「ソーシャルグッドな活動をしている誰か」を訪ねて、その人との雑談を通じてその活動内容や思いなどをご紹介していく「八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談」。
第5回は、「食」をテーマとした社会課題への取り組みからさらに活動を広げている松丸 里歩さんと雑談してきました。
現在は、多くの方が「エシカル就活」の共同創業者というイメージを持っているであろう松丸さん。まずはその辺りから雑談はスタートしました。
中央: 松丸 里歩(まつまる りほ)
1998年大阪生まれ。国際基督教大学卒業。食とその周辺をメインテーマとして、分野横断的にさまざまな社会課題への取り組みを実践。 現在は「エシカル就活 」を運営する株式会社アレスグッドの共同創業者、UNIVERSITY of CREATIVITY のPRESSチームメンバー、COMポスト資本主義 のポッドキャスターを中心に活動中。23年9月よりロンドン大学ゴールドスミス校 大学院に進学。再びロンドンにて「エコロジー・カルチャー・ソサエティ」を中心とした社会科学の実験に取り組む(日々となる予定)。
左: 我有 才怜(がう さいれい)
2017年メンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。2023年4月1日、メンバーズ社内に開設された「脱炭素DX研究所 」の初代所長に就任。IDEAS FOR GOODと共にWebメディア「Climate Creative 」運営中。
右: 八木橋 パチ(やぎはし ぱち)
バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャーおよびコラボレーション・ツールの展開・推進を担当。社内外で持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちとさまざまなコラボ活動を実践し、取材・発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。WORK MILLにて「八木橋パチの #混ぜなきゃ危険 」連載中。
パチ
松丸さんと我有さんはわりと古くからの知り合いなんでしょ。どんな出会いだったの? そして我有さんにとっての「松丸里歩のイメージ」ってどんな感じなの?
我有
りほちゃんとの最初の出会いは2018年の3月で、「アーバンファーマーズクラブ」という団体の設立記念イベントで、私がメンバーズに就職して東京に出てきて約1年が過ぎて、「社外にも同世代の社会人の友だちが欲しいなぁ」と思っていた頃でした。
そのイベントにりほちゃんも来ていて知り合い、その後も何度かイベントで顔を合わせました。
その後、青山の国連大学前で開催しているファーマーズマーケットの運営チームメンバーとして活動したり、「COMポスト資本主義」というポッドキャストをはじめたりするのを見ていて「気になる領域の数歩先を開拓していってる感じがして、りほちゃんカッコいいなぁ」と憧れに近い感じで見てましたね。
パチ
そっかぁ。なんだかおれの「松丸里歩のイメージ」も近いかも。
おれは青山の自由大学の「食問題を北欧式デザイン思考で解決する」ってワークショップに参加したら、そこで通訳兼ファシリテーターをやっていたのが松丸さんだったんだよね。それが2019年で最初の出会い。
そのあと「COMポスト資本主義」を聞いたらすごくおもしろくて、さらにそこから「エシカル就活」という「食」からは少し離れたサービスをスタートして…。
おれにとっても「興味を持って先に進むと、だいたいいつもそこには松丸さんがいる」って感じなんだよね。本人的にはどうなの? 自分のことを説明するときって、どう話しているの?
