ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

川口 育子さん(インクルーシブディレクター) | #ソーシャルグッド雑談

コラム&ニュース コラム
リンクをコピー
八木橋パチ プロフィール

「私は本物なんです。パチさんにも、堂々と自信を持って言いきれます。似ているものは世の中にたくさんあるけれど、本当の本物はどれだけいるんでしょうね。」

——雑談の中で、繰り返し出てきたこの言葉。

「はたしておれは本物なのかな? あるいは、本物になれるのかな? 」…何度かそんな言葉が頭の中をよぎりました。

今回のソーシャルグッド雑談、雑談のお相手は川口育子さんです。

川口 育子さん(インクルーシブディレクター) | #ソーシャルグッド雑談

右: 川口 育子(かわぐち いくこ)

コード化点字ブロックの普及と、企業へのインクルーシブ社会実現のためのワークショップ開催などを中心に活動する日本インクルーシブ・クリエーターズ協会(通称:NICA(ナイカ))副代表理事。

旅行代理店に勤務していた20代に「網膜色素変性症」と診断され、その後視野が半分となり31歳で障がい者認定を受ける。どんどん目が見えなくなっていく中、結婚、出産、離婚を経験しつつ、広告代理店、塾講師、電話受付営業など、健常者の中でさまざまな仕事をして2人の子供を育てあげる。宮城県仙台市出身。東京都足立区在住。

左: 八木橋 パチ(やぎはし ぱち)

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャーおよびコラボレーション・ツールの展開・推進を担当。社内外で「#混ぜなきゃ危険」を合い言葉に、持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちとさまざまなコラボ活動を実践してきた。近年は「誇りある就労」をテーマに取材・発信している。



● 「あれ…」急に途切れる点字ブロック…わざと消してある!?
● 「大丈夫ですか?」って声かけはNG? …そんなわけない!
● JR新宿駅13番線ホーム | 社会のほとんどが諦めても私は諦めない
● 「他人の人生」を生きない。私は生き様を遺す | 内村鑑三に応える
● 知識だけじゃダメ。学習と経験、さらに本質的な意味を考える


● 「あれ…」急に途切れる点字ブロック…わざと消してある!?

時間ぴったりに待ち合わせ場所に着くと、川口さんが待っていてくれました。
「ゆっくり話ができて、大体どんなところか分かっているところだと便利だから、行きつけのお店でいいですか? そうしましょう。
それじゃあ早速だけど、お店までパチさんをご案内するので、私のことを見ていてください。」
白杖で点字ブロックを探りながらスタスタと歩き出す川口さん。でもしばらくすると「あれ…」と、戸惑って立ち止まってしまいました。
川口

ねえパチさん、ここで急に点字ブロックが不自然に途切れてなくなっているみたいなんだけど…。こっちで大丈夫?

パチ

ダメです。そのまま1メートル進むと、工事現場のフェンスにぶち当たっちゃいます。

あれ…。なんだかこの誘導ブロック、出っ張りもそれから黄色も、ほとんど残っていないですね。こんなに消えるものなのかな?

川口

あーそういうことか! それ、工事現場の方に進ませないように、わざと消したのかもしれない。

…それにしても、これじゃあわかりにくくて迷う原因になる…。私みたいに「行けるのかな」って思ってしまう人が他にもいそう。

ま、とりあえずお店に行きましょう。

● 「大丈夫ですか?」って声かけはNG? …そんなわけない!

「いらっしゃいませ。空いてる席にご自由にどうぞ。」
お店に入るとすぐ、店員さんにお声かけいただきました。あれ、でも普段、川口さんだけでお店に来たときはどうしているんだろう? 「空いている席にどうぞ」と言われても、どこが空いているのか、分からないよな…? そんなことを考えながら、雑談をスタートしました。
川口

パチさんは普段、視覚障がいがある人と出かけたり、じっくり話をすることって、きっとそんなにはないでしょう?

