ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

変態教師は激増しているのか? 広島市教諭・中島健夫のわいせつ未遂事件に見る報道と現実のギャップ

コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー
変態教師は増えているのか?

小学校という聖域において、児童に対する性加害が行われた。そんな衝撃的な事件がまたも報じられた。小学校教師たちの変態動画共有サークルが表ざたになって間もないというのに、6月30日、今度は広島市立小学校の教諭・中島健夫容疑者(38)が校内の無人教室で10歳未満の女児にわいせつな行為を試みたとして、「わいせつ目的誘拐」「監禁」などの疑いで逮捕されたという。

報道によれば、容疑者は「おおまか合っています」と供述しているという。

 

事件の悪質性は論をまたない。だが、ここ最近、「変態教師」「わいせつ教員」といった言葉がSNSや報道の見出しに相次いで登場し、読者にある種の共通認識を植えつけつつある。果たしてこうした報道は、現実に即したものなのだろうか。それとも、限られた事例の切り出しにより、「教員不信」という空気が過剰に醸成されているのだろうか。

 

年間のわいせつ教員は100人前後に推移

文部科学省が2023年に公表した「令和4年度 教職員の懲戒処分等に関する状況」によれば、全国の公立学校においてわいせつ行為などにより懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)を受けた教職員は年間123人。このうち児童・生徒に対するわいせつ行為が確認された者は80人であった。

同様の統計は過去にも継続的に公開されており、近年は以下のような傾向を示している。

 
  • 2018年度:わいせつ行為等で懲戒処分…283人(うち児童・生徒対象 126人)
  • 2020年度:同…138人(うち同対象 82人)
  • 2022年度:同…123人(うち同対象 80人)

件数自体は高止まり傾向にあるものの、「爆発的な増加」は確認されていない。むしろ制度の厳格化や研修の強化により、減少傾向が見える年もある。

 

教員全体に占める割合は「0.01%」

現在、日本国内で勤務する公立学校教職員はおよそ94万人(文科省「学校教員統計調査 令和3年度」より)。これに対し、年間でわいせつ処分を受けた教員は100人前後に過ぎない。単純計算で全体の0.01%程度の「ごく一部」である。

もちろん、この数字が「少ないから問題ない」と言えるわけではない。しかし、報道の頻度と実数に大きな乖離があることは否めず、ニュースを通して受け取る印象とはかけ離れた実態がある。

 

メディアは「見出し化しやすい構造」に乗る

近年では、「小学校教諭がわいせつ行為」「教え子に性的暴行」といった見出しが、WebニュースやSNS上で極めて高い注目を集めやすくなっている。教師という立場の「信頼」と、児童という「被害者像」のコントラストが、社会の感情を大きく揺さぶるからだ。

加えて、アルゴリズムに支配されるメディア空間では、クリック数が価値を決定する。その結果、「学校」「性犯罪」「未成年」といったワードを含む報道が、繰り返し前面に押し出される構造がある。こうした「注目される構造」は、報道の倫理とジャーナリズムの使命とのバランスを問い直させる。

 

教育現場の備えと制度的対策

実際、教育委員会や各学校では、再発防止に向けた制度強化が進んでいる。2021年には、性犯罪歴のある者の教職採用を防ぐための「日本版DBS制度(性犯罪歴確認制度)」が議論され、2024年度から段階的に導入が開始されている。倫理研修や、児童との1対1の接触制限なども、現場では日常的に行われている。

また、わいせつ行為で懲戒免職となった教員については、教員免許状の再授与を最長10年間認めない制度も整備された。これは再犯リスクに一定の歯止めをかけるものであり、制度面では抜け穴が徐々に塞がれつつある。

 

報道の責任と「冷静な視点」の必要性

広島市の事件は、被害児童にとって一生消えない恐怖を残すものであり、厳しく糾弾されて然るべきだ。しかし、報道が「変態教師の連鎖」として安易に事件を連結し、全体の教員像をゆがめるようであれば、報道自体が教育への信頼を損なう結果になりかねない。

私たちは今、報道される「例外の異常さ」と、現実にある「多数の誠実さ」とのあいだで、冷静なバランス感覚を求められている。「教師=危険人物」という認識が社会に浸透すれば、教職を志す若者が減り、真面目な現場が萎縮するという悪循環にもつながりかねない。

中島容疑者の行為は決して許されない。しかしその一方で、教育を担うすべての教員の誠実さと、それを支える報道の在り方についても、今一度問い直すべき時が来ている。

 

【この記事を読んだ人におすすめの記事】

Tags

ライター:

ライターアイコン

寒天 かんたろう

> このライターの記事一覧

ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

関連記事

タグ