松丸
私、自己紹介って得意じゃないんですよね。
今お二人にお話いただいたように、いろんなことを同時進行的にやってきているので、そのとき話している相手の興味に合わせて、その部分を拡張して伝えることが多いですね。
たとえば、アレスグッドのことを知っている方であれば、エシカル就活のプロダクト・マネージャーとしての自分のことを話すことが多いし、UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)のことを知っている相手であれば、学びのキュレーターとしての側面を中心に話すことが多い感じです。
2019年のワークショップでの松丸さん | 自由大学【講義レポート】食の業界にクリエイティブな変化を起こす「Idea to Action」 より
パチ
これはおれの松丸さんに対する勝手な印象なんだけど、松丸さんってたいてい「個人と組織の狭間」にいようとしていない? ちょっと抽象的な言い方だけど、個人として組織にアプローチしたり、組織に染まり過ぎずに組織内個人として活動したり。
松丸
あー、なるほど。「個人と組織の狭間」っておもしろいですね、言われてみればたしかにそういうところはあると思います。
私は大学生時代、日本発NPO「 TABLE FOR TWO 」の活動支援をする学生団体の幹部をやっていて、大学卒業後もいわゆる「就社」はせずに、最初から複業をしたりとフレキシブルな形で働き始めたんですよね。
そこには、ずっと同じところで同じことをしていていいんだっけ? という考え方がベースにある気がします。
2017年の学生団体での一コマ | 【ごちそうさまパーティーを開催しました。】 – TABLE FOR TWO University Association より
パチの心の声
このあと、仕事観や職業観についてしばらく3人でそれぞれの特徴的な部分を語り合いました。 我有さんいわく「りほちゃんはプログレッシブ」ということなのですが、おれから見ると、松丸さんは「自分の存在意義をそこで感じられるか」ということに強いこだわりがあるタイプのような気もします。 「成長し続けなければならない」という自分自身へのプレッシャーというか、強い自己制約のようなものが根底にあるのかな? ちょっとストレートな質問をぶつけてみました。
パチ
もう来週からロンドンの大学院での新生活が始まるってことだけど、松丸さんの中ではこれは「新しい自分への旅立ち」なの? それともエシカル就活やUoCというこれまでの活動基盤の延長上に乗っかるものなの?
別の言い方で質問すると、これまでやってきた仕事は精算して大学院生に専念するの?
松丸
…難しい質問ですね。でも、両方かな。
社会的インパクトを大きくするために、ここ3年ほどエシカル就活というサービスにすごくコミットして活動して、スタートアップの成長曲線にしっかりと乗せることができているし、実際にサービスとしても良い形で育ってきていると自分でも思っています。
サービスの成長と同時に自分自身も成長したという実感も持てているし。
ただ、今後の人生の時間の使い方として「これだけでいいんだっけ?」という感覚も強くあって。仕事は精算はしませんが、量的にはセーブして、その多くを後任に引き継いで行きます。
我有
エシカル就活は社会課題を解決したいと考え活動してきた学生が、その考え方を捨てることなく就活し、働けるというすごく良いサービスですよね。
でも、りほちゃんがこれまでやってきた「食の社会課題」とは一線を画すところが少しあるかなって思ってました。「これだけでいいんだっけ」っていうのはそういう部分ですか?
松丸
んー、それもあるかもですけど、でもそれ以上に、「自分の感性」を少し生かしきれていないまま暮らしてしまっている感じの方が強いかな。
もちろん、資本主義を敵対視するようなやり方でばかり進めていては、うまく進むものすらうまく進まなくなってしまうとは思います。
とはいえ、あまりにそういう「既存の社会のルール」を前提とした行動ばかりを取るのは、私にはちょっと向いていないというか…。もう少し自分の強みをしっかりと発揮できていることを感じたいんですよね。
パチ
やっぱりそうなんだね。嫌がられるかもしれないけど、それはおれにちょっと似ているかも。
おれも、自分がその場できちんと価値を提供できていることが感じられないと、なんだか居心地が悪くなってきちゃうところがあるんだよね。
なんだか、ちょっと前回のソーシャルグッド雑談の、『わたしの出番も終わったみたいですね。わたしは去ります』と伝えたら、『なに言っとーとか! 自分で穴掘って埋まっとーよ』って怒られたっていうUMITO Partnersのかずみさんの話を思い出しちゃった。
参考: UMITO Partners 藤居 料実さん |ひと足さきに、ほしい未来へ – 八木橋パチの #ソーシャルグッド雑談
今回の雑談は、松丸さんと我有さんとの出会いの場だった渋谷のcafé 1886 at Bosch で行いました。この写真は2018年3月のイベントのときに撮られたものです。
パチの心の声
この後、UMITO Partnersのかずみさんとの話から、先日かずみさんや我有さんと一緒に開催した「 B Corp認証のこれまでとこれから 」というイベントの話になり、その中で1つの話題となった「いい会社の定義や指標を決めることの意義や意味合いについて」の話しへと進んでいきました。
パチ
エシカル就活はすごくいいサービスだって話がさっき我有さんから出たけど、おれもその通りだなって思っていて。
ただ一方で、「エシカルでいい会社だから就職したのに、実態は全然違った…」ということがもし起きてしまったときには、学生に与えるショックは相当大きいんだろうなとも思うんだよね。
その点は結構な責任を背負っていると思うんだ。
我有
「何を持っていい会社と評価するか」って、アレスグッド社内では明確になっているんですか? 何か、採点基準のようなものを用いたりしているとか?
