
医薬品開発ベンチャーのペプチドリーム株式会社(東証プライム:4587)は8月6日、不適切な試薬の社外持ち出しおよび関連会社からの金銭受領をめぐる調査結果を公表した。元取締役副社長COO(以下、A氏)による一連の行為は、同社の内部統制とガバナンス体制の課題を浮き彫りにした。
創薬ベンチャー「ペプチドリーム」の事業内容
今回問題となったペプチドリームは、独自の創薬技術「PDPS(Peptide Discovery Platform System)」を強みに持つバイオベンチャー企業で、疾患の標的タンパク質に作用する「ペプチド」と呼ばれる分子をスクリーニングし、創薬に役立てている。既に複数の国内外の製薬大手と共同研究契約を結び、収益の柱としている。
また、グループ会社のPDRファーマでは、がんの診断や治療に使われる放射性医薬品の開発・販売にも取り組んでおり、診断と治療の両面で医療への貢献を目指している。
8年間で752件、約5,428万円相当の試薬を持ち出し
調査報告書によれば、2017年3月から2025年1月にかけて、A氏の指示により社内で発注された752個、計5,427万9,915円相当の試薬が、A氏自身の手で社外へ持ち出されていた。これらの試薬はいずれも一般流通する抗体やアッセイキットであり、納品後は保冷ボックスに詰められ、A氏によって外部へ運び出されていた。
A氏は持ち出しの理由として、アカデミアとの関係構築や関連会社であるペプチエイド社の販促活動を挙げているが、供与先の特定や活動の記録は乏しく、事実確認は困難とされた。社内規定上も、これらの行為は稟議不要とされる「購買」に該当せず、稟議決裁なしで進められていたことが判明している。
外部企業3社から合計5,928万円超を受領 承認記録なし
さらに調査では、A氏が当社の取引先であるX社、代表者が取引先企業に関係するY社、ベンチャーキャピタルZ社の3社と、それぞれ業務委託契約を締結し、合計で59,288,170円(約5,929万円)を受領していたことが判明した。
- X社:製品開発に関する助言等として51,044,170円
- Y社:市場調査業務として1,944,000円
- Z社:投資先評価レポート等として6,300,000円
いずれの契約についても、同社の取締役会において事前承認を得た形跡はなく、会社法や役員規程に抵触する可能性があると指摘されている。
類似事案は確認されず 内部統制の限界も露呈
調査委員会は、A氏以外の取締役や従業員による同様の不正行為は確認されなかったと結論づけている。ただし、在庫管理システム「CRIS」は一部の試薬にしか適用されておらず、社外持ち出しの検知には限界があることも明らかとなった。内部通報制度においても、本件に関する報告や相談はなかったという。
財務影響は軽微、法的措置も検討へ
当該行為による試薬の費用はすでに各期で計上済みであり、仮にこれが発生していなかったとしても、営業利益への影響は最大でも0.3%未満にとどまるとされた。一方で、同社は再発防止に向けたタスクフォースを設置し、A氏に対する民事・刑事両面での法的措置も視野に入れて検討を進める方針を明らかにしている。