
フジテレビ系列のローカル局「NST新潟総合テレビ」(新潟市中央区)が、過去6年間にわたり約11億円の所得隠しを関東信越国税局から指摘されていたことが、読売新聞の報道で明らかになった。同局は、架空のCM制作費を経費として計上するなどの手口を用いて不正に所得を圧縮していたと認定。
重加算税を含む法人税約4億円を追徴課税したとみられる。
本記事では、新潟県在住の広告業界の人間などに背景を聞いた。
CM制作費を装った不正経理 裏金は広告会社への接待に流用
民放テレビ局がCM制作に関連して国税局から不正を指摘されるのは極めて異例だ。NSTは実際には制作していないテレビCMに対して外注費を計上し、それを架空経費として処理する手口を継続的に行っていた。スポンサーが存在しないCMや、存在していても制作費を水増しするケースがあり、その費用は複数の制作会社に対して支払われたかのように装われていた模様だ。
国税局の調査により、これらの外注費の一部は制作会社からキックバックされ、その資金が広告会社への接待費用に使われていた実態が判明。仮装・隠蔽を伴う悪質な所得隠しとして、重加算税の対象になったとみられる。
テレビ局にとって広告会社は、スポンサー企業を仲介する重要な存在だ。NSTは営業活動の一環として広告代理店との関係を深めるために接待を繰り返し、CM枠の安定的確保を図っていたものと考えられる。
フジメディアHD傘下の地方局 売上高は67億円超
NSTは1968年3月に設立され、同年12月に放送を開始した。現在はフジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングスが筆頭株主として3分の1超の株式を保有している。民間の信用調査会社によると、2024年3月期の売上高は67億4930万円。
旧・新潟県内初のUHF局として開局した同社は、設立当初から営業面で積極的な姿勢を見せており、長年にわたりCM制作や広告収入を主力としたビジネスモデルで上位を維持してきた。
NST「見解の相違あったが納税済み」 役員報酬は減額へ
NSTは読売新聞の取材に対し、「税務調査を受け、一部見解の相違もあったが、税務当局の修正申告の指導に従い、納税を済ませた」と回答。さらに、「経営責任に鑑み、常勤役員の報酬を一部減額した」と説明した。
社内では弁護士・社会保険労務士を交えた調査チームを編成し、再発防止策を講じたとしている。今後はコンプライアンス体制の強化を進める意向を示しているが、視聴者や広告主の信頼回復には時間がかかるとみられる。
現場からの匿名証言「裏金は営業ノルマだった」
こうした構造のなかで、現場では何が起きていたのか。県内在住の広告業界にいる元関係者は匿名を条件にこう証言する。
「おそらく、最初は“営業の潤滑油”という建前で始まったのだろう。けれど、そのうち“金額を提示しないと枠が取れない”“誰と付き合うかで仕事が決まる”という空気が強まっていった。ある種の“営業ノルマ”のように裏金を捻出する文化が出来上がっていたように思う。接待文化の強い会社だったから、こういったことが明るみに出ても、まぁあり得るかなという印象」
現場の声は、単なる一企業の逸脱ではなく、業界に残る“営業至上主義”が不正を生んだ土壌である可能性を突きつけている。
視聴時間は減少傾向 地方局を取り巻く厳しい経営環境
近年、民放テレビ局はインターネット広告の台頭による広告収入の減少、テレビ離れの進行という大きな構造変化に直面している。総務省の調査によれば、全年代における平日のテレビ視聴時間は2023年時点で135分と、過去10年間で約2割減少している。
テレビ局の主な収入源であるCM収入はネット広告に押される形で年々減少し、特に地方局では「放送外収入」を多角化できていないところも多い。NSTのようにCM収入への依存度が高い局では、営業活動におけるプレッシャーがより強まる傾向がある。
系列局への波及懸念も 業界は体質改善の岐路に立つ
全国にはフジテレビ系列のFNS局が28社ある。NST新潟総合テレビはその一角に過ぎないが、今回の不正は「一局だけの問題」と簡単に片付けられるものではない。匿名証言が示すように、不透明な慣習が現場に根づいていたことは否定できず、それが長期にわたり組織内で見過ごされていたとすれば、経営と現場の間に構造的な乖離があったとも言える。
他の系列局では本当に同様の事例はないのか。CMというテレビ局の収益の要が、業界全体で「見えにくい慣習」に依存していないか。視聴者と広告主の信頼を背負うメディアだからこそ、その足元をあらためて見つめるべき時に来ている。
フジテレビ系列の全局が、今回の事案を対岸の火事とせず、透明性と説明責任を徹底することが求められる。これが会社の文化として広がっていた――そんな最悪の構図が明らかにならないことを願いたい。