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朝ドラ「風、薫る」評価が割れる理由 視聴率低迷と“朝に合わない違和感”の正体

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風、薫る
朝ドラ「風、薫る」公式 インスタグラムより

朝のテレビには、独特の役割がある。ニュースでもバラエティでもない、「一日のはじまりに流れる物語」としての機能だ。NHK連続テレビ小説「風、薫る」は、その時間帯において異質とも言える重さをまとい、放送開始直後から視聴率の苦戦が伝えられている。ただ、この現象は単なる人気の有無では説明しきれない。そこには、「朝ドラに何を求めるのか」という視聴者の感情とのズレが横たわっている。本作はなぜ戸惑いを生み、どこに巻き返しの余地を残しているのか。

 

 

朝に流れる物語としての違和感

朝8時。食卓にはまだ湯気が立ち、出かける支度の音が混ざる。そんな時間に流れる朝ドラは、ただのドラマではない。視聴者にとっては「生活の一部」であり、気持ちのスイッチでもある。

その意味で「風、薫る」は、最初から少し違う空気をまとっている。舞台は明治初期。乾いた風が吹き、土埃が舞い、画面には陰影が濃く落ちる。コレラの流行、家族の死、貧困や差別。物語は容赦なく現実を突きつけてくる。

もちろん、その描写は誠実だ。時代をきちんと描こうとすれば、そこに明るさばかりを並べることはできない。ただ、朝という時間帯において、その誠実さはそのまま視聴者の負荷にもなる。

「つらい」「重い」という声は、作品の質そのものというより、“朝に見る感情”とのズレから生まれているように見える。

 

Wヒロインがもたらす“感情の分散”

本作のもう一つの特徴は、見上愛と上坂樹里によるダブルヒロイン体制にある。

栃木で生きるりんと、東京で育った直美。異なる場所で、それぞれの苦しみを抱える二人の人生が並行して描かれる。この構造は、物語としては豊かな対比を生む。しかし、朝ドラというフォーマットにおいては、少し難しさも伴う。

朝ドラは本来、一人の主人公に気持ちを預け、その日その日の小さな変化を追っていくことで、自然と物語に入り込める設計になっている。ところが今作では、視点が切り替わるたびに、視聴者は感情の置き場を探し直さなければならない。

短い15分の中でその作業が繰り返されることで、知らず知らずのうちに疲れが蓄積する。結果として、「忙しい」「入り込みにくい」という印象が残る。

ただし、この構造は決して弱点だけではない。二人が出会い、同じ場所で同じ時間を生き始めたとき、分散していた感情が一つに収束する。その瞬間に、物語は一気に加速する可能性を秘めている。

 

速すぎる展開と“感情の余白”

物語の進み方もまた、視聴者の戸惑いを生んでいる。りんの人生は、結婚し、出産し、子どもが成長し、家庭が揺らぐまでが、あっという間に描かれていく。

出来事だけを追えば劇的だ。しかし、その間にあるはずの迷いや揺らぎに触れる時間が少ないため、視聴者の感情が追いつかない。泣くべき場面で涙がにじまず、怒るべき場面で怒りが深まらない。その違和感が、「ダイジェストのようだ」という印象につながっている。

ただ、この速さもまた意図の一部だろう。物語の核心である「二人が看護の道で出会う」地点までを、早くたどり着くための圧縮。その目的を考えれば、今の急流のような展開は、助走とも言える。

重要なのは、この助走が終わったあとに、どれだけ丁寧に“立ち止まる時間”を描けるかだ。視聴者が呼吸を合わせられる場面が増えたとき、作品の印象は大きく変わる。

 

“朝ドラらしさ”ではなく、“朝に合うかどうか”

ここで改めて考えたいのが、「朝ドラらしさ」とは何かという点だ。

これまで評価されてきた作品の多くは、明るさや前向きさを持ち、見終わったあとに少しだけ気持ちが軽くなる設計になっていた。たとえばなつぞらや、近年の作品群は、困難の中にもユーモアや温もりを織り込んでいた。

一方で「風、薫る」は、その“軽さ”をあえて削ぎ落としている。理不尽な時代の中で、女性が自立に向かうまでの過程を、逃げずに描こうとしているからだ。

その姿勢は評価されるべきものだが、同時に問われるのは、「それが朝に流れる意味」である。

朝ドラの評価は、作品単体の完成度だけでは決まらない。朝という生活のリズムの中で、どんな感情を残すのか。その一点で、受け止められ方は大きく変わる。

つまり本作の苦戦は、「出来が悪い」という単純な話ではなく、“朝の感情と噛み合っていない時間帯の問題”としても捉えられる。

 

それでも、この作品には伸びしろがある

現時点での評価は決して高いとは言えない。それでも、コメント欄やSNSには「ここからが本番」という声が確実に存在する。

実際、物語はようやく二人のヒロインが出会う段階に差しかかっている。ここから看護学校、そして現場へと舞台が移れば、物語の軸はより明確になる。

苦しみの連続だった序盤があるからこそ、誰かを救う側に回る意味が強くなる。暗さがあるからこそ、光が際立つ。その構造が機能し始めたとき、「風、薫る」は違う表情を見せるはずだ。

朝の時間にふさわしい“回復の物語”へと転じられるかどうか。その一点が、今後の評価を大きく左右する。

 

“朝に寄り添う物語”になれるかが鍵になる

「風、薫る」は、従来の朝ドラの心地よさとは少し異なる方向を選んだ作品だ。その結果として、視聴者の戸惑いが数字として表れている。

しかし、その戸惑いは同時に、この作品がまだ本来の姿を見せ切っていないことの裏返しでもある。二人のヒロインが同じ場所に立ち、同じ目線で未来を見始めたとき、物語はようやく一つの流れになる。

朝にふさわしい感情とは何か。その問いにどう応えるのか。「風、薫る」は今、その分岐点に立っている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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