今日は何の遠慮もなしに、聞きたいことはなんでも、どんなことでも聞いてください。

パチ

ありがとうございます。たしかに、いろいろ聞いてみたいことがあります。では早速。

駅前からこのお店まで、距離にしたら数十メートルですけど、改めて「目の見えない人」にとっては移動のハードルはいろいろあるなって思いました。

たとえば一人のとき、「どちらまで行かれるんですか? 何かお手伝いは必要ですか?」ってお店までの移動の際に声をかけられるのって、川口さんにとってはありがたいことですか? それとも…?

川口

もちろんありがたいです。誰でも親切にしてもらえたら嬉しいと感じるでしょう。私の存在を気にしてくれているから、気を遣って声をかけてくれるわけでしょう。それは本当にありがたい。

パチ

そうなんですね。

川口

そう。でも聞き方ってありますよね。「何かお手伝いできることありますか?」みたいに、私の意思をまず聞いてもらえるのは本当に嬉しい。

でも、親切心からだとは思うけど、人によっては「駅に行くんですよね。こっちです」って、突然腕をつかまれたり、白杖をつかんだり持ち上げて誘導しようとする人も結構います。それはびっくりするし、嫌な感じがします。

パチ

それはドキッとするでしょうね。目が見えていようといまいと。

川口

そうなんです。別に見えなくても困っていないときもあるし。見えていても困るときはあるでしょう。そこに大きな差はない。

私はできることは自分でしたい。だからまず、相手にどうしたいか聞くことが大切なんです。それがお互いを尊重するということでしょう。

でもね、また最近は違うイヤなこともあるんです。

パチ

どんなことですか?

川口

一人で歩いているとよくあることなんだけど、同じ言葉で同じ調子で「お手伝いしましょうか」って声をかけられるんです。

3人くらいだったらそこまで気にならないかもしれないけれど、わずか1時間くらいの間に10人くらいにそうやって聞かれると「何を手伝ってもらえばいいんだろう」って一瞬考えてしまう。

パチ

なるほどー。ポイントはきっと「同じセリフ同じ調子」ですね。

川口

そう。企業や組織で研修を受けた人はマニュアル通りにしか対応できなくなっている。

ユニバーサルとかインクルーシブとかの研修ビジネスをやっている会社が、当事者でもないのに当事者の聞き取りを参考にプログラム作って研修をやっているから、金太郎飴みたいになるんだってすごく思うんです。

ご存知かもしれませんが、そういう研修では、「お客様に『大丈夫ですか?』という声かけはしてはいけません。人はそう聞かれると『大丈夫です』と答えてしまうものだから」って教えているんです。そんなの、みんなに当てはまるわけないのに!

心から出てくる言葉だったら、「大丈夫ですか?」だろうとなんでもいいんです。私の研修では絶対にそんな言葉遊びみたいなことは教えない。だって私は本物だから。お金のためにやっているわけじゃない、これからの人たちのためにやっているんです。

● JR新宿駅13番線ホーム | 社会のほとんどが諦めても私は諦めない

「目の不自由な人たちの多くが、たくさんのことを『言っても無駄』と諦めて暮らしています。…そう言う私もそういうところがある…。今までいろんな場面で声を上げて、なんともならない経験を山ほどしているから。

でも、今回の事は命にかかわる事だし、放置しておくわけにはいかないと思いました。このまま未来世代に渡すわけにはいかないって。」
 
2025年8月5日、川口さんはJR新宿駅13番線ホームから線路に落ちそうになったことをフェイスブックに書きました。3回目の体験…実際に同ホームで落ちてしまった友人の存在…常にホームでは慎重に緊張して歩いているのに、それでもこのホームでは落ちそうになってしまう——。

