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アトピー患者衝撃「薬が1万円に」維新のOTC保険外しに医師会反発、社会保障利権に切り込めるか

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OTC類似薬

「薬が高すぎてもう治療を続けられない」。そんな切実な声が、SNS上を駆け巡っている。政府が進める“OTC類似薬”の保険適用除外、いわゆる「OTC保険外し」をめぐって、医療現場と患者の間に深い亀裂が生じている。

 

市販薬と処方薬の境界線「OTC類似薬」が狙われている

OTC類似薬とは、医療機関で保険適用のもと処方される薬のうち、市販薬とほぼ同じ成分・効能をもつ薬品を指す。たとえば、花粉症対策のアレジオン、湿布薬として用いられるロキソニンテープ、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の治療に使われるヒルドイド(ヘパリン類似物質)などが典型例だ。

これらは医師の診断を受けることで保険が適用され、薬代の自己負担は3割で済んでいた。ところが今、自民・公明・維新の三党協議によって、このOTC類似薬の一部を保険適用外にする動きが進んでいる。維新の会が4月に公表した28薬剤の除外リストには、これらおなじみの薬が含まれており、「これは実質的な増税だ」との声も上がる。

 

月700円の薬が1万円に?アトピー患者の叫び

東京都内で広告代理店に勤める30代女性Aさんは、生後半年から重度のアトピーを抱えている。症状は顔面にも出るため、保湿剤やステロイド軟膏を1日2回、欠かさず塗ってきた。これまで月額700円ほどで手に入っていた保湿薬が、保険外しによって1万円近くまで跳ね上がるという報道を見たとき、彼女は言葉を失ったという。「薬を削るというのは、生きる手段を削るということなんです」と彼女は語る。

アトピー患者に多く処方されるヒルドイド(200g)は、保険適用時なら薬剤部分の自己負担は240円前後だが、調剤料込みでも月700円以内で済んでいた。これが市販薬では5,000円を超える。ステロイド外用薬のリンデロンに至っては、保険適用時には100gで500円程度だが、市販では類似成分の薬が1万円前後と高額になるケースもあり、継続的使用に重くのしかかる。

 

医師と患者が反発する理由、そして本質

現場の医師からも警鐘が鳴らされている。SNSでは「死ねということか」「税金を納めても、必要な薬すら手に入らない」といった声が噴出しており、日本医師会や保険医団体連合会も反対姿勢を強めている。しかし、焦点は“患者の苦境”だけではない。

なぜいま、制度変更が議論されているのか――その根底には、国家財政の限界が横たわっている。

 

2040年、税と保険料で手取りは年収の6割に?

2022年度、日本の社会保障給付費は約133兆円。医療費だけで44兆円を超える。年収500万円の会社員は、税金や社会保険料を合わせて年間170万~180万円を納めており、すでに「手取り率6割」の時代に入っている。

2040年には、給付総額は190兆円に達するとされ、支える現役世代の人口は減少を続ける。仮にこのまま制度が維持されれば、年収500万円でも200万円以上を“見えない税”として納めることになる。家庭を持つ余裕すらなくなり、少子化と経済縮小に拍車がかかる。

 

膨れ上がる社会保障費にメスを入れなければ日本に明日はない

政府が進める「OTC類似薬の保険外し」は、要するに“市販薬でも代用できる薬は、自費で買ってください”というものである。花粉症薬のアレジオンや去痰薬ムコダイン、湿布薬のロキソニンテープなど、多くの国民にとってなじみ深い薬が対象に含まれる。

「保険適用から外せば、無駄な医療費は圧縮できる」。このように語るのは元東京都知事の猪瀬直樹氏だ。猪瀬氏は「社会保障費はバラマキになっており、無駄を削れば4兆円は浮く」と明言しており、維新の会をはじめとする政治勢力はこの改革に期待を寄せる。

問われる医療制度の構造 薬を出すほど儲かる現実

 

日本の診療報酬制度は、治癒による評価ではなく、処方・検査・通院回数による“点数制”だ。この構造が過剰な薬処方を助長し、湿布薬や飲み薬がメルカリで転売されるような歪な現実を生んでいる。

実際、「処方された湿布が余った」「使い切れなかった薬を出品」という理由で、ロキソニンテープやモーラステープなどが、フリマアプリで大量に売買されている現状がある。これらは厳密には医療用医薬品であり、適正使用の観点からも、こうした流通は本来想定されていない。制度の綻びが、国費で仕入れた薬を“転売収益”に変える状況を生み出してしまっているのである。

そして、この“医療村社会”の岩盤を支えているのが日本医師会である。保険診療からの収益構造を守るため、改革のたびに「患者の安全」を理由に抵抗してきた。もちろん、すべての医師や病院が悪ではない。経営難にあえぐ病院がある一方で、クリニック経営は処方薬と検査の回転数によって高収益をあげているのが現実だ。

誰もが満足する制度はない それでも未来のために

 

制度改革には副作用がある。ステロイド依存やがん治療後の皮膚疾患など「市販薬では代替できない」例も多く、そうした人々には特例的な保険適用が必要だろう。だが、全員を例外扱いにしていては、制度はもたない。いま必要なのは、「どこかに痛みを引き受けてもらう」という現実的な選択である。甘え切った社会に、未来はない。

この国に未来を残すために、我々は一時の不満と真っ向から向き合わなければならない。医療は国民の命を支える基盤だ。だが同時に、その構造が制度疲労を起こし、次世代を犠牲にする道具になってはならない。社会保障とは、「必要な人に、必要な支援を、持続可能な形で届ける」ための仕組みである。その原点を、忘れてはならない。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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