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人手不足の製造業を救うのは、工場のフィットネス化、だ!

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最近の経済現象をゆる~やかに切り、「通説」をナナメに読み解く連載の第3回目!

あらゆる分野で人材が不足している。

帝国データバンクによると、2023年の上半期の「人手不足による倒産」は、110件となり、半年ベースでは過去最高となった。目立ったのが建設業と運輸・通信業である。前者は、現場職人の不足もさることながら施工を管理する有資格者の不足が響いた。
後者は慢性的なドライバー不足に悩む運輸業界で、2024年からは残業時間の規制が強化されるため、ドライバー確保が難しいと判断した中小が倒産、あるいは大手の買収の対象となった。
現状運輸業界は、このまま何も対策を打たなければ、2024年以降荷物の14%が指定日までに届かなくなると言われる。
こうした事態を受け、政府はトラックの高速道路での速度制限を現行の80km/hから100km/hに引き上げる検討を始めているが、どうなんだろうか。何十トンもの巨体がプラス20km/hとなるとそのエネルギー総量はものすごいことになり、重大事故の多発が懸念される。

一方岸田政権は、退職金に対する課税比率の見直しを掲げており、20年を超えて優遇していた退職金の控除額を減額させる予定だ。これにより日本型労働慣習である終身雇用がさらに変化すると予想され、魅力のない企業はますます人手不足に陥ることになりそうだ。

フリーランス新法で企業側の人材流出がさらに加速か!?

加えて来年度から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス新法)」が施行される。従来、企業などの仕事を請け負ってきたフリーランス=個人事業主は、契約面などで不利に立たされることが多く、契約書のない曖昧な仕事の発注や、それに伴う一方的な契約解除や未払いに遭うことが多かった。

この新法では、仕事の受発注があった場合、原則フリーランスと企業が契約書を取り交わすことになっており、かつ仕事が終了したら60日以内に報酬を支払うことになった。つまり、プログラマーやエンジニアなど、能力のある人材が独立して仕事ができる環境が整い、企業側の人材流出がさらに加速する可能性が出てきた。

こうした労働状況を受け、市場を拡大しているのが、人材派遣や転職サービスなどを手掛ける人材ビジネス業界である。

人の流動性が増せば増すほど人材ビジネスが儲かる

調査会社の矢野経済研究所によると、人材ビジネス業界(人材派遣業、人材紹介業、再就職支援業)の市場は2017年度の5兆7729億円から右肩上がりで拡大し、2022年度(見込み)は初の10兆円超えの、10兆1560億円となる模様だ。

人材の流動化で優れた人材が適切な報酬をもらうことは、良き傾向である。良き傾向だけども懸念されるのは、その会社で培った暗黙知がその人の流出により継承されずに寸断されてしまうことだ。とくに長年現場で活躍した職人やエンジニアが離れてしまうとその傾向は強まる。
無論、暗黙知を残せなかったことは、その優れた人材を残せなかった企業側の落ち度となる。だが一方で長年勤めた職人やエンジニアが新しい場で同じようにその力量を発揮できるとは限らない。

そこに人材ビジネスが入り込む余地があるわけだが、人材紹介業は人が会社を移るたびに手数料が入る。従って仮に紹介した先が転職者になじまなければ、また新たな企業を紹介すればいいだけ、と言ってしまうのはいささか失礼な気がするが、手数料ビジネスの核心でもある。

人材紹介会社に手数料を払うなら、自社の魅力化に投資を

ならば、いずれ何割かが離れていくのがわかっているのであれば、採用コストを下げる手があってもいいのではと考えるワタシはおかしいだろうか。

つまり人材紹介会社やヘッドハンティング会社に高い報酬を出すより、下げた採用コストを会社の魅力化に回すほうが、結果、いい人材が残っていく可能性が高いと思うのである。

「その魅力をつくっていくのが難しいのだ」
そんな声も上がろう。

しかし、しかしである。自社の魅力を的確に他人(ひと)に伝えられる経営トップは日本に何人いるだろうか。まして語れる社員は何人いるだろうか。そういう努力を企業人はしてきただろうか。

