
アフリカ中部のコンゴ民主共和国(DRC)で、原因不明の病が急速に広がり、2月24日までに419人が感染し、53人が死亡する事態となっている。
患者の多くは発症から48時間以内に死亡しており、感染の急激な拡大と高い致死率が深刻な懸念を生んでいる。感染の発端とされるのは、ボロコ村で3人の子供がコウモリの死骸を食べた後に死亡したケースだ。これがさらなる感染拡大につながった可能性が指摘されている。
エボラではないー未知のウイルスか?
世界保健機関(WHO)は、感染者の血液サンプルを検査し、エボラウイルスやマールブルグウイルスの陰性を確認した。しかし、依然として原因の特定には至っていない。2024年12月にも同国南西部で原因不明のインフルエンザ様症状が拡大し、79人が死亡している。その際、調査の結果、重症化したマラリアの可能性が指摘された。
今回の感染拡大においても、一部の検体からマラリア陽性反応が確認されているが、出血や急激な悪化を伴う症状は通常のマラリアとは異なる。そのため、これまでにない新種のウイルスや細菌が関与している可能性も排除できない。
野生動物との接触がもたらすリスク
コンゴ民主共和国では、食糧不足や文化的背景から、野生動物を食する習慣が根強く残っている。しかし、これが未知のウイルス感染の引き金となるケースは過去にも報告されている。特にエボラ出血熱の発生源の一つは、感染した動物との接触であるとされる。今回も、最初に感染したとされる3人の子供がコウモリの死骸を食べたことで、未知の病原体が人間に広がった可能性が指摘されている。
また、WHOの報告によれば、アフリカ全体で動物由来の感染症(ズーノーシス)が過去10年間で60%増加している。その背景には環境破壊や気候変動の影響があるとされる。森林伐採が進むことで野生動物と人間の接触機会が増え、新たな感染症が発生しやすい環境になっている。
政情不安と医療体制の脆弱さ
コンゴ民主共和国では、長年にわたり政情不安が続き、医療体制の整備が遅れている。同国ではルワンダが支援する反政府勢力との武力衝突が続いており、医療インフラが脆弱な状態にある。ワクチン接種率が低く、マラリアや肺炎などの既存の感染症も蔓延しやすい環境が整っている。こうした背景が、今回の感染症の高い致死率につながっている可能性がある。
WHOは感染拡大を抑えるための対応を進めているものの、原因特定が難航していることから、今後さらに感染が広がる可能性が懸念される。特に、2024年にはエムポックス(旧サル痘)の新たな流行がアフリカを中心に広がり、1万4000人以上が感染し、524人が死亡したケースがあった。このように、アフリカで発生した感染症が世界的な脅威となる例は過去にもあり、今回の原因不明の病についても、早期の国際的な対応が求められている。
世界的流行の可能性は?
今回の病の拡大が国内にとどまるのか、それとも世界的な広がりを見せるのかが、今後の重要な焦点となる。過去の事例を振り返ると、アフリカで発生した感染症が国際的な脅威となることは珍しくない。例えば、2014年のエボラ出血熱流行では、西アフリカからアメリカやヨーロッパに感染が拡大し、大規模な対策が講じられた。
今回の感染拡大においても、航空機の移動や貿易ルートを通じて他国へ広がるリスクがある。特に、周辺諸国への感染が確認された場合、世界的な流行に発展する可能性は否定できない。すでにWHOは首都キンシャサの国立生物医学研究所に検体を送っており、より詳細な分析が行われる予定だ。
今後の対策と求められる国際協力
現時点で明確な結論は出ていないものの、新たな感染症の発生リスクが高まっていることは確かである。感染拡大を防ぐためには、迅速な診断技術の確立とともに、医療体制の強化が不可欠だ。WHOは感染拡大の抑制に向け、現地の医療機関と連携して対策を進めているが、国際社会全体の支援が求められる。
また、今回の感染症の発生が単なる地域的な問題にとどまるのか、世界的なリスクとなるのかを見極めるためにも、各国の保健当局が連携し、警戒を強める必要がある。