ツバルから4千人が豪ビザ応募 海面上昇で「国家消滅」現実味

地球温暖化に伴う海面上昇が、国家の存続そのものを脅かす現実として突きつけられた。南太平洋の島国ツバルで、全人口の約42%に当たる4052人が、オーストラリアへの移住を可能にする特別ビザに応募していたことが、6月30日までに関係者の証言で明らかになった。共同通信が報じた。
このビザは、2023年に発効したオーストラリアとの条約「ファレピリ連合」に基づくもので、ツバル人に対して教育、就労、医療などの社会保障をオーストラリア国民と同様に提供するものだ。抽選制で年間最大280人が受け入れられるが、このペースで移住が進めば、単純計算で35年後にはツバルに誰もいなくなる可能性もある。
なぜ今、ツバルの話題が再燃しているのか
ツバルは過去にも「水没する国」として国際的に注目されたが、ここ数年はニュースの表舞台から遠ざかっていた。だが、今回の再注目は、2023年8月に発効した「ファレピリ連合(Falepili Union)」という新条約がきっかけだ。
この条約により、ツバル人がオーストラリアに安定的に移住できる法的枠組みが整備された。地球温暖化の影響が進行する中で、制度的な支援が整ったことで、「脱出の現実味」が急速に高まったのである。
「気候難民」国家の現実
移住希望者の多さは、ツバルが直面する危機の深刻さを物語っている。NASAの調査によれば、ツバルは2050年までに国土の大半が満潮時に水面下に沈むとされる。満潮時にはすでに空港滑走路が冠水する現象も報告されており、「水没国家」の象徴として世界に知られてきた。
一方で、ネット上では「ツバル水没は国策PRではないか」とする懐疑的な声も根強い。地盤がもろいサンゴ礁の島に空港滑走路を建設したことが地盤沈下を招いたとの指摘や、「海面は上昇していない」とする一部研究者の見解も出回っている。ツバルの産業構造や国際援助への依存度から、「水没ビジネス」と皮肉る声もある。
こうした批判に対しては、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)やNASAなどが海面上昇のデータを提示しており、複数の学術的根拠からツバル周辺の海水面が確実に上昇しているとされる。加えて、ツバルでは近年、大規模な土地の浸水・塩害が報告されており、地盤沈下だけでは説明のつかない現象が多発している。
「ファレピリ連合」とは何か
今回のビザ制度は、2023年8月に発効した「ファレピリ連合」に基づいている。「ファレピリ」とはツバル語で「互いに助け合う精神」を意味し、この条約はツバルとオーストラリアが対等な主権国家として結んだ包括的協定である。移民制度だけでなく、防衛、安全保障、気候変動対策など多岐にわたる分野での協力が盛り込まれている。
この条約により、ツバル人は年間最大280人まで、オーストラリアでの就労・就学・医療などの社会的権利を保障される「特別ビザ」の申請が可能となった。同時に、ツバル政府は「国家としての存続」も条約内で担保されており、将来的な主権喪失を防ぐための一定の制限も組み込まれている。
移住後の生活はどうなるのか
多くの読者が気にするのは、「ツバル人はオーストラリアでどのような生活を送るのか」という点だ。移住者はオーストラリア国民と同等の待遇を受けるとされており、就職先や教育機関へのアクセス、医療保障なども制度内で保証されている。既にクイーンズランド州などの一部自治体では、ツバル移住者の受け入れに向けたコミュニティ支援の準備が進んでいる。
しかし言語や文化の違い、現地での住宅確保、職業訓練の問題など、実際の定着には時間と支援が必要だ。加えて、家族をツバルに残して単身で移住するケースも想定されており、精神的な負担や「国家からの断絶」に近い感覚が生まれる可能性もある。
ツバルの未来と、私たちへの問い
今回の移住プログラムには、ツバルの国連推計人口約9600人のうち1124世帯が応募。現地では出稼ぎや留学が広く行われてきたが、今回は家族単位での恒久的移住が見込まれており、これまでの「一時的離脱」とは性質が異なる。抽選に通った者は正式に申請でき、7月18日には応募受付が締め切られる。
ツバル政府にとっては、国土喪失という物理的問題だけでなく、言語や文化の喪失といった「国家アイデンティティ」の消失が現実の課題となる。首都フナフティでの都市化の影響、ゴミ処理などインフラ未整備も深刻で、仮に国土が残ったとしても生活基盤が維持できないとの懸念が強まっている。
ツバルが直面する状況は、単なる自然災害ではなく、人類の活動に起因する地球規模の環境変化の縮図だ。人口わずか1万人にも満たない島国で起きているこの危機は、気候変動の矛先が最も脆弱な地域に向けられている現実を浮き彫りにしている。
ツバルから始まった「国民ごと消滅する国家」という未曾有の危機に、国際社会がどう向き合うのか。その姿勢が、地球温暖化と向き合う私たち全体の未来をも決めることになる。