原因は明らかです。点字ブロックを取り囲み、一体化させるかのように敷き広げられている、表面にでこぼこを付けられた黒いゴム製のマット。
どうやらもう10年以上、この状態が続いているそうです。
川口 育子さん(インクルーシブディレクター) | #ソーシャルグッド雑談
https://www.facebook.com/ikuko.kawaguchi.35/posts/pfbid0wpB5mdhrWVHA1DKzvCVcQ2qB3grqFgHfUga88B1p857HQNUVMYP4fbmAFGQ7sysjl
パチ

新宿駅での出来事、川口さんもご存じの 望美さんもいろいろとアクションを取られたそうです。

川口

本当に嬉しいしありがたい。私、今回の件では本当に多くの人に力をもらっています。まだ実際に何かが変わったわけでも良くなったわけでもないけれど、それでも諦めなくてよかったって思っています。

こんなにも多くの人が一緒になって声を上げ、行動してくれているから。

パチ

翌日、改めてJR新宿駅を訪ねて話を伺ったこともフェイスブックに書かれていましたよね。多くの人がシェアし、駅員に尋ねたりオンラインの問い合わせ窓口から連絡したことで、JRもそれまでとは打って変わった態度と認識で対応し始めてくれた、と。

その後、どうなったのですか?

川口

まずは来週、JR職員の方たちと一緒に、改めて現場視察を行うことになりました(この雑談は2025年8月14日に行われました)。でも、そこに至るまでも大変で、本当になかなか分かってもらえなくて…。

私ね、JRの駅員さんを責めたいわけじゃないんです。それに、今すぐゴムマットを撤去せよって迫りたいわけでもありません。

大きな組織の中で、いろんな担当部門に分かれていて、みんなが細かな一つずつのことを知っているわけなんてないし、調べるのに時間がかかることだって理解している。ただ、「調べようとしているかいないか」には、天と地ほどの違いがあるでしょう。

私が求めていることって、すごくシンプルなんです。「似た素材のマットで点字ブロックを囲んでいるのは視覚障がい者の命に関わる危険事象だからやめてほしい。そのために行動してほしい。」ただそれだけ。

パチ

さっき、お店までくる際に、目を瞑って白杖をちょっと使わせてもらったり、点字ブロックと歩道のコンクリートブロックの踏んだときの感触の違いを確かめたりしたじゃないですか。

白杖はこれまで何度か体験してましたけど、足の踏んだ感覚を意識して歩いたことってこれまであまりなかったんです。でも足の裏の感覚って大切ですね。白杖よりも直接的に存在を感じられる気がしました。

川口

そうでしょう。でもね、パチさんみたいに、そうやって疑問に思ったら自分で体験してみようとする人ってほとんどいません。本当は、体験を通じて自分ごとにしていかないと、人って本質的な理解はできないのに。

それなのに、このシンプルなことが伝わらない。「今までそんなこと言われたことはありません。ずっとこれでやってきましたから」って聞く耳を持ってもらえない…。そんな経験が続くと、私だって心が折れてしまいそうになります。

でも、私は単独で行動する視覚障がい者のために続けます。そうでないと、視覚障害の人はどんどんいないことにされて社会が進んでしまうから。

だって、もう私に残された時間は限られている。残りの人生はそれに捧げるって決めています。これは信念だから。

川口 育子さん(インクルーシブディレクター) | #ソーシャルグッド雑談
川口さんとの雑談後、自分の目で確かめたくなり新宿駅13番線ホームへ行ってきました。

● 「他人の人生」を生きない。私は生き様を遺す | 内村鑑三に応える

「残りの人生を捧げる。これは信念。」——そう言い切れる強さを、川口さんは想像を超える過酷な人生を通じて身につけていました。

命懸けで暴力夫から逃げ出し、2人の子供を大学に行かせるために、文字通り昼夜を問わず働き続けた日々…。そして2人が大学を卒業して就職したとき川口さんは思ったそうです。「夢を実現した今、残りは余生。このあと死ぬまで私は何をしたらいいのだろう?」と。

