
横浜で開催中の「WTTチャンピオンズ横浜2025」女子シングルス2回戦で、張本美和が早田ひなに2-3で惜敗した。試合はファイナルゲームで張本がリード中に早田が左腕の治療を理由にメディカルタイムアウトを申請。当初の大会スタッフによる処置から途中でコーチが治療にあたる異例の展開となり、張本は「強い疑問がある」と発言した。公平性やルール運用を巡って物議を呼んでいる。
接戦で発生した異例の中断
神奈川県・横浜BUNTAIで開催中の「WTTチャンピオンズ横浜2025」女子シングルス2回戦が9日、張本美和(木下アカデミー/世界ランク6位)と早田ひな(日本生命/世界ランク13位)の日本人対決で行われた。
試合は互いに1ゲームずつ奪い合い、2-2の同点で最終ゲームへ。第5ゲームは張本が4-2とリードを広げ、会場の空気は彼女に傾きかけていた。
しかし、その直後に早田が左腕の治療を理由にメディカルタイムアウトを申請。当初は大会オフィシャルのメディカルスタッフが処置にあたっていたが、途中から早田のコーチである岡雄介氏がマッサージを施すという異例の対応に切り替わった。中断は約5分間続き、再開後は早田が流れを引き寄せて11-7でゲームを奪取。張本は2-3で惜敗し、2回戦敗退となった。
張本が感じた疑問と不公平感
試合後、張本は涙ながらに「メディカルタイムアウトそのものには異論はない」と前置きしつつも、「治療者が途中で相手コーチに交代したこと」に強い疑問を表明した。
「大会の治療スタッフがいる中で、自分のコーチが治療するのはすごく疑問。治療中にアドバイスができる可能性がある。もし自分も『この人が医者です』と申告すれば、コーチである父に来てもらえたのかと思う」と語った。
さらに、審判長から状況について明確な説明がなかったことにも不満を示した。「どうして?と聞いたけれど、きちんとした答えがなかった」と振り返り、試合中の心理的動揺を明かした。
競技の公平性とルールの課題
卓球のメディカルタイムアウトは、選手が負傷や体調不良を訴えた際に、1回につき最大10分間の治療を受けられる制度だ。ただし、誰が治療にあたるかについては、大会ごとに細則が異なる。国際大会では大会オフィシャルのメディカルスタッフが対応するケースが多いが、今回のように途中でコーチが治療を行う例は珍しい。
観戦していたファンや解説者からは「テニスなど他競技ではオフィシャルスタッフが最後まで対応する」「今回の対応は異例」との声が上がった。特に、治療中にコーチと直接接触できることは、戦術的なアドバンテージにつながりかねないとして、公平性の観点から疑問視されている。
ルールが曖昧なまま運用されれば、選手やチームによって対応が異なり、試合結果に影響する可能性がある。今回のケースは、そのリスクを浮き彫りにしたといえる。
運営・審判対応への指摘
今回の事案では、審判団や大会運営側の判断・説明不足も指摘されている。張本はタイムアウト中、相手ベンチ側で起きていることの詳細を知らされず、自分のベンチに戻るかどうか迷ったと話している。
現場の審判や審判長は、ルールの範囲内で選手に状況を共有し、公平性を保つ責務を負っている。説明の不足は、選手の集中力や精神状態に影響を及ぼす可能性が高く、若手選手にとっては特に不利に働く。
ファンの間でも「審判の裁量が大きすぎる」「大会側がルールを明確化すべき」といった意見が相次いだ。今後の国際大会運営において、今回のケースがルール整備のきっかけになる可能性がある。
敗戦を糧に前を向く張本
結果的に流れを失い敗戦となった張本だが、「影響を受けて負けは負け」と潔く受け止めた。「今までにない経験をさせてもらえた。内容的には前回の対戦より良かった。これを糧に、いろんな視点から成長につなげたい」とコメント。
日本開催の大舞台で、17歳の若手ホープは新たな課題と向き合うことになった。国内外の注目を集める中、今回の経験が精神面・戦術面の強化につながるかが今後の鍵となる。
今後の焦点と展望
今回の件は、一試合の結果を超えて、卓球競技におけるルール運用や公平性の在り方を問う事例となった。
- メディカルタイムアウト時の治療者の資格・立場の統一
- 審判による状況説明の義務化
- 戦術的アドバンテージを防ぐための接触制限
これらは国際卓球連盟(ITTF)や大会主催者が今後議論すべき課題だ。選手が安心して実力を発揮できる環境を整えることが、競技の信頼性を高める第一歩となる。