
東証スタンダード上場のダイワ通信株式会社(コード:7116)が、代表取締役社長・岩本秀成氏の資産管理会社「IWAMOTOアセットマネジメント」(IWA)や本人所有の不動産を、形式上第三者を介して自社へ賃貸する「仮装取引」によって、2020年以降少なくとも約2億円超の賃料を不正に支払っていたことが、外部専門家からなる特別調査委員会の報告書により明らかとなった。
社長私有資産に賃料 形式上の中間業者を介在
報告書によれば、問題となったのは岩本社長個人またはIWAが所有する4件の不動産(石川県の土地a、金沢市および東京都内のマンションb〜d)に関する一連の取引。これらの物件は一見、X社やY社という第三者業者が所有し、同社がダイワ通信に賃貸しているように見せかけられていた。
しかし実態は、X社・Y社が中間に入っていただけで、ダイワ通信から支払われた賃料の大半は、岩本社長またはIWAに還流されていた。しかもこの4件すべてについて、取締役会での利益相反取引に関する承認決議が行われておらず、法令違反に該当すると結論付けられている。
物件の使用実態は限定的 “あれば便利”程度
調査報告書では、石川県内の「土地a」は、セキュリティ機器の廃材置き場や一時駐車場として「時折」使用されていたが、使用頻度は「月数回」「敷地の5分の1ほど」だったと記されている。調査対象の従業員は「なくても事業は回るが、あれば便利」と供述しており、費用対効果の観点からも妥当性を欠くと指摘された。
経費不正も多数 社員親族へ給与、社用車の私的使用も
報告書では、社長の家族や親族に対する金銭支出や待遇優遇も明らかになった。たとえば、従業員でない社長の親族S氏に対し、成果の実態がないまま給与を支払っていたほか、同氏は社用車を個人的に使用していた。
また、社長の身内であるT氏に対しては、社内規程に基づかない特別賞与の支払い、さらに社内規程に根拠のない車両手当(月3万円)も支給されていたという。
上場時の虚偽説明 証券会社・取引所に「該当なし」と回答
さらに深刻なのは、こうした取引が東京証券取引所への上場申請審査時にも一切申告されていなかった点である。Z証券会社および上場審査部からの「経営者関与取引」や「関連当事者取引」の有無に関する質問に対して、ダイワ通信は一貫して「該当なし」と回答。提出書類やヒアリングの議事録には、土地・マンションの取引についての記述は一切なかった。
特に、2022年8月に提出された「Ⅱの部」には、関連当事者との取引について「子会社2社との賃貸契約のみがある」と虚偽の記載がされていたことが確認されている。
経営陣の責任と内部統制の形骸化
報告書は、こうした問題の根底に「上場企業としての意識の欠如」と「岩本社長に対するガバナンス不在」を挙げている。管理部門トップの多賀取締役は、公認会計士でありながら、関連当事者会計基準を「誤解していた」と説明する一方で、実際には社長の意向に沿った経理処理を優先し、監査法人や社外役員に報告を行わなかった。
監査役会や内部監査機能も十分に機能しておらず、社内の「社長案件」は聖域化されていたと指摘されている。
東証は「再審査の猶予期間」入りを通告 岩本社長の進退焦点に
ダイワ通信は、2025年6月19日付で東京証券取引所から「宣誓書違反による再審査の猶予期間入り」の措置を受けている。今後、ダイワ通信は株主総会で岩本社長の取締役継続を含む経営責任の明確化と、社内の再発防止策の具体化を迫られることになる。
報告書は、岩本社長が今後も経営に関わる場合、「自身に対する内部統制システムの構築が不可欠」とし、明確な再発防止策の提示と少数株主への説明責任を果たすよう求めている。