あるカリスマビジネス講師は講演で「日本中の居酒屋に行っているが、そこで聞こえるのはほぼ同じ。会社の愚痴と不満」と力強く語っていた。

日本人は謙虚だから、あまり自分や自社を自慢しない(最近はちょっと違ってきてるが……)。だとしても自社や職場について愚痴ばかりというのは、希望を持って入った社員に失礼だと思う。

人材紹介会社に手数料を払うなら、自社の魅力化に投資を

魅力化は難しくはない。魅力は幸福の感じ方と似ている。

つまり不幸だ、嫌だと思うことを減らしていけば相対的に魅力が上がってくる。もちろん何が仕事や会社の魅力なのか、ツボにハマっているのかは、人によって違ってくる。

ワタシは、ものづくりの現場を取材することが多いが、あるオフィス家具の工場を訪れた際、現場を案内していた工場長がある女性を指し、「あの娘、大学で航空宇宙工学を学んでいるんだ。この仕事が楽しいと言っている」と嬉しそうに語っていたのが印象的だった。

そしてその夜。ふらっと寄った10万人規模の地方都市のバーで聞こえてきたのは、男女数人の若者の声だった。

どうやらそのグループは、ある女性に転職先として地元の工場を案内した帰りのようだった。

案内された女性曰く、「工場があんなに大きな機械で動いていて、それを文字盤がいっぱいのコンピュータで動かしているなんて思わなかった」と。

同行した先輩らしき女性が、「◯◯ちゃん、ずっと凄い、カッコイイって言ってたね」と。

すかさず、その工場勤務らしい男性が「じゃ、◯◯ちゃん、気に入ってくれたんだ」――。

言うまでもなく、日本のものづくりの現場の人材不足は恒常的だ。経済産業省が行った2017年12月の調査では、製造業の94%が「人材不足が顕在化している」の回答があった。

しかしワタシが見る限り、ちょっとした工夫で仕事の定着率、応募者数はまだまだ上げられると考える。

都心オフィス並みに変わっていく工場のトイレ、食堂、休憩室

たとえば、食事。いまは自前で食堂を持つ企業は少なくなっているが、それでも複数の給食業者を入れてメニューを増やしているメーカーは多い。しかも野菜中心、塩分や糖分控え目など、健康に気を使ったメニューが増えている。

また食堂や休憩室にソファやカウンター式のカフェ、多様なベンディングマシンなどを備える企業も増えつつある。

もう1つの変化はトイレ、特に女性用トイレだ。いまやどの工場の現場で女性の姿を見ることは当たり前になった。かつては女性用トイレがない大企業の工場も少なくなかったがこの10年ほどで大きく変わってきた。広くきれいになっただけでなく、女性向けのパウダールームが常設される工場も増えている。

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ほかにもユニフォームのデザインも定着率、応募者数を左右する。このあたりは、学生服のデザインで変わる私立の高校や中学の倍率に似ている。

言われてみれば当たり前のことだ。居心地のいい場所で気に入った服装で仕事ができれば、会社が好きになり、仕事も好きになっていく。人間関係もよりよくなっていく。

またある飲料メーカーでは休憩室に何台も豪華なマッサージチェアが置かれていた。

結局は工場というものづくりの現場をどう捉えるか、にあると思う。

「人集めのポイントは工場のライザップ化」と語ったオムロン工場長

唸らされたのは、電子機器やヘルスケア製品を手掛けるオムロンの工場を訪ねた時だった。工場長のA氏は、工場をサステイナブルに成長させていく人材戦略のポイントとして挙げたのは、フィットネスクラブの「ライザップ」だった。

曰く、「工場をフィットネスジムにしたいんですよ。つまり、仕事をして帰るときに、来たときより健康になっていればいいんです。働いたあと血流が良くなったり、筋力がついていればいい。オムロンでは、ヘルスケア機器をつくっているので、朝来てバイタルチェックを自動で行い、帰りにそういった数字がよりよい方向に振れていればいんです。
そのために工場内は完全自動化しない予定です。ちょっとした荷物を運んだり、体に適切な負荷がかかるようにすておく。工場で働いて健康になり、しかもお金がもらえるわけですから、人は集まるはず。そういう工場を目指したい。オムロンならできると思っています」

コロンブスの卵、ならぬ、オムロンの卵である。

アナタの工場のライバルは、ライザップ? それともディズニーランド? それとも…

いまどきのビジネスはだいたいそんな感じだ。

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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