
かつては、身体に不調を感じたとき、すぐに治療院や医療機関を受診するのが当たり前でした。しかし、いま私たちは大きな転換期を迎えています。保険診療の適用範囲が見直され、慢性的な肩こりや腰痛といった症状に対して、これまでのように気軽に保険での治療を受けることが難しくなってきています。
国全体で医療費の適正化が求められる中、「軽度な不調は自己管理で対応する」という流れが加速しています。
セルフメディケーションと体幹ケア
このような状況下で重要になるのが、“自分の健康は自分で守る”というセルフメディケーションの意識です。風邪をひかないように手洗いやうがいを徹底するように、腰や肩に不調が出ないように、日常から体を整えること。それがいま、社会全体で求められている新しい健康観です。
私たちは、この流れの中で「体幹ケア」という日常的な予防的アプローチを提案しています。
体幹ケアとは、体の軸を支える筋肉や関節を整えることで、身体の不調、将来的な身体機能の低下を未然に防ぐ習慣的な取り組みです。歯の痛みを予防するために毎日行う「口腔ケア」と同じように、腰痛や肩こり、猫背、円背姿勢(背中が丸くなる状態)、歩行のふらつき、さらに将来的な変形性関節症などの“日常に潜む身体リスク”を、日頃のケアでコントロールしていくことが目的です。
たとえば、長時間のデスクワークやスマホの使用で、知らず知らずのうちに猫背や反り腰といった姿勢の乱れが生じ、それが慢性的な不調や疲労の蓄積につながっていきます。さらに、それを放置した結果、将来的に歩行障害や要介護状態へとつながるケースもあります。
体幹ケアを習慣化するためには
しかし、人はなかなか体幹機能の低下や姿勢の乱れに気づくことがありません。ですから、専門家の“見立て”をもとに現状の姿勢の乱れを見ることで現状に気づき、自分の現状にあった適切なエクササイズを実施していく、また、生活動作や習慣の改善によってケアしていくということが、私たちが推進する体幹ケアの考え方です。
このアプローチの核となるのが、「習慣化」です。いくら正しい知識があっても、それを実践し、続けなければ意味がありません。体幹ケアでは、1日数分から始められる簡単なエクササイズや、ストレッチポール®などのツールを活用したセルフリセット法を中心に、誰もが無理なく続けられることを見つけることが重要です。
専門家が個別に状態を評価し、その状態となっている要因を見立て、個々の生活スタイルに合わせた指導を行うことで、“あなたにとって続けやすい健康習慣”を構築し、習慣化へと導いていきます。

とくにストレッチポール®を使ったエクササイズは、寝転んだまま背骨をストレッチポールに預けるだけで行える手軽さと、背骨や骨盤といった身体の中心を整える効果の両立が特徴です。これにより、日々の緊張や姿勢のゆがみをリセットし、疲れにくく若々しく動き続けられる体を作ることができます。予防医学の観点からも、極めて有効なセルフケアといえるでしょう。
未来の自分の健康のために今からセルフメディケーション
こうした取り組みを通じて、私たちは「病気や不調になってからではなく、自分の健康は日常生活の中で育てていくもの」という考え方を社会に広めていきたいと考えています。
体幹ケアを習慣として取り入れることは、流行りとしての運動を実践することではありません。それは、将来の自分自身に投資するということです。数年後、数十年後に「やっていてよかった」と思える自分をつくるための、いまからの小さな一歩なのです。
よく、「もう少し歳を取ってからでもいいのでは」と思われる方もいらっしゃいます。しかし、忘れてはいけないのは、これまでの人生での姿勢習慣、動きの習慣で今の状態があり、「今の自分が人生でいちばん若い」ということです。過去の姿勢習慣、動きの習慣の負のスパイラルを断ち切るのは、今日から始める体幹ケア習慣です。未来の自分の健康は、いまの自分の選択で決まります。どんな年齢でも、どんな体の状態でも、“いま始める”ことこそが、最大の予防となります。
セルフメディケーションの時代において、体幹ケアは単なる流行りの運動法ではなく、「生活に根ざした予防医療の第一歩」です。企業として、地域として、そして社会全体としてこの考え方を共有し、広めていくことが、これからの日本の健康づくりにおいて欠かせない使命だと、私たちは信じています。

【寄稿者プロフィール】
日本コアコンディショニング協会 副会長 石塚利光
略歴:国内最大規模の民間運動指導者団体 日本コアコンディショニング協会 副会長
ペンシルベニア州立カルフォルニア大学大学院 修士号 / 元福岡大学教員
米国で修士号を取得し、全米アスレティックトレーナーズ協会 公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)、全米ストレングス&コンディショニング協会 公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト(NSCA-CSCS)、ナショナル・アカデミー・オブ・スポーツメディスン パフォーマンス・エンハンスメント・スペシャリスト&コレクティブ・エクササイズ・スペシャリスト(NASM-PES&CES)の資格を保有。元福岡大学教員で、アメフト米国代表やBリーグ・Vリーグのプロチームなど、トップアスリートを多数指導。