇り、否が応でも警察庁や財務省の高級官僚とも接点が生まれる過去の持ち主だ。こうした経歴を背景に「逮捕は国家のメンツに関わる」との声が漏れるのも当然だ。
Z李氏が語る“すり替え”説
SNSで強い影響力を持つZ李氏は、この空振り劇を次のように分析した。
「売人からは大麻が押収されたのに、新浪さん宅からは合法の合成大麻しか出なかった。ガチのブツしか扱わない売人が、よりによって新浪さんに偽物を渡すわけがない。誰かがガサ前か押収後にすり替えたんじゃないか」
さらに彼は「経済同友会の代表を守るための闇の力が働いたのでは」とまで踏み込み、アングラ界隈では陰謀論が一気に広がった。真相は不明だが、家宅捜索の“空振り”が異様な説得力を持つ形になったことは否めない。
日本社会の「大麻アレルギー」と海外の温度差
今回の辞任劇は、日本の「大麻アレルギー」を象徴する。トヨタのジュリー・ハンプ元常務役員が2015年に同法違反で逮捕された際も、不起訴処分ながら会社を辞任せざるを得なかった。司法の結論よりも、社会的制裁が先に下るのが日本の常だ。
海外との温度差は鮮明だ。米国では半数以上の州で嗜好用大麻が合法化され、カナダでは国家レベルで解禁。欧州でも医療用を中心に規制緩和が進む。企業のCEOが関連ビジネスに参入することも珍しくない。
一方で日本では、大麻は覚醒剤やヘロインと同列に扱われ、嫌疑だけで社会的キャリアが瓦解する。
「合法大麻」という落としどころ
こうした不可解な事実の連鎖を一本の筋書きにまとめるなら、こうなる。有力売人の逮捕から捜査は本丸へと突入。しかし「出てくるはず」の違法大麻は姿を見せず、代わりに合法のCBDや合成大麻が並んでいた。
これは偶然なのか、それとも意図的な“落としどころ”だったのか。経済同友会代表幹事という立場の人物を違法大麻所持で逮捕すれば、国際的信用は揺らぐ。
だからこそ「合法物質ならば社会的制裁で処理できる」との政治的妥協が成立した――そんな仮説が、いま経済界ではまことしやかに噂されている。
信頼の失墜と残された謎
サントリーの鳥井信宏社長は会見で「資質を欠く」と厳しい言葉を口にした。ブランドを守るには辞任が最善の選択肢だったのだろう。しかし何が押収されたのか、なぜ空振りに終わったのか、いまだ明確な説明はない。
新浪氏の退場は、司法手続きより先に社会的制裁が下る日本社会の特異性を改めて示した。だがその陰に、政財界の人脈、捜査当局の判断、そしてすり替え説を呼ぶ不可解な展開がある。事件の本当の姿は、まだ誰も掴んでいない。
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