
8月29日に全国公開された二宮和也主演映画『8番出口』が、公開3日間で観客動員67万人超、興行収入9.5億円を突破した。2025年公開の実写映画でNo.1スタートを記録し、早くも社会現象の兆しを見せている。本作は、世界的にヒットしたインディーゲームを川村元気監督が実写化したサバイバルスリラー。地下通路を舞台に「出口」を探す物語は、スクリーンを越えて現代社会への鋭い問いを投げかける。
『8番出口』3日間で9.5億円突破
週末の映画館ロビーは、公開を待ちわびた観客で熱気に包まれていた。
東宝によると、8月29日から31日までの3日間で観客動員は671,840人、興行収入は9億5,391万900円を記録。興行通信社の発表によれば、2025年公開の実写映画として堂々の第1位発進となった。
「数ある映画の中から、こんなヘンテコな作品を選んでいただきありがとうございます」と舞台挨拶で語った二宮の言葉通り、“異色作”と呼ぶにふさわしい映画は、予想を超える勢いで受け入れられている。
さらに9月12日からは、MX4D・4DX・SCREENX・ULTRA 4DX・Dolby Cinemaといった体感型上映の拡大も決定。座席が揺れ、風や水しぶきが生み出す五感の刺激が、観客を“異変の渦中”へ引き込むことになる。
世界170万DLのゲームを実写化
原作は、2023年にインディーゲームクリエイター・KOTAKE CREATEが1人で開発した『8番出口』。
舞台は無限にループする地下通路。プレイヤーは「異変を見逃さない」「見つけたら引き返す」「異変がなければ進む」「8番出口から脱出する」という4つのルールに従い、出口を探していく。
シンプルながら中毒性の高いゲームは世界170万ダウンロードを突破し、SNSで「気がつけば何時間もループしていた」と話題を呼んだ。
映画では、二宮演じる“迷う男”が観客の分身として通路を進む。観客は彼の眼差しを通して異変を探し、選択を迫られる。小松菜奈、河内大和らが演じる謎めいたキャラクターが、その旅路に現れる。
川村元気監督「主人公は世間そのもの」
監督を務めたのは、『君の名は。』『怪物』など数々の大作をプロデュースしてきた川村元気。自身の小説を映画化した『百花』(2022)で日本人初のサン・セバスティアン国際映画祭・最優秀監督賞を受賞しており、本作が監督第2作となる。
川村は語る。
「主人公には職業も年齢もない。彼は“世間”そのものなんです。電車で赤ん坊が泣いていても、スマホを見て見ぬふりをする。ニュースで戦争や悲劇を知っても、指を動かしてスワイプしてしまう。それが私たちの社会であり、主人公です」
真っ白なタイルの地下通路。整然とした空間に潜む違和感は、日常に潜む“見て見ぬふり”と重なる。監督はそこに普遍的なテーマを託した。
映像では、時間や空間がねじれ、実際にはつながらないはずの場所が連続する。ラヴェルの「ボレロ」が鳴り響き、観客の体感はいつしかループに飲み込まれる。映画館の暗闇は、出口のない異変の世界へと変わっていく。
海外映画祭での絶賛
本作はカンヌ国際映画祭「ミッドナイト・スクリーニング」で正式上映され、2,300人の観客から大歓声のスタンディングオベーションを受けた。
さらに、第50回トロント国際映画祭、第30回釜山国際映画祭、第58回シッチェス・カタロニア国際映画祭など、世界有数の映画祭への出品が決定。既にアジア、ヨーロッパを含む100以上の国と地域での上映も予定されており、日本発のインディーゲームが映画を通してグローバルに羽ばたこうとしている。
海外での注目を支えるのは、シンプルで普遍的な構造だ。出口を探す旅は、人種や国境を越えた「人間の本能」に訴えかける。
観客の声と広がる共感
SNSには「熟年層の方が意味を理解しやすい映画」「今際の国のアリスを思い出した」といった感想が並ぶ。派手なアクションや涙を誘う感動作ではない。だが、観客が「自分はこの異変を見逃していないか」と自問しながら観る体験は、他に代えがたい。
実際に鑑賞した親子連れからは「ゲームは知らなかったけれど、想像以上に面白かった」「ホラー要素はあったが想定内で楽しめた」との声も。世代を超えた観客が、それぞれの解釈を持ち帰っている。
今後の展望と社会的意味
東宝は最終興収40億円を視野に入れる。国内での大ヒットに加え、海外配給も進むことで『8番出口』は“日本発のグローバルスリラー”となる可能性を秘める。
単なるホラーやサスペンスを超え、本作が観客に突きつけるのは「見て見ぬふりをする罪」。地下通路の異変は、私たちが日々スルーする現実世界の異変の比喩でもある。
映画を観終わった観客が、駅の白いタイル壁を歩くとき、ふと立ち止まり「これは異変なのでは?」と考える。そんな余韻を残す作品だ。
『8番出口』が突きつける現代社会への問い
『8番出口』は、ゲームのシンプルな構造を借りながら、川村元気監督が現代社会の姿を鋭く映し出したサバイバルスリラーである。二宮和也の挑戦と、世界中の観客をループの迷路に引き込むビジュアル体験は、日本映画に新たな地平を切り開くかもしれない。