松丸
何度かそういう議論は起きているんですけど、一社一社データを見たり担当者さんと話をしたりして契約や掲載をするかしないかを決めています。
パチ
難しい問題だよね。はたして、何を持っていい会社を定義するのか。その定義を誰が決めるのか。そしてその定義は点数に置き換えられるものなのか。
こないだのB Corpイベントでも少し話したけど、B Corpのように点数制度を用いる方法もあれば、鎌倉投信のように基準は決めるけれど点数制にはせず、そこは自分たちの主観で決めるという方法もある。
どちらにも一長一短があると思う。
我有
先日、「システム移行を前提とした循環デザイン」をテーマにした、 Circular Design Praxis Symposium 2023 という2日間のシンポジウムに参加したんです。
今の話を聞いていて、そのときのディスカッションを思い出しました。すごく刺激的だったけど、同時にどう社会に実装していくことができるのか、すごく難しいなと感じることも多い時間でした。
たとえば、循環デザインやサーキュラーシステムをやみくもに「良いもの」として受け止めていいのか? という問いがありました。
従来の資本主義の「大量生産・大量消費・大量廃棄」という流れの最後に「大量循環」を加えて、それを「サーキュラーデザイン」と呼んだところで本質的に何が変わると言うのか—— そんなことが語られていました。
松丸
それは本当に難しいですね。でも、とても本質的な問いだと思います。 大量消費社会の根底にあるのは「南北問題」、最近では「グローバルサウス」と呼ばれる社会課題の根幹がありますよね。
簡単に言えば、経済的に豊かな先進国が、その多くが南半球に位置している新興国や発展途上国を搾取の対象としているという社会構造です。
たしかにサーキュラーシステムが実現したとしても、その構図を「良いもの」と主観的に決めるのが豊かな先進国ばかりで、それを実装してもあい変わらず南の国々や社会的弱者が搾取され続けてしまうとしたら、それは本当の意味の解決ではないですよね。
社会からゴミは減るかもしれないけど、人びとの生きづらさは変わることがないままで。
パチの心の声
この後、最近自分が改めて感じている社会課題に関する取り組みの難しさについて松丸さんと我有さんに相談させてもらいました。 おれが今一番注力しているのは、移民・難民や障がい者の社会や職場におけるインクルージョンなのですが、とりわけ困難の度合いが大きい、極端なニーズや極端な環境に置かれてしまっている彼彼女らとコラボレーションをしていると、普段いかに自分の発想回路が「自分の常識に囚われているか」を感じさせられます。 こうした狭い常識をリセットするには、まったく異なる環境に身を置くことが有効ですよね。たとえば日本以外の国でどっぷり過ごすとか。
パチ
松丸さんはもう来週にはロンドンの大学院に行っちゃうんだよね。予定ではどれくらい向こうにいるの?
松丸
学校自体は1年間ですね。でもそのあとの予定は…分からないですね。白紙というか、その後はあらゆる可能性があるのかなと思っています。
我有
やっぱりりほちゃんはプログレッシブですね(笑)。次に会えるのは日本じゃなさそう。
パチ
ロンドン大学ゴールドスミス校は、今回初めてじゃないんだよね? どんな大学で何を学ぶの?
松丸
はい。ICU(国際基督教大学)の3回生時代に1年間交換留学で行っていました。今回は大学院で「 エコロジー・カルチャー&ソサエティ(EC&S) 」という修士課程で研究をする予定です。
ちょっと分かりづらいと思うんですが、社会学を基盤にしながら、「マルチスピーシーズ民族誌」などの学際的なアプローチで、EC&Sを横断する社会実験をどんどん実践していくことになると思います。
パチ
おもしろそうだなぁ、羨ましいです。とはいえ、大変だろうけど頑張ってね。 おれも来月から2カ月ほどヨーロッパに滞在予定なんで、その間にぜひロンドンで会おうよ。大学を案内して!
松丸
パチ
いや。ペットシッターをやりに行くの。まあその話はロンドンで今度くわしく説明するよ!
さて、次回は誰に会いに行こうかな? もしかしたらヨーロッパからになるかも?? お楽しみに〜。