
ナフサとは何か 生活を支える石油化学の基盤原料
ナフサは原油を精製する過程で得られる軽質留分で、粗製ガソリンとも呼ばれる液体である。沸点がおおよそ30度から180度程度の炭化水素混合物で、石油化学工業の出発原料として極めて重要だ。原油を常圧蒸留塔で加熱し、沸点の違いで分離する中で、ナフサはLPGに次ぐ軽い層として取り出される。これを高温で分解(スチームクラッキング)すると、エチレンやプロピレン、ベンゼンなどの基礎化学品が生まれる。
さらに加工され、プラスチック、合成繊維、塗料、接着剤、洗剤など幅広い製品の原料となる。日本では国内使用ナフサの約4割が中東由来で、国産分と合わせると実質的な中東依存度が8割を超えるとされる。ナフサは石油化学のコメとも呼ばれ、目に見えない部分で国民生活や産業を支えている。
中東情勢の緊迫化 ホルムズ海峡封鎖がナフサ供給を直撃
2026年2月末、米国とイスラエルのイラン攻撃を受け、ホルムズ海峡が事実上封鎖された。同海峡は世界原油輸送の約2割が通過する要衝で、日本は原油輸入の約9割を中東に依存する。これによりナフサの輸入ルートが寸断され、価格が高騰。
化学メーカー各社はエチレン設備の減産を発表した。国内ナフサ在庫は平時で約20日分程度と少なく、国家備蓄原油を精製してもナフサ比率は約1割に過ぎないため、供給不安が急速に高まった。経済産業省によると、4月中東以外からのナフサ到着量は平時の倍となる90万キロリットルを見込む。米国30万キロリットルに加え、ペルー、アルジェリア、豪州、インドなどからの代替調達を進めているが、輸送距離が延びコスト増は避けられない。
住宅業界への影響 断熱材40%値上げ 塗料シンナー最大80%高 新築購入ハードル急上昇
ナフサ由来の製品は住宅建材の多くを占める。断熱材、塩化ビニル配管、塗料、床材、サッシなどが該当し、供給不安が値上げや出荷制限として表面化した。
カネカやデュポン・スタイロなどはポリスチレンフォームなどの断熱材を4月から5月出荷分で40%値上げすると発表。省エネ住宅(ZEH)で必須の素材だ。信越化学工業や積水化学工業などは塩化ビニル樹脂を1キロあたり30円から55円以上引き上げ、水道管や床材に影響する。
建築塗料メーカーからはシンナー製品を30%から80%値上げする通達が出され、平時以上の注文を制限する動きも見られる。工務店からは見積もり単価の上乗せ、工期遅延、新規受注の慎重化の声が相次ぐ。過去のウッドショックを超える広範な打撃が懸念される。
新築住宅市場は民間住宅投資で約16兆円規模。関連産業を含めると20兆円を超え、着工減少は建設業雇用や地域経済に波及する恐れがある。すでに2025年の着工戸数は約74万戸と低水準で、ナフサ危機によるコスト増は新築購入のハードルをさらに押し上げる。
総額が数百万円単位で上昇する可能性が高く、予算オーバーやグレードダウンを迫られるケースが増加するとみられる。金利上昇や省エネ基準義務化の影響も重なり、一次取得者を中心に買え控えが進むリスクが指摘されている。
プラスチック製品・日用品への影響 すでに値上げと供給制限が現実化
ナフサ危機の影響は住宅にとどまらず、プラスチック製品全般や日用品にも広がり始めている。
中間材料段階での値上げが相次ぎ、食品包装材や容器、洗剤ボトルなどでコスト増が確認されている。積水化成品工業は食品トレー・カップ麺容器の材料を4月21日出荷分から1キロあたり120円値上げ。三菱ケミカルグループなどは酢酸ビニールモノマーやポリビニールアルコール樹脂を大幅値上げした。
山芳製菓のわさビーフ生産一時停止など、具体的な事例も出ている。家計への本格的な影響はサプライチェーンのタイムラグで夏以降とされるが、シャンプー・洗剤ボトル、食品ラップ、ゴミ袋、ペットボトル容器などで5〜15%程度の値上げ圧力が予想される。パニック購買は逆効果との指摘もあり、冷静な対応が求められている。
政府の対応 医療物資確保へ対策本部設置 代替調達を加速
政府は3月30日、赤沢亮正経済産業相を中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣に任命。31日には厚生労働省と連携し、石油由来医療物資の安定供給に向けた対策本部を正式に立ち上げた。対象は透析回路、手術用プラスチック、点滴袋、医療用手袋、エプロンなど。
サプライチェーン情報の集約、企業間の融通支援、中東以外からの代替調達を急ぐ。高市早苗首相は医療機器や医療物資の供給に万が一にも支障があってはならないと強調。アジア諸国との協力も視野に入れる。木原稔官房長官は現時点でただちに需給上の問題は生じていないとし、在庫約2カ月分に加え代替調達でさらに2カ月分を確保可能と説明。
原油国家備蓄は200日超と諸外国を上回る水準だ。ただし、医療分野を最優先とする方針から、住宅向け建材や一般プラスチック製品は相対的に後回しになる可能性が高い。政府は中小企業支援や国家備蓄放出の拡大も検討している。
今後の見通しと課題 長期化で家計・経済への波及懸念 新築市場縮小リスク
短期では4月から5月にかけて建材値上げと出荷制限が本格化。
新築やリフォームのコストアップは避けられず、工務店や家計の負担増大が予想される。長期化すればプラスチック製品全般や日用品への影響も現実味を帯び、物価上昇圧力が強まる。課題は調達の多角化とサプライチェーンの強靭化だ。
迂回航路の採用でコストが増大する中、国内精製能力の制約や国際的な争奪戦も懸念される。住宅購入を検討する場合は早期の工務店相談や補助金活用を検討すべきだろう。新築価格の高止まりが続けば、中古住宅やリフォームへのシフトが加速する可能性もある。
ナフサ危機は単なるエネルギー問題ではなく、生活基盤全体を揺るがす課題である。政府の迅速な対応と企業努力が、影響の最小化につながるか注目される。