そこで出会ったのが、『後世の遺物』——我われは後世に何を遺してゆけるのか。金か。事業か。思想か。それとも——明治時代の思想家、内村鑑三からの問いだったそうです。

「そうだ。私に残せるものは生き様だ。生き様しかない! 諦めることが当たり前と考える視覚障がい者を減らしたい。そう思わせてしまう社会を変えていきたい。」

川口さんの余生が力強くスタートしました。
パチ

とはいうものの、「声を挙げる人が叩かれる」のが日本社会ですよね。

JRの職員の方をはじめ組織に属するほとんどの人が、もっといえば行政の役人も企業の経営陣も、炎上当事者にならないようひたすら高くガードを上げて身を縮め、余計なことを言わないようにしているじゃないですか。

川口

本当にそういう社会です。私も「君危険だよ。絶対そのうち君のことを叩く人が出てくるよ。余計なことに首を突っ込まず、みんなと同じようにしていればいいんだよ」って、これまで何度も忠告を受けてきました。

でも、ウソばかりになってしまったこんな世の中に合わせて生きていくなんて、イヤでしょう?

自分が本当にそう思っていないのにそれに合わせて生きるのは他人の人生を生きることになってしまう。私は自分で考えて自分の人生を生きます。活動することで私の生き様を遺すんです。

● 知識だけじゃダメ。学習と経験、さらに本質的な意味を考える

パチ

こないだね、友だちと話していて、「人に何かを言うときは、自分がどう思うかよりも相手がどう感じるかを大事にすべきだ」って忠告されたんですよ。でも、おれはどうしてもそれが腑に落ちなくて。

友だちがおれのことを心配して言ってくれているのはわかっているんです。「だって、悪意もないのに、他人を傷つけたくないでしょう?」って。

参考 | マイクロアグレッションを恐るるも引かず

川口

でもそれじゃあ、他人の人生を生きてるのと同じこと。

自分が思ったことを、自分の言葉で相手に伝える。相手の言葉を疑問に思ったり理解できなければ、変に推測したり忖度したりしないでその真意を相手に聞く。みんな同じ人間なんだから。

受け入れてもらえないかもしれない。分かり合えないこともあるかもしれない。自分がこれ以上いたら傷つくだけと思ったら、自分が去ればいい。

パチ

その通りですね。勇気をもらえます。

最後に教えてください。川口さんにとって「誇りある就労——働きがいのある人間らしい仕事」とは?

川口

やっぱり、相手の役に立ったと感じられたとき。お客様に喜んでいただけたときです。

それはどんな仕事でも同じ。ファジーな言葉だけれど、「人間性」とか「人間力」とか呼ばれるもの、「どんな意識を持って人生を送っているのか」が、仕事にも表れるんだと思う。

この言い回しは好きじゃないけれど、私はずっと相手に「寄り添う」ことを意識してきたのだと思います。だって人それぞれ、その人の性格やその人がいる状況の中で不安を抱えているでしょう? その立場に立って、想像力を持って、考えてあげられるか。

パチ

そうですね。そして想像力を発揮するにも、その想像を現実に当てはめるのにも、知識と経験が必要ですよね。

川口

そうです! まず知識があるか。でも知識だけじゃダメで、それを活かすための学習と経験も重ねていく。さらに、それが持つ本質的な意味を考え続けることが必要だと思います。

それが人間力だと思います。そしてこれって、他のどんなことにでも当てはまるんじゃないかな。



川口さんは「本物」でした。おれは…? わかりません。
でも「本物でありたい」と思っているのは本心だし、少なくとも「他人の人生を生きることなく、おれ自身であろう」としていることに嘘偽りはありません。
だから、おれも堂々と本物を名乗っていこうと思います。

Tags

ライター:

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャー、およびソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちと社内外でさまざまなコラボ活動を実践し、記者として取材、発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。 合い言葉は #混ぜなきゃ危険 #民主主義は雑談から #幸福中心設計

関連記事

タグ

To Top