
スクウェア・エニックスが「ドラゴンクエストX オンライン」に、Googleの生成AI Gemini を活用した対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」を導入する方針を明らかにした。「ドラゴンクエストX 春祭り 2026」で「おしゃべりスラミィ」を開発中と公表しており、Google Cloudとの共同開発であること、会話の積み重ねや冒険記録に応じて関係性が深まる設計であることを案内している。プレーヤーがチャットで話しかけると、スラミィが音声を自動生成して応答する仕組みだという。
ドラクエ10の新機能は「AI搭載NPC」ではなく「相棒」だった
今回の発表で重要なのは、単にゲーム内キャラクターへ生成AIを載せた、という話ではない。複数の報道では、企画の出発点として「村人やNPCにAIを入れるのではなく、一緒に遊ぶ友達や仲間としてのほうがよい」という発想が共有されていたと伝えられている。つまりスクエニは、AIを世界の背景装置ではなく、プレーヤーに寄り添う“相棒”として置こうとしている。これは生成AIをゲームへ入れるときの、かなり慎重で賢い線引きだ。
公式情報でもスラミィは「あなたに寄り添う対話型AIバディ」と位置づけられている。性格診断を経て自分だけの個体が生まれ、会話を重ねるほど親密度が増し、プレーヤーの行動を見ながらおすすめコンテンツなどの助言もしてくれるという。新規ユーザーが膨大なコンテンツの前で迷いやすい長寿MMORPGにおいて、攻略サイトでもフレンドでもない第三の導線をつくる狙いが見える。
なぜ今、ドラクエ10に生成AIなのか
「ドラゴンクエストX オンライン」は2026年8月2日で正式サービス開始14周年を迎える長寿タイトルで、現在も月間数十万規模のプレーヤーが遊んでいると報じられている。長く続くゲームほど、既存ユーザーには蓄積が魅力になる一方、新規復帰勢には“どこから手を付ければいいのか分からない”壁が高くなる。今回のAIバディは、その壁を人手だけに頼らず崩すための手段とみるのが自然である。
ここにGoogle Geminiを組み合わせる意味も大きい。生成AIは、決め打ちの定型会話よりも、個々の文脈に応じた返答や案内を返しやすい。ゲーム運営から見れば、全員に同じチュートリアルを押しつけるより、迷っている人にだけ自然に声をかける仕組みのほうが離脱防止につながりやすい。報道ベースでは、スラミィの側からプレーヤーの特定行動をきっかけに話しかける機能も想定されており、AIが“相談に答えるだけ”ではなく、“継続率を支える接客役”に近づいていることが分かる。
期待が大きい一方、ドラクエだからこそ問われること
ただし、この試みは歓迎一色では終わらなそうだ。ドラクエは、堀井雄二のテキスト、鳥山明のデザイン、すぎやまこういちの音楽が築いた“手触り”への信頼が極めて強いシリーズだ。そこへ生成AIが入るとき、ユーザーがまず気にするのは便利さよりも「ドラクエらしさが壊れないか」である。今回の設計がNPC総入れ替えではなく、あくまで相棒機能に限定されているのは、この警戒感を見越した判断とも読める。
もう一つの焦点は、会話の質と安全性だ。生成AIは文脈理解に強い一方、不適切応答や世界観とのズレ、同じ質問へのブレといった問題を完全には消せない。とくにオンラインゲームでは、没入感を壊す返答や、年齢層の広いユーザーに不向きな応答は致命傷になりうる。だから今回の成否は、AIを積んだこと自体ではなく、どこまで“ドラクエの言葉遣い”として調律できるかにかかっている。これはゲーム会社のAI導入全般にも通じる論点である。
スクエニとGoogleが示したのは「ゲーム×生成AI」の現実解
生成AIをゲームへ入れる話は、これまで派手な未来像ばかりが先行しがちだった。しかし今回スクエニが出してきたのは、世界そのものを丸ごとAI化する構想ではない。長寿オンラインゲームの案内役、相談役、愛着形成装置としてAIを置くという、かなり実務的な解である。巨大な夢を語るより先に、いまの運営課題へ効く場所に載せる。その意味で「おしゃべりスラミィ」は、生成AI時代のゲーム開発がようやく地に足をつけ始めたことを示す象徴になりそうだ。
ドラクエ10のユーザーにとっては、新しい仲間が増える話であると同時に、スクエニにとっては長寿IPをどう延命し、どう次世代化するかの実験でもある。もしこの仕組みが定着すれば、今後は他のMMORPGや運営型ゲームでも、攻略支援、復帰導線、コミュニケーション補助としてのAIバディが一気に広がる可能性がある。ドラクエ10へのGemini搭載は、単なる話題作りではなく、日本のゲーム会社が生成AIを“使える場所から使い始めた”転換点として見るべきニュースといえる。



